供与または受容できるプロトンが1個の酸塩基をモノプロトン酸塩基と言います。これから何回かにわたって、モノプロトン酸塩基およびそれらの塩の水溶液のpHを求める方法について説明します。今回は強酸強塩基のpHの求め方です。  

<<強酸、強塩基のpH>>
モノプロトン酸塩基のうち、強酸としてはHCl, HBr, HI, HNO3, HClO4などが挙げられます。また強塩基としては、NaOH, KOH, N(CH3)4OH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などがあります。水溶液中においてこれらの酸または塩基の強さは一定です。以下、HCl, NaOHを代表にpHの求め方を示します。
<強酸水溶液(HCl)pH

Ca mol/L
の強酸(HCl)pHを求める式を導きます。HCl溶液には水の解離によって生成するイオンH+, OH-に加えて塩酸から生じるH+, Cl-を含みます。したがって計算に関与するイオンはH+, OH-, Cl-3種です。平衡の系統的解析法(2023/03/26)を用いてこの問題を解きます。イオン強度の影響は無視します。また以下、[  ]内の電荷符号は省略します。
HCl
H+ Cl-
H2O
H+ OH-
・水のイオン積:[H][OH] = Kw = 10^-14.00 …①
Clに関する質量バランス:[Cl] = Ca …②
・電荷バランス:[H] = [OH][Cl] …③
イオン積①式から[OH]=Kw/[H], 質量バランス②式から[Cl]=Caが得られます。これらを電荷バランス③式に代入して[H]だけの式を作ります。
[H] = Kw/[H]
Ca
両辺に[H]を掛けて整理すると、
[H]^2
Ca[H]Kw = 0
したがって、この二次方程式を解けば[H](0)を求めることができます。
[H] = (Ca+(Ca^24Kw))/2
pH0 =
log{(Ca+(Ca^24Kw))/2} …④
④式は厳密解です。この式は近似を行っておらず、活量係数を考慮しないことによる誤差以外の誤差を含んでいません。     

もし[H]>>[OH]ならば、近似解として、
[H] = Ca
pH1 =
log Ca …⑤
が成立します。   

また、もし[H][OH]ならば、近似解として、
[H+] = Kw
pH2 =
logKw = 7.00
*1) …⑥
が成立します。
*1) pH=7.00が成立するのは、25℃の場合である(0.1 MPa, イオン強度0)。温度が変化して、たとえば10℃ならばpH=7.26, 50℃ならばpH=6.64となる(2022-09-11)

<強塩基水溶液(NaOH)pH
強塩基についても強酸と同様に考えることができます。
Cb mol/L
NaOHpHを求めます。
・水のイオン積:[H][OH] = Kw = 10^-14.00 …①'
Naに関する質量バランス:[Na] = Cb …②'
・電荷バランス:[H][Na] = [OH] …③'
水のイオン積①'式と質量バランス②'式を電荷バランス③'式に代入して[H]だけの式を作ります。
[H]^2
Cb[H]Kw = 0
したがって、この二次方程式を解けば[H](0)を求めることができます。
[H] = (Cb+(Cb^24Kw))/2
pH0 =
log{(Cb+(Cb^24Kw))/2} …④'
'式が求める厳密解です。   

もし[OH]>>[H]ならば、近似解として、
[OH] = Cb 
が成立します。したがって、
[H] = Kw/Cb
pH1 =
log(Kw/Cb) …⑤'
'が近似解となります。   

また、もし[OH][H]ならば、近似解として、
[H] = Kw
pH2 = logKw = 7.00 …⑥'
が成立します。   

<<近似式の妥当性>>
近似式を用いるときは、近似が可能な範囲を検証する必要があります。pHに関する近似式の妥当性は、「pHの誤差をどこまで許すか」が判断基準となります。pHメータの精度から考えてpHの近似値の許容差(ΔpH)は±(0.010.02)程度が妥当と考えられます。ここではΔpH=±0.02とします。
<強酸の場合>
⑤式を用いることができる限界濃度Ca1は、⑤-④=0.02から、
log Ca
log{(Ca+(Ca^24Kw))/2} = 0.02
エクセルのソルバー(2019-04-07)を用いてこの式を解きます。
Ca1 = 4.5
×10^-7 mol/L, log Ca1 =6.35,  pH0 = 6.33, pH1 = 6.35
つまりCa1 = 4.5×10^-7 mol/L以上であれば近似式⑤を使用できます。   

⑥式を用いることができる限界濃度Ca2は、⑥-④=0.02から、
7
log{(Ca+(Ca^24Kw))/2} = 0.02
エクセルのソルバーを用いてこの式を解きます。
Ca2
= 9.2×10^-9 mol/L, log Ca2 =8.04, pH0 = 6.98, pH2 = 7.00
つまりCa2 = 9.2×10^-9 mol/L以下であれば近似式⑥を使用できます。   

Ca = 4.5×10^-79.2×10^-9 mol/Lの場合は、厳密式④を用いる必要があります。   

強酸濃度Caが与えられたときの、pHの厳密解(④式)および近似解(⑤式、⑥式)ならびにソルバーを用いて解いた近似式の使用限界濃度(Ca1, Ca2)-に示します。  

図-1
2023-04-09-fig1a

2023-04-09-figa
限界濃度Ca1(C12):目的セル(H12)0.02となるようなlogCa1(B12)をソルバーで求める。
限界濃度Ca2(C19):目的セル(I19)0.02となるようなlogCa1(B19)をソルバーで求める。

<強塩基の場合>
強塩基の場合も強酸と同様の手順で行います。
'式を用いることができる限界濃度Cb1は、⑤'-④'=0.02から、
log Cb
log{(Cb+(Cb^24Kw))/2} = 0.02
エクセルのソルバーを用いてこの式を解くと、
Cb1 = 4.5
×10^-7 mol/L, log Cb1 =6.35,  pH0 = 7.67, pH1 = 7.65
つまりCb1 = 4.5×10^-7 mol/L以上であれば近似式⑤'を使用できます。   

'式を用いることができる限界濃度Caは、⑥'-④'=0.02から、
7
log{(Cb+(Cb^24Kw))/2} = 0.02
Cb2 = 9.2
×10^-9 mol/L, log Cb2 =8.04, pH0 = 7.02, pH2 = 7.00
つまりCa = 9.2×10^-9 mol/L以下であれば近似式⑥'を使用できます。   

Ca = 4.5×10^-79.2×10^-9 mol/Lの場合は、厳密式④'を用いる必要があります。   

 

強酸、強塩基の濃度(logCa, logCb)pHの関係を-に示します*2)
*2) 実際の実験において使用する酸塩基の濃度は通常10^-6 mol/L以上である。したがってこのとき、強酸強塩基のpHpH = log CaまたはpH = log (Kw/Ca)を用いて計算すればよい。非常に希薄な酸塩基を取り扱う場合は空気中のCO2の影響を受けないような工夫をする必要がある。

-
2023-04-09-fig2a

<<活量係数を考慮した場合>>
以上の議論は活量係数を考慮していません。以下、活量係数を考慮した場合のpH計算をします。
<例題1> 0.10 mol/L HClの活量基準のpHを求めよ。 
HClは強酸であり、溶液中の[OH]を無視すると、[H]=[Cl]=0.1 mol/Lなので塩酸のイオン強度は、
μ=(z^2[H]z^2[Cl])/2=0.1
拡張デバイ-ヒュッケル式
(2023-03-26)を用いてH+の活量係数を求めると、
log
γH = 0.51×1^2×√μ/(13.3×10^-3×900×√μ) = 0.0832
γH = 10^(0.0832) = 0.826
したがって、活量基準のpHは、
pH =
log([H]γH) = log(0.1×0.826) = 1.083
(
答え) pH = 1.08   

<例題2> (1) 0.01 mol/L NaOH, (2) 0.1 mol/L NaCl + 0.01 mol/L NaOH を含む溶液の活量基準のpHを求めよ。
(1)
NaOH
は強塩基なので、溶液中の[H]を無視すると、イオン強度は、
μ=(z^2[OH]z^2[Na])/2=0.01
拡張デバイ-ヒュッケル式を用いてOH-の活量係数を求めると、
log
γOH = 0.51×1^2×√μ/(13.3×10^-3×350×√μ) = 0.0457
γOH = 10^(0.122) = 0.900
したがって、活量基準のpHは、
pH =
log(Kw
º/([OH]γOH) = log(10^-14.00/(0.01×0.900) = 11.95
(
答え) pH = 11.95   

(2)
NaCl
溶液は中性、NaOHは強塩基なので、溶液中の[H]を無視すると、イオン強度は、
μ=(z^2[OH]z^2[Na]z^2[Cl])/2=0.11
拡張デバイ-ヒュッケル式を用いてOH-の活量係数を求めると、
log
γOH = 0.51×1^2×√μ/(13.3×10^-3×350×√μ) = 0.122
γOH = 10^(0.122) = 0.755
したがって、活量基準のpHは、
pH =
log(Kw
º/([OH]γOH) = log(10^-14.00/(0.01×0.755) = 11.88
(
答え) pH = 11.88