これまで、近似法・二分法・MIN法による酸塩基滴定曲線の描き方について述べてきました。これらの方法はすべて、滴下量(T)を与えて被滴定溶液のpHを求める方法でした。今回は「pHを与えて滴下量(T)を求める方法」(レビ法)について説明します。
<<レビ法について>>
理論的な酸塩基滴定曲線(T-pH)を作成するには、大別して次の2つの方法があります。
(A) 滴下量(T)を与えて、被滴定溶液のpHを求める方法
(B) 被滴定溶液のpHを与えて、滴下量(T)を求める方法
Tを与えてpHを求める場合(A)は、[H]に関する高次方程式を解く必要があります。このためには、近似法(2023-07-02)、二分法(2023-07-09)、MIN法(2023-07-16)などを用いて近似的に解を求めるのが一般的です。
一方、pHを与えてTを求める場合(B)は、Tに関する1次方程式を解けばよいので、T=g(pH)という形に式を導けば簡単に数値計算をすることができます。ここではこの方法を「レビ法」と呼ぶことにします。
詳細は、次の文献を参照願います。
・Robert de Levie, J.
Chem. Ed., 76, 987 (1999)
・宗林由樹 監訳「ハリス分析化学[原著9版](上)」化学同人 317 (2017)
<<弱酸の滴定における酸塩基平衡>>
Cao
mol/Lの1価の弱酸(HA)溶液, 体積V mLをCbo
mol/LのNaOH溶液で滴定(滴下量:T mL)することを考えます。弱酸の酸解離定数をKaとすると、次の関係式が成立します。
Ka = [H][A]/[HA] …①
Kw = [H][OH] …②
Ca = [A]+[HA] …③
Cb = [Na] …④
[H]+[Na] = [OH]+[A] …⑤
Ca = CaoV/(V+T) …⑥
Cb = CboT/(V+T) …⑦
<T=g(pH)式の誘導>
①, ③式から、
[A] = Ca/(1+[H]/Ka) = CaKa/(Ka+[H])
この式と④式を⑤式に代入すると、
[H]+Cb = [OH]+CaKa/([H]+Ka)
⑥, ⑦式を代入すると、
[H]+CboT/(V+T) = [OH]+(CaoV/(V+T))Ka/([H]+Ka)
両辺にV+Tを掛けてTについて整理すると、
[H](V+T)+CboT = [OH](V+T)+CaoVKa/([H]+Ka)
[H]T+CboT-[OH]T = -[H]V+[OH]V+CaoVKa/([H]+Ka)
T(Cbo+[H]-[OH]) = V(CaoKa/([H]+Ka)-[H]+[OH])
T = V(CaoKa/([H]+Ka)-([H]-[OH]))/(Cbo+[H]-[OH])
ここで、Ka/([H]+Ka)=fa(*1), [H]-[OH]=Δと置くと、
T = V(Caofa-Δ)/(Cbo+Δ) …⑧
したがって、pHが与えられると、[H]=10^-pH, [OH]=Kw/[H]を⑧式に代入してTを求めることができます。⑧式は近似式ではなく厳密に正しい式です(ただし活量係数の問題は別として)。
(*1) fa=Ka/([H]+Ka)=[A]/([A]+[HA])
= [A]/Caであり、faは被滴定溶液中の[A]のモル分率を表している。
このような方法がレビ法です。レビ法では関係式を導いてpHを与えるとTの値はエクセル(あるいは関数電卓)で簡単に計算することができます。また任意のpHを与えることが可能なので当量点付近のpHジャンプを滑らかに描くことができます。
しかしレビ法では特定のTに関するpHを直接求めることができません。したがって、たとえば滴定の開始前や当量点などにおけるpHを求めたい場合、シート上でpHを試行錯誤的に変化させて近似的に求めるか、あるいはより厳密に求めたい場合はゴールシーク機能やソルバー機能を用いる必要があります。
<<レビ法による滴定曲線の描き方>>
レビ法を用いて、Cao=0.1
mol/Lの酢酸(HA)溶液, 体積V=20 mL(pKa=4.76)をCbo=0.1
mol/LのNaOH溶液で滴定(滴下量:T mL)するときの理論的滴定曲線を描きます。
<レビ法の操作手順>
エクセルでの計算結果を図-1示します。また作成した滴定曲線を図-2示します。
操作手順を以下の通りです。
1) D3~D9に定数値(pKa, pKw, Ka,
Kw, Cao, V, Cbo)を入力する。
2) B16~B43にpHの値を2.0~14.0まで0.5きざみで入力する(ただし、18行, 31行, 40行については滴定前、当量点、滴定終了時のpHを求めるため、後から行を挿入した)。
3) C16~H16に[H], [OH], Δ, fa, E, Tの計算式を入力する。
・[H] = 10^-pH
・[OH] = Kw/[H]
・Δ = [H]-[OH]
・fa = Ka/([H]+Ka)
・E = (fa*Cao-Δ)/(Cbo+Δ)
・T = EV
4) C16:H16をC17:H17からC43:H43までコピーする。
5) 滴定前のpHを求める。
・Tの値が-から+に変わる行(pH2.5とpH3.0の間)に行を挿入し、直前の行をコピーする。
・目的セル:T(H18)、目標値:"0"、変数セル:pH(B18)としてソルバーを実施する。
6) 当量点のpHを求める。
・T=20の前後に行を挿入し、直前の行をコピーする。
・目的セル:T(H31)、目標値:"20"、変数セル:pH(B31)としてソルバーを実施する。
7) 滴定終了時のpHを求める。
・T=40の前後に行を挿入し、直前の行をコピーする。
・目的セル:T(H40)、目標値:"40"、変数セル:pH(B40)としてソルバーを実施する。
8) B18:B40をI18:I40にコピーする。
9) 範囲(H18:I40)を指定して散布図を描く。
これまで、弱モノプロトン酸の滴定曲線の描き方として、「近似法」「二分法」「MIN法」「レビ法」について紹介してきました。これらの方法にはそれぞれ一長一短があるので、目的に応じて使い分けるとよいと思います。各法の比較を図-3にまとめます。



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