前回(2022-10-09)は近似式を用いて1価の弱酸のpHを求めました。近似法は「ケース分け」⇒「近似式の作成」⇒「結果の算出と確認」といった手順を踏む必要があり、面倒です。今回は表計算ソフト(エクセル)を利用して「二分法」により1価の弱酸の問題を解きます。エクセルで事前に「二分法」表を作成しておくと、この表に定数を入力することにより即座に答えを出すことが可能となります。
<<二分法>>
「二分法」は、関数が単調増加あるいは単調減少する場合、解を含む区間の中間点を求める操作を繰り返すことによって方程式を解く方法です。
<二分法の関係式>
1価の弱酸(HA)のpHを求めるときの関係式は次の通りです。
Ka = [H][A]/[HA]
Kw = [H][OH]
Ca = [A]+[HA] (物質バランス式)
[H] = [OH]+[A] (電荷バランス式)
1価の弱酸(HA)の電荷バランス式から導かれる次の関数Qを考えます。
Q = [H]-[OH]-[A]
Qは単調減少関数であることが知られています(*1)。
(*1) Qが単調減少関数であることの証明
Q = [H]-[OH]-[A] = y
[H] = uとすると
y = u-Kw/u-CaKa/(Ka+u)
dy/du = 1+Kw/u^2+CaKa/(Ka+u)^2
Kw, Ca, Ka はすべて正なので、dy/du>0
また、
pH =-log10 u = xとすると、
u = 10^-x
du/dx = -10^-x(ln10) = -u(ln10)
u = [H]は正なので、du/dx <0
∴ dy/dx = (dy/du)(du/dx)<0
したがって、pHの関数Qは単調減少関数である。
Q(pH)が単調減少関数であり、Q(a)>0, Q(b)<0であるとき、a,b間のどこかにかならずQ(pH)=0となるpHが一つ存在します。
<二分法のやり方>(2019-03-07)
Q(pH)=0について二分法によるpHの求め方は次の通りです(赤字はエクセルの表作成時に用いる計算式です)。
●初期値の付与
(1) Q(a0)>0となるような初期値a0を与える。 a0=0
(2) Q(b0)<0となるような初期値b0を与える。 b0=14
(3) a0, b0の中点、m0を求める。 m0=(a0+b0)/2
(4) m0に対するQ(m0)を求める。
Q(m0)=10^-m0-Kw/10^-m0-CaKa/(Ka+10^-m0)
●繰り返し1回目
(5) Q(m0)<0ならば、a1=a0とする。そうでなければ、a1=m0とする。
a1=IF(Q(m0)<0, a0, m0)
(6) a1=m0(つまりQ(m0)>=0)ならば、b1=b0とする。そうでなければ、b1=m0とする。
b1=IF(a1=m0, b0,
m0)
(7) a1, b1の中点、m1を求める。 m1=(a1+b1)/2
(8) m1に対するQ(m1)を求める。
Q(m1)=10^-m1-Kw/10^-m1-CaKa/(Ka+10^-m1)
●繰り返し2回目
(9) Q(m1)<0ならば、a2=a1 そうでなければ、a2=m1とする。
a2=IF(Q(m1)<0, a1, m1)
(10) a2=m1ならば、b2=b1 そうでなければ、b2=m1とする。
b2=IF(a2=m1, b1,
m1)
(11) a2, b2の中点、m2を求める。 m2=(a2+b2)/2
(12) m2に対するQ(m2)を求める。
Q(m2)=10^-m2-Kw/10^-m2-CaKa/(Ka+10^-m2)
以下、Q(mn)≒0となるまで同様の操作を繰り返し、a, bの幅を狭めていく。
●繰り返しn回目
(13) an=IF(Q(mn-1)<0,
an-1, mn-1)
(14) bn=IF(an=mn-1,
bn-1, mn-1)
(15) mn=(an+bn)/2
(16) Q(mn)=10^-mn-Kw/10^-mn-CaKa/(Ka+10^-mn)
およそn=20~30回程度繰り返せば、Q(mn)はほとんど0に収束します。このときのmnが求めるpHです(*2)。
(*2) n=30におけるpHの精度は、(14-0)×(1/2)^30=1.3×10^-8となり、これで十分である。ちなみに、n=10, 15, 20におけるpHの精度は、それぞれ0.014, 4.3×10^-4, 1.3×10^-5となる。
二分法の求め方の概念図を図-1に示します。
<「二分法表」の作成>(2020/10/11)
「0.100 mol/Lの酢酸(pKa=4.76)のpHを求める」ことを例題として、エクセルによる「二分法表」の作り方を説明します。
① pKa, pKw,
Caの値をC3~C5のセルに入れ、Ka, Kwを計算する(C6, C7)。(Ka, Kwのセルに定数を直接入力してもよい)
・C3 =4.76 …(酸解離定数の入力)
・C4 =14 …(水のイオン積の入力)
・C5 =0.1 …(酸濃度の入力)
・C6 =10^-C3
・C7 =10^-C4
② pHの初期値a0, b0をB11, D11のセルに入れ、m0を計算する(C11)。
・B11 =0 …(pH左端値の入力)
・D11 =14 …(pH右端値の入力)
・C11 =(B11+D11)/2
③ 初期値に対して、濃度に関する計算式を入れる(E11~J11)。
・E11 =F11-G11-I11 …(Q=[H]-[OH]-[A])
・F11 =10^-C11 …([H]=10^-pHm)
・G11 =$C$7/F11 …([OH]=Kw/[H])
・H11 =1+F11/$C$6 …(α=1+[H]/Ka)
・I11 =$C$5/H11 …([A]=Ca/α)
・J11 =F11*I11/$C$6 …([HA]=[H][A]/Ka)
④ 二分法の計算式をB12~D12のセルに入れる。
・B12 =IF(E11<0,B11,C11)
・C12 =(B12+D12)/2
・D12 =IF(B12=C11,D11,C11)
⑤ 濃度に関する計算式(E11~J11)をE12~J12にコピーする。
⑥ B12~J12をB42~J42までコピーする。
B12:J12を選択し、選択した範囲の右下隅にあるポインターを+にして、B42:J42まで+をドラッグする。
⑦ pHの値をコピーする。
・C8 =C42 …(これが求めるpH)
作成した二分法表を図-2に示します。pKa,
pKw, Caのセルに値を入力することにより、様々な1価の弱酸のpHを求めることができます。
「二分法表」とWhat-If 分析ツールである「データテーブル」を組み合わせることによりpKa,
Caを変化させたときのpHの値を一覧表で出力することができます。また、この組み合わせで滴定曲線を描くことも可能です(2021/12/05)。






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