平衡問題の系統的解析方法については、既に何度か述べましたが(2020-09-27, 2022-10-02)、すべての平衡問題に関する最も基本的な事項の一つなのでここで再度解説します。   

<<平衡の系統的解析法>>
溶液中での平衡濃度に関する計算問題を解くことは、次の3つの条件から関係式を作成し、この関係式を連立させた方程式を数学的に解く作業にほかなりません。
1)化学平衡条件
2)物質バランス条件
3)電荷バランス条件
これを平衡問題の系統的解析方法と言います。この方法を用いれば複数の平衡反応が関係した複雑な平衡問題でも必ず解決に至ります。   

以下、平衡定数Ka, Kwおよび濃度Caが既知の弱酸HApHを求めることを例として各条件とそこから導かれる関係式およびその解法について説明します。   
<化学反応式>
手順1:関係する化学反応式をすべて書き出す。
HA
H+ A-
H2O
H+ OH-   

<化学平衡条件>
手順2:濃度平衡定数式をすべて書く。
Ka = [H+][A-]/[HA]
 …①
Kw = [H+][OH-]
 …②   

一定温度、一定圧力において溶液内の化学反応が平衡状態にあるとき、活量を用いた熱力学的平衡定数は温度一定ならば一定です。の値は通常、文献等に記載されています。希薄溶液において活量係数が1とみなされるときは、熱力学的平衡定数の代わりに濃度平衡定数Kを用いることができます(2022-09-25)。   

水溶液中では、水の自己プロトリシス反応が必ず伴います。
これらが化学平衡条件から導かれる平衡定数式です。   

<物質バランス条件>
手順3:物質バランス式をすべて書く。
Ca mol/L
HA溶液の物質バランス式は、
Ca = [HA]
[A-] …③   

物質バランス条件は質量保存則を基に、
「溶液に加えられた物質の全濃度(mol/L)は、平衡成立後溶液中に存在する未反応あるいは生成化学種の濃度(mol/L)の総和に等しい」
という条件であり、この条件から物質バランス式が導かれます。「全濃度」は「式量濃度」、「分析濃度」、「仕込み濃度」などとも呼ばれます。「全濃度」と「溶液中の化学種の平衡濃度」を明確に区別して混同しないことが大切です。物質バランス式は対象とする物質ごとに成立します。
「物質バランス式」は「物質収支式」、「物質均衡式」などとも呼ばれます。   

<電荷バランス条件>
手順4:電荷バランス式を書く。
水溶液中のHAの電荷バランス式は、
[H+] = [OH-][A-] …④   

電荷バランス条件は電気的中性の原則から導かれ、
「溶液中の化学種の正の電荷の総和は負の電荷の総和に等しい」
という条件で、この条件から
電荷バランス式導かれます。
式を一般化すると、溶液中の陽イオンをMimi+, 陰イオンをNini-として、
Σmi[Mimi+] = Σni[Nini-]
となります。   

一つの平衡系に対して電荷バランス式は1個だけです。「電荷バランス式」は「電荷収支式」、「電荷均衡式」などとも呼ばれます。この式はミクロな状況(たとえば界面付近など)では成立しない場合もあります。   

<条件式の個数と未知数の個数>
手順5:未知の濃度の個数(n1)と条件式の個数(n2)を数える。
手順6:n2n1を確認する。

Ca mol/L
HA溶液関して言うと、
未知数の数は、Caが既知の場合[H+], [OH-], [HA], [A-]の4個
条件式(次式)の個数は①~④の4個。
したがって、n2n1は成立する。   

n2n1ならば、この連立方程式は解くことができます。条件式は互いに独立である必要があります。もし、n2n1ならば条件式が不足しているか、未知数が多すぎます。この場合は新たな条件式を追加するか、n2=n1となるまである未知数に一定値を与えて未知数から外す必要があります。   

<連立方程式の解法>
手順7:連立方程式を解く。
手順8:解の妥当性を確認する。
   

連立方程式は多くの場合高次方程式となるので、解法に工夫が必要です。おもな方法は次の通りです。このとき、求める答えの精度(有効桁数)を明確化して、解の妥当性を確認することが重要です。
a)
 近似式による方法
たとえば、濃度既知の弱酸HAの場合、解くべき式は[H+]に関して3次方程式となります。この3次方程式に対し、化学的にあり得ると考えられる前提条件を加えて近似を行い、次数をさげて2次方程式あるいは1次方程式にして解を求めます(2020-10-04)
近似ができるのは和や差で表される項です。この項のうち、ある項が他の項に比べて非常に小さいならばその項は無視することができます。無視できるかどうかの判断は求める答えの精度によります。近似を行ったならば、求めた解が前提条件を満たすかどうかを確認する必要があります。   

b) 表計算ソフトを利用する方法
表計算ソフト(たとえばMicrosoft社のExcel)を用いて、高次方程式をそのまま解く方法です。Excelを用いる場合もいくつかのやり方があります。たとえば、2分法(2019-03-07)を用いる方法、ソルバー(2019-04-07)などがよく用いられます。   

c) 図による方法
酸塩基平衡の問題に対して、濃度の対数値とpHの関係を作図(対数濃度図)(2020-11-15)して解を求める方法です。対数濃度図を用いると、厳密な解は求めることができませんが、直感的な理解が容易に得られます。   


系統的解析法のフローチャートを-1に示します。   

-1

 2023-04-02 fig1