これまで、弱酸を強塩基で滴定するときの理論的滴定曲線について考えてきました。今回は、弱塩基を強酸で滴定する場合について考えます。この場合も理論的滴定曲線の作成方法は弱酸の場合と基本的には同じです。ここでは、アンモニアを塩酸で滴定する場合について考えます。
<<関係式>>
モル濃度Cbo mol/L, 体積V mLのアンモニア(NH3)(pKn=9.25)をCao mol/LのHClで滴定するとき(滴下量T mL)の滴定曲線を作ります。アンモニウムイオンの酸解離定数をKn, 水のイオン積をKwとします。
NH4+
⇆
H+ + NH3
Kn = [H][NH3]/[NH4] (*1) …①
H2O ⇆ H+ + OH-
Kw = [H][OH] …②
HCl → H+ + Cl-
(*1) 平衡定数がアンモニウムイオンの酸解離定数Knではなく、アンモニアの塩基解離定数Kb=[NH4][OH]/[NH3]で与えられることもある。KnとKbの間には、Kn×Kb=Kwの関係が成立するので、もしKbが与えられてもKnに変換できる。
被滴定溶液中のアンモニア濃度をCb、塩酸濃度をCaとすると、
物質バランスから、
Cb = [NH3]+[NH4] = [NH4](1+Kn/[H]) …③
Ca = [Cl] …④
電荷バランスから、
[H]+[NH4] = [OH]+[Cl] …⑤
したがって、被滴定溶液中の化学種濃度は、
[H] = 10-pH
[OH] = Kw/[H]
[HN4] = Cb/(1+Kn/[H])
[Cl] = Ca
と表されます。
また、Cbo, Caoとの関係は、
Cb = CboV/(V+T) …⑥
Ca = CaoT/(V+T) …⑦
となります。
<<近似法>>(2023-07-02)
⑤式, ④式から、
[NH4] = [Cl]+[OH]-[H] = Ca+[OH]-[H]
この式と③式から、
[NH3] = Cb-Ca-[OH]+[H]
これらの式を①式に代入して、
Kn = [H](Cb-Ca-[OH]+[H])/(Ca+[OH]-[H]) …⑧
⑧は厳密に正しい式です。
以下、
(1)滴定液を加える前(T=0)
(2)滴定を開始して当量点に達する前まで(0<T<Teq)
(3)当量点(T=Teq)
(4)当量点を超えた後(T>Teq)
に分けて⑧式の近似を行います。
<(1) 滴定液を加える前(T=0)>
この場合は、Cbo mol/Lの弱塩基溶液のpHを求めるのと同じです。
Cb=Cbo,
Ca=0なので、⑧式は、
Kn = [H](Cbo-[OH]+[H])/([OH]-[H])
もし、[OH]>>[H]ならば、
Kn = [H](Cbo-[OH])/[OH]
さらに、Cbo>>[OH]ならば、
[H] = √(KnKw/Cbo)
<(2) 滴定を開始して当量点に達する前まで(0<T<Teq)>
この場合は、強酸-弱塩基混合物のpHを求める方法が適用できます。
Ca>>([OH]-[H]),
(Cb-Ca)>>([H]-[OH])ならば、⑧式は、
Kn = [H](Cb-Ca)/Ca
つまり、
[H] = KnCa/(Cb-Ca)
<(3) 当量点(T=Teq)>
この場合は強酸と弱塩基からなる塩と同等です。
Ca=Cbなので、⑧式は、
Kn = [H](-[OH]+[H])/(Ca+[OH]-[H])
もし、[H]>>[OH], Ca>>[H]ならば、
Kn = [H]^2/Ca
[H] = √(KnCa)
<(4) 当量点を超えた後(T>Teq)>
当量点を超え、HClが過剰になると、アンモニアは実質的にすべてNH4+になり、⑤式は次のように近似できます。
もし、[H]>>[OH]ならば、
[H] = Ca-[NH4]
さらに、[NH4]>>[NH3]ならば、
Cb = [NH4]
したがって、
[H] = Ca-Cb
近似法を用いて、モル濃度Cbo=0.1 mol/L, 体積V=20 mLのアンモニア(NH3)をCao=0.1 mol/LのHClで滴定するとき(滴下量T mL)の滴定曲線を作ります。計算結果と滴定曲線を図-1に示します。
<<二分法、MIN法>>
⑤式から、
[H]-[OH]+[NH4]-[Cl] = 0
この式の左辺をQと置きます。
Q = [H]-[OH]+[NH4]-[Cl]
Qを[H]の関数として表すと、
Q = [H]-Kw/[H]+Cb/(1+[H]/Kn)-Ca
Q=f(pH)とすると、f(pH)は単調減少関数なので、Q=0を解くのに二分法あるいはMIN法を用いることができます。
モル濃度Cbo=0.1
mol/L, 体積V=20 mLのアンモニア(NH3)をCao=0.1 mol/LのHClで滴定するとき(滴下量T mL)の滴定曲線を二分法およびMIN法により作ります。
<二分法>(2023-07-09)
二分法を用いて求めた計算結果と滴定曲線を図-2に示します。
<MIN法>(2023-07-16)
MIN法を用いて求めた計算結果と滴定曲線を図-3に示します。
<<レビ法>>(2023-07-23)
③式から、
[NH4] = Cb/(1+Kn/[H]) = Cb[H]/(Kn+[H])
この式と④式を⑤式に代入すると、
[H]+Cb[H]/([H]+Kn) = [OH]+Ca
これに⑥, ⑦式を代入すると、
[H]+(CboV/(V+T))[H]/([H]+Kn) = [OH]+CaoT/(V+T)
ここで、[H]/([H]+Kn)=fb(*2), [H]-[OH]=Δと置くと、
Δ+(CboV/(V+T))fb = CaoT/(V+T)
Tについて整理すると、
Δ(V+T)+CboVfb = CaoT
T(Cao-Δ) = V(Cbofb+Δ)
T = V(Cbofb+Δ)/(Cao-Δ) …⑨
したがって、pHが与えられると、[H]=10^-pH,
[OH]=Kw/[H]を⑨式に代入してTを求めることができます。⑨式は厳密に正しい式です。
(*2) fbは被滴定溶液中の全アンモニア濃度に対する[NH4]のモル分率を表している。
fb=[H]/([H]+Kn)=[NH4]/([NH3]+[NH4])=[NH4]/Cb
モル濃度Cbo=0.1 mol/L, 体積V=20
mLのアンモニア(NH3)をCao=0.1
mol/LのHClで滴定するとき(滴下量T mL)、レビ法を用いて求めた計算結果と滴定曲線を図-4に示します。




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