弱モノプロトン酸(HA)を強塩基(NaOH)で滴定するときの理論的滴定曲線の描き方を説明します。滴定曲線を描くにはいくつかのやり方がありますが、今回は近似式による方法を取りあげます。
<<理論的滴定曲線>>
<酸塩基滴定における平衡>
酸塩基滴定における滴定曲線は、滴定液の滴下量(たとえば体積)と被滴定溶液のpHの関係をグラフに表したものです。この滴下量とpHの関係を求めることは、結局のところ酸と塩基の混合溶液のpHを求めることに他なりません。
Ca mol/Lの弱酸(HA)とCb
mol/Lの強塩基(NaOH)を含む混合溶液のpHを求めるときの関係式は次の通りです(2023-06-18)。
平衡定数式:
Ka = [H][A]/[HA] …①
Kw = [H][OH] …②
物質バランス式:
Ca = [A]+[HA] …③
Cb = [Na] …④
電荷バランス式:
[H]+[Na] = [OH]+[A] …⑤
弱酸(HA)をNaOHで滴定するとき、試料溶液および滴定液の酸塩基濃度をそれぞれCao, Cbo、試料溶液の体積をV mL, 滴下量をT mLとし、被滴定溶液(混合溶液)の酸塩基濃度をCa, Cbとすると、被滴定溶液は試料溶液および滴定液が混合して互いに希釈されたものと考えられるので、Ca, CbとCao, Cboの間には、次の関係が成立します。
Ca = CaoV/(V+T) …⑥
Cb = CboT/(V+T) …⑦
Cao, Cbo, Vが既知のとき、①~⑦の関係式から滴下量Tと被滴定溶液のpHの関係を求めることができます。
<滴定曲線を描く方法>
滴定曲線を描くにはいくつかの方法がありますが、大きく言うと、
(A) 滴下量(T)を与えてpHを求める方法
(B) pHを与えて滴下量(T)を求める方法
の二つに分けられます。
(A)の方法: ①~⑦の関係式を用いて電荷バランス式から方程式Q([H],T)=0を作り、Tを与えてこの方程式を解いて[H]を求めます。しかし、Qは[H]に関して高次式(*1)となるので、高次方程式Q=0を解くためにはなんらかの工夫が必要です。
(*1) もし、溶液中にn個の平衡が存在するならば、Q([H])はn+1の次数を持つ式となる。たとえば、NaOHによる強酸の滴定の場合は平衡式が1個(Kw=[H][OH])なので、Q([H])=0は2次方程式となり解の公式が適用できる(2023-06-25)。弱酸(HA)の滴定のように平衡定数式が2個(Kw, Ka)の場合、Q([H])=0は3次方程式となる。
工夫のひとつは、(1)いくつかのケース分けを行い、ケースごとにある仮定を設けて近似して方程式の次数を2次以下に下げる方法(近似法)、もう一つは、(2)表計算ソフト(エクセル)を用いて、ケース分けせず直接Q=0の近似解を求める方法(二分法(2023-04-30)、MIN法(2023-05-05))を用いることです。
(B)の方法: Q([H],T)=0はTに関しては1次式となるので、T=g([H])の形にしてこの式に[H]を与えるとTを求めることができます。この方法は前回(2023-06-25)、強酸-強塩基の滴定において説明しました。
<<近似法>>
今回は近似法を取りあげます。Cao mol/Lの1価の弱酸(HA)溶液V mLをCbomol/LのNaOH溶液で滴定する(滴下量:T mL)ことを考えます。弱酸の酸解離定数をKaとします。
関係式は、
Ka = [H][A]/[HA] …①
Kw = [H][OH] …②
Ca = [A]+[HA] …③
Cb = [Na] …④
[H]+[Na] = [OH]+[A] …⑤
Ca = CaoV/(V+T) …⑥
Cb = CboT/(V+T) …⑦
①~⑤式から次式が得られます。
Ka = [H](Cb+[H]-[OH])/(Ca-Cb-[H]+[OH]) …⑧
また、当量点における滴下量をTeq mLとすると、
CaoV = CboTeq
が成立します。
被滴定溶液のpHを求めるために次の4つの段階に区別して考えます。
(1) 滴定液を加える前(T=0)
(2) 滴定を開始して当量点に達する前まで(0<T<Teq)
(3) 当量点(T=Teq)
(4) 当量点を超えた後(T>Teq)
<滴定液を加える前(T=0)>
この場合は、Cao mol/Lの弱酸(HA)溶液のpHを求めるのと同じことです(2023-04-16)。
⑧式において、Cb=0,
Ca=Caoとすると、
Ka = [H]([H]-[OH])/(Cao-[H]+[OH]
もし[H]>>[OH]ならば、
Ka = [H]^2/(Cao-[H])
[H]
= {-Ka+√(Ka^2+4KaCao)}/2
もし[H]>>[OH] かつ Cao>>[H]ならば、
[H]
= √(KaCao)
pH = -log(√(KaCao))
<滴定を開始して当量点に達する前まで(0<T<Teq)>
この場合は、弱酸-強塩基混合物のpHを求める方法が適用できます(2023-06-18)。
⑧式において、
Cb>>([H]-[OH]), (Ca-Cb)>>([OH]-[H])ならば、
Ka = [H]Cb/(Ca-Cb)
したがって、
[H] = Ka(Ca-Cb)/Cb
pH = pKa-log((Ca-Cb)/Cb) …(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ式)
この式は、Cbが非常に小さい場合やCaとCbが非常に接近している場合は、成立しません。当量点付近で滑らかな曲線を描くためには当量点付近でTの刻みをできるだけ小さくしたほうがよいのですが、TがTeqにあまりに近すぎるとヘンダーソン・ハッセルバルヒ式から求めたpHの値は実際の値と乖離してきます。
<当量点(T=Teq)>
この場合は弱酸と強塩基からなる塩と同等です(2023-05-21)。
⑧式において、Ca=Cbとすると、
もし[OH]>>[H]ならば、
Ka =[H](Cb-[OH])/[OH]
さらに、Cb>>[OH]ならば、
Ka =[H]Cb/[OH]
つまり、
[H] = √(KaKw/Cb)
pH = -log(√(KaKw/Cb))
<当量点を超えた後(T>Teq)>
もし、[OH]>>[H]ならば、⑤式から、
[OH] = Cb-[A]
また、[A]>>[HA]つまりKa>>[H]ならば、③式から、
Ca = [A]
したがって、
[OH] = Cb-Ca
[H] = Kw/(Cb-Ca)
pH = -log(Kw/(Cb-Ca))
この式は、CaとCbが非常に接近している場合は、成立しません。また、当量点を超えるとpHはKaの値に影響されないことが分かります。
0.1 mol/Lの酢酸(HA) 20 mLを0.1 mol/LのNaOHで滴定するときの近似法によるpH計算値を図-1に示し、滴定曲線を図-2に示します。


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