第1属、第2属を除いた溶液にNH4Cl, NH3および酸化剤を加えて弱塩基性にすると水酸化物沈殿が生じるイオン(Fe3+, Fe2+, Al3+, Cr3+,
Mn2+)は<第3属>に分類されます。今回は第3属の分属について考察します。
<<第3属の分属および分離・確認操作>>
第3属の分属および属内の分離操作のフローチャートを図-1に示し、第3属の確認操作の概要を図-2に示します。最初の検液に含まれていたFe3+およびFe2+は第2属沪液の段階でH2Sにより還元されてFe2+の状態になっていますが、第3属の分属段階で酸化剤(臭素水)を加えてすべてFe3+にしてFe(OH)3として分離します。またこのとき同時にMn2+も臭素水により酸化されてMn3+およびMn4+の水和酸化物(Mn2O3(aq), MnO2(aq)など)として沈殿します(*1)。Ni2+,
Co3+(*2), Zn2+はアンミン錯体を作って水酸化物沈殿を生成せず、第4属に行きます。
(*1) もし酸化剤としてHNO3を用いると、Fe2+はFe3+に酸化されるが、Mn2+は酸化されない。したがって、この場合Mn2+は第4属として扱われる。
(*2) Co2+は臭素水によりCo3+に酸化される。
<<第3属の分属操作>>
<水酸化物沈殿とpHの関係1>[pHの調整にNaOH-HClを用いた場合]
Fe3+, Al3+, Cr3+, Ni2+, Zn2+の水酸化物の溶解度とpHの関係について調べます。最初は、NaOHとHClを用いてpHの調整した溶液に対する水酸化物の溶解度について調べます。この場合、金属イオンMm+に関して、溶液中に存在する化学種はM(OH)p+m-oのみとなり(多核錯体や塩化物錯体等は無視して)、pHが決まれば(したがって[OH]が決まれば)M(OH)p+m-pの濃度は一義的に決まります。例えばAl(OH)3を例に取ると、反応式と平衡定数は、
Al(OH)3(固体) ⇄ Al3+
+ 3OH-, Ksp
= [Al][OH]^3
Al3+ + OH- ⇄ AlOH2+, βo1 = [AlOH]/([Al][OH])
Al3+ + 2OH- ⇄ Al(OH)2+, βo2 = [Al(OH)2]/([Al][OH]^2)
Al3+ + 3OH- ⇄ Al(OH)3(aq), βo3 = [Al(OH)3]/([Al][OH]^3)
Al3+ + 4OH- ⇄ Al(OH)4-, βo4 = [Al(OH)4]/([Al][OH]^4)
H2O ⇄ H+ + OH-, Kw = [H][OH]
このとき、モル溶解度(S)は、
S = [Al]+[AlOH]+ [Al(OH)2]+[Al(OH)3]+[Al(OH)4]
で与えらえます。
S = [Al](1+βo1[OH]+βo2[OH]^2+βo3[OH]^3+βo4[OH]^4)
= (Ksp/[OH]^3)(1+βo1[OH]+βo2[OH]^2+βo3[OH]^3+βo4[OH]^4)
= Ksp([OH]^-3+βo1[OH]^-2+βo2[OH]^-1+βo3+βo4[OH])
平衡定数(Ksp, βo1, βo2, βo3, βo4, Kw)は一定なのでSは[OH]のみの関数です。したがって、平衡定数既知のときpHが与えられればSを求めることができます。
用いた平衡定数を図-3に示し、各金属イオンの水酸化物の溶解度を図-4に示します(*3)。
(*3) 実際のエクセルの計算では、Mm+に対して次式からpHを変化させてSを求めた。pHを変化させるときは「データテーブル」を用いて計算作業の手間を省いた。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[M] = Ksp/[OH]^m
[MOH] = βo1[M][OH]
[M(OH)2] = βo2[M][OH]^2
[M(OH)3] = βo3[M][OH]^3
[M(OH)4] = βo4[M][OH]^4
S = [M]+[MOH]+[M(OH)2]+[M(OH)3]+[M(OH)4]
<水酸化物沈殿とpHの関係2>[pHの調整にNH3-HClを用いた場合]
実際の3属の分属操作では分属試薬としてNH4ClとNH3を用います。pHの調整剤としてNH4ClとNH3を用いたときの水酸化物の溶解度について調べます。Fe3+, Al3+, Cr3+については有効なアンミン錯体を作らず溶解度は前項とおなじなので、Ni2+, Co3+, Zn2+についてのみ溶解度を求めます。例えばニッケルを例に取ると、
反応式と平衡定数は、
Ni(OH)2(固体) ⇄ Ni2+
+ 2OH-, Ksp
= [Ni][OH]^2
Ni2+ + OH- ⇄ NiOH+, βo1 = [NiOH]/([Ni][OH])
Ni2+ + 2OH- ⇄ Ni(OH)2(aq), βo2 = [Ni(OH)2]/([Ni][OH]^2)
Ni2+ + 3OH- ⇄ Ni(OH)3-, βo3 = [Ni(OH)3]/([Ni][OH]^3)
Ni2+ + NH3 ⇄ Ni(NH3)2+, βn1 = [Ni(NH3)]/([Ni][NH3])
Ni2+ + 2NH3 ⇄ Ni(NH3)22+, βn2 = [Ni(NH3)2]/([Ni][NH3]^2)
Ni2+ + 3NH3 ⇄ Ni(NH3)32+, βn3 = [Ni(NH3)3]/([Ni][NH3]^3)
Ni2+ + 4NH3 ⇄ Ni(NH3)42+, βn4 = [Ni(NH3)4]/([Ni][NH3]^4)
Ni2+ + 5NH3 ⇄ Ni(NH3)52+, βn5 = [Ni(NH3)5]/([Ni][NH3]^5)
Ni2+ + 6NH3 ⇄ Ni(NH3)62+, βn6 = [Ni(NH3)6]/([Ni][NH3]^6)
H2O ⇄ H+ + OH-, Kw = [H][OH]
ニッケルに関する化学種濃度は、
[Ni] = Ksp/[OH]^2
[Ni(OH)p] = βop[Ni][OH]^p (p=1~3)
[Ni(NH3)q] = βoq[Ni][NH3]^q
(q=1~6)
溶解度S (mol/L)は、
S = [Ni]+Σ[Ni(OH)p]+Σ[Ni(NH3)q]
また、塩化物(HCl, NH4Cl, NiCl2)の全濃度は0.3+2S (mol/L)としました。
[Cl] = 0.3+2S
遊離のアンモニア、アンモニウムイオンの濃度は、
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [NH3][H]/Kn
以上の条件を用いて、pHを変化させたときのSの値をソルバーで求めました。
目的セル:Q = [H]-[OH]+Σ(2-p)[Ni(OH)p]+Σ2[Ni(NH3)q]-[Cl]+[NH4] = 0
変数セル:pNH3
Ni2+の計算結果の例を図-5に示します。Co3+, Zn2+についても同様の計算を行いました(Co3+の場合は[Cl] = 0.3+3S)。Fe3+, Al3+, Cr3+, Ni2+, Co3+,
Zn2+に関してpHとSの関係を図-6に示します。
図-6から明らかなように、NH4ClとNH3を用いてpHを8~9.5に調整すると、Fe3+,
Al3+, Cr3+はほぼ完全に水酸化物が沈殿するのに対し、Ni2+,
Co3+, Zn2+はアンミン錯体を作って水酸化物沈殿を生成しないことが分かります。
なお、Mn3+, Mn4+については、溶解度積、錯生成定数の明確な値が分からなかったのでこの図には示していませんが、NH4Cl-NH3系で沈殿します(*4)。またアルカリ土類金属イオンもこのpHでは水酸化物沈殿を作りません。
(*4) Mn2+の場合は、アンミン錯体を作って溶解する。






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