ここ数回にわたって1価の弱酸のpHの求め方を述べてきましたが、1価の弱塩基についても同様の取り扱いができます。
<<1価の弱塩基の関係式>>
代表的な1価の弱塩基として、アンモニア、エチルアミン、アニリン、ピリジンなどが挙げられます。これらの塩基をB、その共役酸をHB+で表します。
弱塩基について、
B + H2O ⇄ HB+
+ OH-
Kb =[HB][OH]/[B]
HB+ + H2O ⇄ B + H3O+ ( HB+ ⇄ B + H+
)
Ka = [B][H]/[HB]+
Ka×Kb = Kw
の関係があることはすでに述べました(2022-09-25)。以前も弱塩基の平衡について取り上げましたが(2020-10-25)、このときはアンモニアの共役酸であるアンモニウムイオンの酸解離定数(Kn)を用いて議論しました。今回は塩基解離定数Kbを用いて話を進めます。
弱塩基Bの塩基解離定数をKbとし、また塩基濃度をCbとすると、
平衡定数式:
Kb = [HB][OH]/[B] …①
Kw = [H][OH] …②
物質バランス式:
Cb = [B]+[HB] …③
電荷バランス式:
[H]+[HB] = [OH] …④
④式から、
[HB] = [OH]-[H] …⑤
この式と③式から、
[B] = Cb-([OH]-[H]) …⑥
これらの式を①式に代入して、
Kb = [OH]([OH]-[H])/(Cb-([OH]-[H])) …(a)
の関係式が得られます。
(a)式は1価の弱塩基の水酸イオン、水素イオン濃度に関する近似なしの正確な式で、Cb, Kb, Kwが決まると[OH]に関する3次式となります。
<<1価の弱塩基のpHの求め方>>
<近似式による解>
◆ ケース分けと近似式
塩基溶液においては[H]は[OH]に比べて小さい。
もし[OH]>>[H]ならば、⑤式は、
[NH4] = [OH]-[H]≒[OH]と近似でき、(a)式は、
Kb = [OH]^2/(Cb-[OH])
[OH]^2 = Kb(Cb-[OH])
となります。整理すると
[OH]^2+Kb[OH]-KbCb
= 0
解の公式から、
[OH] = {-Kb+√(Kb^2+4KbCb)}/2 …(b)
さらに、酸濃度が高く、[OH]>>[H] かつ Cb>>[OH]ならば、(a)式は
[OH]^2 = CbKb
[OH] = √(CbKb) …(c)となります。
また、もし[OH]≳[H] かつ Cb>>([OH]-[H])ならば、(a)式は
Kb = [OH]([OH]-[H])/Cb
Kb = ([OH]^2-Kw)/Cb
[OH]^2-Kw = CbKb
[OH] =√(CbKb+Kw) …(d)
となります。
以上、ケース分けにより近似式(b), (c), (d)式を用いて[OH]を計算すると、[H]=Kw/[OH]からpHを求めることができます。近似式を用いることができない場合は、二分法やソルバー等を利用して解く必要があります。これらの取り扱い方法は弱酸の場合と同じです(2022-10-09)。
◆ 近似式の限界
1価の弱酸の場合と同様、ΔpHが0.02のとき、これは水酸イオン濃度の相対誤差4.7%に相当します。したがって、このとき、[OH]-[H]に対して、[H]が[OH]の4.7%よりも小さければ、[H]は[OH]に対して無視することができます。
「[H]が[OH]の4.7%よりも小さいとき」はどういうときかというと、
[H]<0.047[OH]
Kw/[OH]<0.047[OH]
[OH]^2>Kw/0.047
[OH]>√(Kw/0.047) = 4.61×10^-7 = 10^-6.34
[H]<10^-7.66
つまり、
pH>7.66
となるときです。
また、Cb-[OH]に対して、[OH]がCbの4.7%よりも小さいとき、[OH]はCbに対して無視できます。
[OH]がCbの4.7%よりも小さいとき、
[OH]<0.047Cb
Kw/[H]<0.047Cb
[H]>Kw/(0.047Cb)
log[H]>log(Kw/(0.047Cb))=-14-logCb-log0.047
pH<logCb+12.67
となります。
ちなみに、また1価の塩基について、Cb, KbとpHの関係(Flood図)を図-1に示します。
<例題1> 0.1 mol/L アンモニアのpHは? Kb = 4.75とする。
(c)式より、
[OH]ap = √(KbCb) = √(10^-4.75×0.1) = 10^-2.88
pH = 14.00-2.88 = 11.12
pHの許容誤差を0.02とし、近似解の妥当性を検証する。
pHap = 11.12>7.66
したがって、[OH]>>[H]の仮定は妥当。
また、
pHap = 11.12<11.67 = logCb+12.67
したがって、Cb>>[OH]の仮定も成立し、(c)式は適切。
(答) pH=11.12
<例題2> 0.001 mol/L アンモニアのpHは? Kb = 4.75とする。
(c)式より、
[OH]ap = √(KbCb) = √(10^-4.75×10^-3) = 10^-3.88
pH = 14.00-3.88 = 10.12
pHの許容誤差を0.02とし、近似解の妥当性を検証する。pHap
= 10.12>7.66
したがって、[OH]>>[H]の仮定は妥当。
しかし、
pHap = 10.12>9.67 = logCb+12.67
なので、Cb>>[OH]の仮定は成立せず、(c)式による近似解は不適切。
(b)式より[OH]を求めると、
[OH] = 1.25×10^-4
[H] = 8.00×10^-11
(答) pH=10.10
<「対数濃度図」による解>
上記の例題1について、答えを対数濃度図で求めます。作成した対数濃度図を図-2に示します。図中の点QからpHを求めます。
(答え) pH=11.1
図-2
<「二分法」による解>
上記の例題2ついて、「二分法」で答えを求めます。
①, ③式から、Kb=[NH4][OH]/[NH3], Cb=[NH3]+[NH4]
Cb = [NH4](1+[OH]/Kb)
[NH4] = CbKb/([OH]+Kb)
Cb = [NH3](1+Kb/[OH])
[NH3] = Cb[OH]/([OH]+Kb)
④式から、
Q = [H]-[OH]+[NH4] = 0
「二分法」表の作成のための関係式:
[H] = 10^(-pH)
[OH] = Kw/[H]
[NH4] = CbKb/([OH]+Kb)
[NH3] = Cb[OH]/([OH]+Kb)
Q = [H]-[OH]+[NH4] = 0
作成した二分法表を図-3に示します。また計算式を図-4に示します。
(答え) pH=10.10
図-3
図-4
<「ソルバー」による解>
上記の例題2について、答えをソルバーで求めます。[目的セル]をQ=0, [変数セル]をpHとしたときのソルバー解を図-5に示します。
(答え) pH=10.10





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