第5属の沪液に含まれるイオン(Mg2+, Na+, K+)<第6属>に分類されます。第6属では分離操作をせず、第5属の沪液を調製した後確認操作を行います。   

<<6属イオンの確認操作>>
<沪液の調製>
第5属の沪液をほとんど蒸発乾固し、放冷後6 M HNO3 1 mLを加え、再び蒸発乾固を続ける。放冷後、水3 mL, 6 M HNO3 1 滴を加える。液を三分し、Mg, Na, K用確認用溶液とする。   

第5属の沪液中にはアンモニウム塩が多量含まれています。NH4+KNa3Co(NO2)6による確認反応を妨害するので、HNO3を加えて蒸発乾固してアンモニウム塩を揮散させます。   

Mgの確認操作>
(1) 確認用溶液0.5 mL4.9 M NH4Cl 2滴、6 M NH3 2滴、0.6 Mリン酸水素ナトリウム(NaH2PO4) 1滴を加えて、ときどき試験管の内壁をこすりながら5~10分間放置する。白色の沈殿はMgの存在を示す。   

反応式は次の通りです。
Mg2+
NH4+ HPO42-6H2O MgNH4PO4
6H2H+

0.01 mol/L Mg(NO3)2, 0.1 mol/L HNO3, 1 mol/L NH4Cl, 1.2 mol/L NH3を含む溶液にNaH2PO4(濃度: Cp)を加えたときの溶解度の計算結果(抜粋)を図-1に示し、CpとMgNH4PO4の溶解度Sの関係を図-2に示します。MgNH4PO4の溶解度積はpKsp=12.6としました。その他関連する溶解度積や錯生成定数、酸解離定数は図-1に示しています。Mg(NO3)2に対し当量以上のNaH2PO4を加えると沈殿は定量的に生成することが分かります。たとえば、Cp=0.06 mol/LのときMgNH4PO4の溶解度はS=8×10^-9 mol/L, pH=9.3でした。またこのときMg2(PO4)3 (pKsp=25.2)やMg(OH)2 (pKsp=9.2)の沈殿は生成しないことが分かります。また、MgNH4PO4の沈殿は中性~弱塩基性溶液からよく沈殿することが分かります(図-3)

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2023-03-12-fig1a

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2023-03-12-fig2

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2023-03-12-fig3

なお、試験管の内壁をこするのは、沈殿の核となるガラス表面に付着した微細粒子を発生させるためです(2022-12-11)   

(2) 確認用溶液にチタン黄溶液とNaOHを加える。赤色の沈殿はMgの存在を示す。   

ジアゾ化合物であるチタン黄(C28H19N5Na2O6S4, 下図)の水溶液は黄色ですが、Mg(OH)2沈殿の表面に吸着して沈殿が赤く着色します。   

2023-03-12-fig0

Kの確認操作>
(1)
確認用溶液1滴を時計皿に取り、1 M AgNO3 1滴を水1 mLに溶かした溶液を1滴加える。次にNa3Co(NO2)6溶液1, 2滴を加える。黄色の沈殿はKの存在を示す。   

反応式は次の通りです。
2K+
Na+ Co(NO2)63- K2NaCo(NO2)6
このとき、AgNO3を加えておくと、上記反応は一層鋭敏になります(より難溶性のK2AgCo(NO2)6を生成するため)。   

(2) 確認用溶液2滴を時計皿に取り、1 M HCl 1滴を加える。炎色反応試験を行い、コバルトガラスを通して紫色が認められれば、これはKの存在を示す。   

カリウムは、波長766.5, 769.9 nm(紫色)に原子発光スペクトル線があります。   

Naの確認操作>
(1) Mg2+
が存在しないとき: 確認用溶液を蒸発乾固して、放冷後水2, 3滴を加えて溶解し、これに0.1 M アンチモン酸カリウム溶液3滴を加える。白色の沈殿はNaの存在を示す。   

反応式は次の通りです。
Na+
KSb(OH)6 NaSb(OH)6 K+
NaSb(OH)6
KSb(OH)6に比べて溶解度が非常に小さいので、NaSb(OH)6が沈殿します。酸性では試薬自身がHSb(OH)6として沈殿するので、確認用溶液は乾固して水を加え中性または弱塩基性にしておく必要があります。   

(2) Mg2+が存在するとき: 確認用溶液1 ml0.5 M Ba(OH)2 5滴を加えて煮沸し、生じたMg(OH)2沈殿を沪過する。沪液に0.5 M (NH4)2SO4 10滴を加え、生じたBaSO4沈殿を沪過する。以下、(1)の操作と同様。   

Mg2+Na+と同様、アンチモン酸カリウムと沈殿を生じるので除去する必要があります。Mg2+は強塩基であるBa(OH)2を加えるとMg(OH)2の沈殿を生じます(NH3塩基性では沈殿を生じない)。加えたBa2+は後の分析を妨害するのでBaSO4として分離します。   

<<系統分析の終わりにあたって>>
初回(2022-12-11)から今回まで13回にわたって、金属イオンの系統的定性分析について理論的平衡計算を中心に説明してきました。   

最初に述べた通り、ここで用いた系統分析の操作方法は原則として、「松浦、西川、栗村:無機半微量分析-第2版- (東京化学同人)」に準拠しました。この方法は、分離法としては塩化物、硫化物、水酸化物、炭酸塩の沈殿分離のよる6属系統分析法を用い、また操作のスケールはセミミクロ法を採用しています。系統分析に関する他のテキストでは本方法といくつか異なる点も見られます。例を挙げると、
(1)
セミミクロ法ではなくマクロ法を用いる。
セミミクロ法は作業スペース、操作時間が節約でき、また使用する試薬量が少なく環境に負荷をかけないという利点を持っています。しかし、
用いる器具がやや特殊で、他の化学実験の基本操作を学ぶという点では不向きです。マクロ法はビーカー、沪紙、ロート等の一般的な器具を使用するので、他の化学実験に応用できるという点で優れています。
(2) 硫化物分離において硫化水素(H2S)の代わりにチオアセトアミド(CH3CSNH2)あるいは硫化水素アンモニウム(NH4HS)を用いる。
H2Sは毒性が強く取り扱いに十分な注意が必要です。特にキップの装置や硫化水素ボンベによる余分なガスの空気中への放出をできるだけ避け、換気を十分に行う必要があります。チオアセトアミド(CH3CSNH2)あるいは硫化水素アンモニウム(NH4HS)を用いると、このような危険性が少なくなります。
(3)
第2属A, Bの分離でNaSxの代わりにNH4Sxを用いる。
NH4Sxを用いるとHgSは第2属Aの方に行きます。
(4)
第3属の分属時、Fe2+の酸化にBr2水ではなくHNO3を用いる。
HNO3を用いるとMn2+は酸化されず、第4属に行きMnSとして沈殿します。
もし酸化剤としてH2O2を用いるとBr2水と同様第3属として沈殿します。
(5)
第4属の分属時、酢酸酸性でまずZnSを分離し、次いでアンモニア塩基性でNiS, CoSを分離するのではなく、最初アンモニア塩基性でZnS, NiS, CoSをすべて沈殿させ、加温熟成後ZnSNiS, CoSを分離する。
沈殿を加熱するとNiS, CoSは沈殿形が変わり非常に難溶性となり、ZnSとの分離が可能になります。     

セミミクロ法では通常、試薬の添加量は「滴数」で記されていますが、理論的平衡計算にあたっては1滴=0.05 mLとし、数滴程度の試薬の添加による試料溶液の体積変化は無視しました。また、操作はかなり高いイオン強度溶液のなかで行われていますが、平衡定数のイオン強度による補正は行いませんでした。したがって得られた結論はかなりおおきな誤差を含んでいると思います。

金属イオンの定性分析にはここで述べた6属に分属する方法以外にもさまざまなやり方があります。たとえばフッ化物沈殿による方法や溶媒抽出、イオン交換樹脂を用いる方法もあります。また機器分析として蛍光X線分析法、ICP-発光分析法、ICP-質量分析法等を用いれば、短時間のうちに多元素の定性・半定量分析が可能となります。