これまで、モノプロトン酸、塩基のpHの求め方を説明してきました。今回はそれらの酸あるいは塩基が中和してできた塩のpHの求め方について述べます。
<<強酸-強塩基の塩>>
強酸と強塩基から成る塩として、塩化ナトリウムを取りあげます。Cs mol/LのNaClを水に溶かすと、完全に解離してナトリウムイオン(Na+)および塩化物イオン(Cl-)になります。Na+, Cl-はそれぞれ強塩基(NaOH), 強酸(HCl)の共役酸、共役塩基なので事実上加水分解せず、その濃度([Na], [Cl])はともにCs mol/Lです。したがって、電荷バランス式:[H]+[Na] = [OH]+[Cl]において、[H]+Cs = [OH]+Csから[H] = [OH]が成立し、溶液は中性(pH=7)となります。
<<弱酸-強塩基の塩>>
弱酸と強塩基からなる塩として、酢酸ナトリウムを取りあげます。酢酸ナトリウム(NaAc)は水に溶かすと、ナトリウムイオン(Na+)と酢酸イオン(Ac-)に解離します。Na+は加水分解しませんが、弱酸(HAc)の共役塩基であるAc-は加水分解して溶液は塩基性に傾きます。
Ac- + H2O ⇄ HAc
+ OH-
Cs
mol/Lの酢酸ナトリウム(NaAc)溶液のpHを求めます。酢酸の酸解離定数をKaとします。活量係数による補正は考慮しません。
関係式は次の通りです。
平衡定数式:
Ka = [H][Ac]/[HAc] …①
Kw = [H][OH] …②
物質バランス式:
Cs = [Ac]+[HAc] …③
Cs = [Na] …④
電荷バランス式:
[H]+[Na] = [OH]+[Ac] …⑤
④, ⑤式から、
[Ac]
= Cs+[H]-[OH] …⑥
⑥式と③式から、
[HAc] = Cs-[Ac] = [OH]-[H] …⑦
⑥, ⑦式を①式に代入して、
Ka = [H](Cs+[H]-[OH])/([OH]-[H]) …⑧
酢酸の共役塩基である酢酸イオンの塩基解離定数をKbとすると、Ka×Kb=Kwなので、⑧式は、
Kb
= Kw/Ka = [OH]([OH]-[H])/(Cs-([OH]-[H]))
これは弱塩基の式と同一です(2023-04-16の⑤'式)。つまり、弱酸-強塩基の塩のpHは弱塩基と同様の取り扱いができます。
<近似式による方法>
近似式による方法の概要は次のとおりです。
酢酸ナトリウムの溶液は塩基性であり、もし[OH]>>[H]ならば、⑧式は、
Ka =[H](Cs-[OH])/[OH]
したがって、[H]について整理すると、
Cs[H]^2-Kw[H]-KaKw = 0
この二次方程式を解いて[H]を求め、pHを求めることができます。
[H] = {Kw+√(Kw^2+4CsKaKw)}/(2Cs)
さらに、もしCs>>[OH]ならば、⑧式は、
Ka
= [H]Cs/[OH] = [H]^2Cs/Kw
[H] = √(KaKw/Cs)
近似式による方法の詳細は(2023-04-16)を参考に願います。
<エクセルによる方法>
次の例題ではエクセルのソルバー法を用いた方法を取りあげます。
<例題1> ソルバー法で0.001 mol/L 酢酸ナトリウムのpHを求めよ。酢酸の酸解離定数をpKa = 4.76とする。
Ka = [H][Ac]/[HAc]
Kw = [H][OH]
Cs = [Ac]+[HAc] = [Na]
[H] = 10^(-pH)
[OH] = Kw/[H]
[Na] = Cs
[Ac] = Cs/(1+[H]/Ka)
Q = [H]-[OH]+[Na]-[Ac]= 0
(ソルバーのパラメーター)
目的セル:Q, 目標値:0
変数セル:pH
ソルバーの実施結果を図-1に示す。求める答えは、pH=7.88
図-1
<<強酸-弱塩基の塩>>
強酸と弱塩基から成る塩として、塩化アンモニウムを取りあげます。塩化アンモニウム(NH4Cl)は水に溶かすと、塩化物イオン(Cl-)とアンモニウムイオン(NH4+)に解離します。Cl-は加水分解しませんが、NH4+は加水分解して溶液は酸性に傾きます。
NH4+ + H2O ⇄ NH3 + H3O+
Cs mol/Lの塩化アンモニウム(NH4Cl)溶液のpHを求めます。アンモニウムイオンの酸解離定数をKnとし、活量係数による補正は考慮しません。
関係式は次の通りです。
Kn = [H][NH3]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Cs = [NH3]+[NH4] = [Cl]
[H]+[NH4] = [OH]+[Cl]
これらの式から次の式が得られます。
Kn = [H]([H]-[OH])/(Cs-([H]-[OH]))
これは弱酸の式と同一です(2023-04-16の⑤式)。つまり、強酸-弱塩基の塩のpHは弱酸と同様の取り扱いができます。
<近似式による方法>
近似式による方法の概要は次のとおりです。
塩化アンモニウムの溶液は酸性であり、もし[H]>>[OH]ならば、
Kn
= [H]^2/(Cs-[H])
したがって、[H]について整理すると、
[H]^2+Kn[H]-KnCs = 0
この二次方程式を解いて[H]を求めることができます。
[H] = (-Kn+√(Kn^2+4KnCs))/2
さらに、もしCs>>[H]ならば、⑧式は、
Kn
= [H]^2Cs
[H] = √(KnCs)
近似式による方法の詳細は(2023-04-16)を参考に願います。
<エクセルによる方法>
次の例題ではエクセルの二分法、MIN法を用いた方法を取りあげます。
<例題2> 二分法およびMIN法で0.01 mol/L 塩化アンモニウムのpHを求めよ。 アンモニウムイオンの酸解離定数pKn = 9.75とする。
Kn
= [H][NH3]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Cs = [NH3]+[NH4] = [Cl]
[H]+[NH4] = [OH]+[Cl]
[H] = 10^(-pH)
[OH] = Kw/[H]
[Cl] = Cs
[NH3] = Cs/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
Q = [H]-[OH]+[NH4]-[Cl]= 0
二分法で作成したエクセルシートを図-2に示す。求める答えはpH=5.62
図-2

MIN法で作成したエクセルシートを図-3に示す。求める答えはpH=5.62
図-3

<対数濃度図>
0.01 mol/L 塩化アンモニウムの対数濃度図を作成します。
Cs mol/Lの塩化アンモニウム(NH4Cl)の関係式は、
Kn = [H][NH3]/[NH4]
Kw = [H][OH]
Cs = [NH3]+[NH4]
Cs = [Cl]
[H]+[NH4] = [OH]+[Cl]
これらの関係式から各化学種の濃度は、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[NH3] = Cs/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
となります。pHを0~14まで与えて各化学種の濃度とその対数値を求め、pHと対数値の関係をグラフにします。計算および作図にはエクセルを用いました。作成した対数濃度図を図-4に示します。
塩化アンモニウムの電荷収支式と物質収支式から
[H]+(Cs-[NH3])
= [OH]+Cs
[H] = [NH3]+[OH]
もし、[NH3]>>[OH]とすると、
[H] = [NH3]
log[H] = log[NH3]
図-4からlog[NH3]-log[OH]≒3なので[NH3]>>[OH]が成立することが分かります。したがって、log[H](黒色の実線)とlog[NH3](緑色の実線)の交点(P)のpHが求めるpHということになります。このpHはおよそ5.6です(なお、点Rは0.01 mol/LアンモニアのpHを示す)。

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