酸塩基平衡の問題を解くことは、関係する平衡定数式、物質バランス式、電荷バランス式を連立させて方程式を解き、問題となる未知数を求めることに帰結します。このとき、pHと化学種濃度の関係をグラフに表すと、系全体を概観することができ、近似式を導くうえで非常に役に立ちます。
<<対数濃度図>>
酸塩基平衡にはpHが大きく係わります。酸塩基問題を解く場合、pHと化学種濃度の対数値(log C)をグラフに表すと、その関係がよく分かります。このグラフは対数濃度図と呼ばれます。対数濃度図は1950年代にスウェーデンの化学者L. G. Sillenが発表したので、Sillen図とも言います。この図では、さまざまな化学種の濃度の対数値が、pHの関数としてプロットされます。
「濃度Ca
mol/L、酸解離定数pKaの1価の弱酸」の対数濃度図を考えます。この酸溶液中に含まれる化学種は、H+, OH-, HA, A-の4種です。
(1) [H]については、pHの定義から切片0、傾き-1の直線となります。
log[H] =-pH
(2) [OH]については、水のイオン積から切片log Kw、傾き+1の直線となります。
log[OH] = log(Kw/[H]) = pH+log Kw
[HA], [A]については、平衡定数式と物質バランス式から次の関係式が成立します。
[HA] = Ca[H]/([H]+Ka) …①
[A]
= CaKa/([H]+Ka) …②
ここで、[H]とKaの大小関係でケース分けをします。
(3) [HA]に関して、
もし[H]>>Kaならば、[H]+Ka≒[H]なので、
[HA]=Ca
log[HA] = logCa
もし[H] = Kaならば、[H]+Ka=2[H]なので、
[HA]=Ca/2
log[HA] = logCa-log2
もし[H]<<Kaならば、[H]+Ka≒Kaなので、
[HA]=Ca[H]/Ka
log[HA] = log[H]+log(Ca/Ka) = -pH+pKa+logCa
したがって、[HA]については、0.05[H]>Ka(つまりpH<pKa-1.3)ならば、logCaの直線(水平線)となり、[H]<0.05Ka(つまりpH>pKa+1.3)ならば、点(pKa, logCa)を通って傾き傾き-1の直線となります(pHの許容差は約0.02)。
pHが(pKa-1.3)<pH<(pKa+1.3)の領域は点(pKa, logCa-0.3)を通って左右2つの直線と滑らかに接する曲線となります。
(4) [A]に関しては、
もし[H]>>Kaならば、
[A]=CaKa/[H]
log[A] = -log[H]+log(CaKa) = pH-pKa+logCa
もし[H] = Kaならば、
[A]=Ca/2
log[A] = logCa-log2
もし[H]<<Kaならば、
[A]=Ca
log[A] = logCa
したがって、[A]については、0.05[H]>Ka(つまりpH<pKa-1.3)ならば、点(pKa, logCa)を通って傾き+1の直線となり、[H]<0.05Ka(つまりpH>pKa+1.3)ならば、logCaの直線(水平線)となります(pHの許容差は約0.02)。
pHが(pKa-1.3)<pH<(pKa+1.3)の領域は点(pKa, logCa-0.3)を通って左右2つの直線と滑らかに接する曲線となります。
<<対数濃度図の作成方法>>
<マニュアルで作図>
濃度Ca mol/Lの酢酸(酸解離定数pKa)の対数濃度図をマニュアルで作図する手順は、次の通りです(x=pH, y=logC)。
(1) H+の線:y=-x, OH-の線:y= x-14の直線を引く。Caの線:y=logCaの直線(水平線)を引く。
(2) x=pKaとy=logCaの交点をSとする(Sはシステムポイントと呼ばれる)。Sから真下にlogCが0.3だけ低い点をRとする。
(3) HAの線:酸性側からy=logCaの直線(水平線)を引き、Sの左(pH-1.3単位)(a)で止める。塩基性側からSを通ってH+の線(y=-x)に平行な線を引き、Sの右(pH+1.3単位)(b)で止める。Sの近傍(a~b間)はRを通って滑らかな曲線をフリーハンドで引く(もう少し正確に描きたいのならば①式を用いて数点のpHについてlog[HA]を求める)。
(4) A-の線:塩基側からy=logCaの直線(水平線)を引き、Sの右(pH+1.3単位)(c)で止める。酸性側からSを通ってOH-の線に平行な線を引き、Sの左(pH-1.3単位)で止める。Sの近傍(c~d間)はRを通って滑らかな曲線をフリーハンドで引く(もう少し正確に描きたいのならば②式を用いて数点のpHについてlog[A]を求める)。
濃度0.1 mol/Lの酢酸(酸解離定数pKa=4.76)について作成した対数濃度図を図-1に示します。
<エクセルで作図>
濃度0.1 mol/Lの酢酸(酸解離定数pKa=4.76)について、エクセルを用いて与えられたpHから各化学種濃度の対数値(log C)を計算し、pHとlog Cの関係の散布図を作ります。作成したエクセルシートを図-2に示します(*1)。
(*1) エクセルの操作手順
(1) pHの値を0~14まで0.1きざみで連続して入力する。(B14:B190)
(2) pH=0における各化学種の濃度を計算する。
・[H]=10^-pH (C14 =10^-B14)
・[OH] = Kw/[H] (D14 =$C$7/C14)
・[A]=Ca/(1+[H]/Ka) (E14 =$C$5/(1+C14/$C$6))
・[HA]=[H][A]/Ka (F14 =C14*E14/$C$6)
(3) pH=0.1~14における各化学種の濃度を計算する。
・C14:F14を指定して、C15:F15からC190:F190までコピーする。
(4) pH=0における各化学種濃度の対数値を求める。
・pH (H14 =B14)
・log[H] (I14 =log(C14))
・log[OH] (J14 =log(D14))
・log[A] (K14 =log(E14))
・log[HA] (L14 =log(F14))
(5) pH=0.1~14における各化学種の濃度の対数値を計算する。
・I14:L14を指定して、I15:L15からI190:L190までコピーする。
(6) グラフを作成する。
・H13:L190を指定して、挿入→グラフ→散布図を実行して散布図を作成する。あとはグラフを適当にカスタマイズする。
<<対数濃度図の利用>>
図-1は0.1 mol/L酢酸溶液に含まれる化学種(HA, A-, H+,
OH-)の濃度の対数値とpHの関係を示しています。この対数濃度図を用いて「0.1 mol/L酢酸のpH」を求めます。
y = log[H]の線とy = log[A]の線の交点をPとし、Pからの垂線とy = log[OH]が交わる点をQとします。図-1から明らかなように、交点付近のpHにおいてPとQは大きく離れていて、[A]>>[OH]であることが分かります([A]/[OH]≒10^8)。
電荷バランス式から、
[H] = [A]+[OH]
log[H] = log([A]+[OH])
したがって、y = log[H]の線とy = log([A]+[OH])の線の交点が本来求めるべきpHなのですが、[A]に対して[OH]が無視できるので、近似的に交点Pが求めるpHとなります。P点のpHを読み取って、求めるpHは2.9となります。
このように、対数濃度図を見ると、ある化学種に対してどの種を無視することができるかあるいはできないか、を一目で判断することができます。
図-1は0.1 mol/L酢酸の対数濃度図ですが、Ca濃度が異なる場合は、システムポイント(S)を上下に移動させれば同様の対数濃度図が得られます(図-3)。[A]>>[OH]が成立しない場合は、y=log([A]+[OH])の線を作図する必要があります(この線は、[A]=[OH]のときy=log[A]とy=log[OH]の交点より0.3だけ上を通る)。
酸解離定数(pKa)が異なる場合はシステムポイント(S)を左右に移動して同様の図を描けば対応する対数濃度図が得られます。






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