モノプロトン酸塩基のところでも述べたように(2023-05-14)、pHと化学種濃度の対数の関係を表したグラフは対数濃度図と呼ばれます。対数濃度図を作成すれば系全体を一目で見渡すことができます。そして、この図から溶液のおおよそのpHを求めることができ、またあるpHにおける優勢な化学種がどれかを知ることができ近似式を導くうえで非常に役に立ちます。今回は、エクセルを用いてジプロトン酸に関する対数濃度図を作成し、溶液のpHを求めます。
<<対数濃度図>>
酸塩基平衡にはpHが大きく係わります。酸塩基問題を解く場合、pHと化学種濃度の対数値(log C)をグラフに表すと、その関係がよく分かります。このグラフは対数濃度図と呼ばれます。
「濃度Ca mol/L、酸解離定数K1, K2のジプロトン酸」に関する対数濃度図を作成します。この酸溶液中に含まれる化学種は、H2A,
HA-, A2-, H+, OH-の5種類です。これらの化学種濃度を[H]とCa, K1, K2で表すことを考えます。
K1 =
[H][HA]/[H2A] …① (平衡式)
K2 = [H][A]/[HA] …② (平衡式)
Ca = [H2A]+[HA]+[A] …③ (物質バランス式)
まず[H2A]をK1, K2, Caで表す式を考えます。
①式から
[HA] = K1[H2A]/[H]
①式×②式から、
K1K2 = [H]^2[A]/[H2A]
[A] = K1K2[H2A]/[H]^2
これらを③式に代入して、
Ca = [H2A](1+K1/[H]+K1K2/[H]^2)
= [H2A]([H]^2+K1[H]+K1K2)/[H]^2
したがって、
[H2A] = Ca[H]^2/([H]^2+K1[H]+K1K2)
同様に、[HA]については、
①から、
[H2A] = [H][HA]/K1
②から、
[A] = K2[HA]/[H]
これらを③に代入して整理すると、、
Ca = [HA]([H]/K1+1+K2/[H])
[HA] = CaK1[H]/([H]^2+K1[H]+K1K2)
[A]については、
Ca = [A]([H]^2/(K1K2)+[H]/K2+1)
[A] = CaK1K2/([H]^2+K1[H]+K1K2)
ここで、
[H]^2+K1[H]+K1K2 = E …④
と置くと、
[H2A] = Ca[H]^2/E …⑤
[HA] =
CaK1[H]/E …⑥
[A] = CaK1K2/E …⑦
Eは[H]の関数です。
各化学種の対数は、
log[H] =-pH …⑦
log[OH] = -pKw+pH …⑨
log[H2A] = logCa-2pH-logE …⑩
log[HA] = logCa-pK1-pH-logE …⑪
log[A] = logCa-pK1-pK2-logE …⑫
となります。
<エクセルでの対数濃度図の作成方法>
対数濃度図はマニュアルで作図して作ることもできますが、ここではエクセルを利用します。エクセルを用いて対数濃度を描くには、pH(=0~14)を与えて[H]とEを求め、⑦~⑫式から各化学種濃度の対数を求めます。次いで、pHと各化学種の対数を範囲指定して散布図を描きます。
例として、0.01 mol/Lのマレイン酸(cis-ブテン二酸: pK1=1.92, pK2=6.27)の対数濃度図作成に関するエクセルシートと散布図を図-1に示します。
H2AとHA-の線の交点([H2A]=[HA])のpHはpK1となり、HA-とA2-の線の交点([HA]=[A])のpHはpK2となります。
また、図から分かるように、
(1) H2Aについては、pHが低いときはlogCaと一致する水平線、pHがpK1を過ぎると傾きが-1の直線、pK2を過ぎると傾きが-2の直線となります。
(2) HA-については、pHが低いときは傾きが+1の直線、pHがpK1を過ぎるとlogCaと一致する水平線、pK2を過ぎると傾きが-1の直線となります。
(3) A2-については、pHが低いときは傾きが+2の直線、pHがpK1を過ぎると傾きが+1の直線、pK2を過ぎるとlogCaと一致する水平線となります。
これらの関係を知れば対数濃度図をマニュアルで作図することができます。
<<対数濃度図の利用>>
<対数濃度図によるpHの求め方>
対数濃度図を用いて0.01 mol/Lのコハク酸(ブタン二酸:
pK1=4.21, pK2=5.64)のpHを求めます。コハク酸に関する対数濃度図を図-2に示します。
コハク酸(H2A)のpHを求めるためには、図中において次の電荷バランス式(あるいはH2Aを基準とするプロトン条件式)が成立するような点を見つける必要があります。
[H] = [OH]+2[A]+[HA]
図中H+の線はOH-の線やA2-の線(緑色)と交わるよりも早くHA-の線(赤色)と交わるので、まずH+の線とHA-の線の交点を考え、これをP点とします。このP点の垂線がA2-の線と交わる点をQ点とし、またOH-の線と交わる点をRとすると、P点とR点、R点とQ点の濃度の差から少なくとも[HA]/[OH]>10^6, [A]/[OH]>10^4となり、[OH]は2[A]+[HA]に対して明らかに無視できます。またP点とQ点の差からlog([HA]/[A])≒2.5 (つまり[HA]/[A]≒300)となるので、2[A]は[HA]に対して無視できます(*1)。したがって近似的にP点([H]=[HA])のpHが求める答えとなります。図から読み取るとこのpHはおよそ3.1です。
(*1) P=(xp, yp) , Q=(xp, yq)とすると図-2からyp-yq≒2.5と読み取れる。yp=log[HA], yq=log[A]なので、log[HA]-log[A] = log([HA]/[A])=2.5 したがって[HA]/[A]=10^2.5≒300となる。0.05[HA]>2[A]のとき[HA]に対し2[A]が無視できるとすると、これは[HA]/[A]>40 (つまりlog([HA]/[A])>1.6)のときである。[HA]/[A]=300なので[HA]に対し2[A]は無視できる。
図-2では([OH]+2[A])が[HA]に対して無視できる例を示しましたが、図-3では([OH]+2[A])が[HA]に対して無視できない例を示します。0.0003 mol/Lのシュウ酸(pK1=1.25, pK2=4.27)の場合、P点とR点が近接して[HA]/[A]≒9となり、2[A]は[HA]に対して無視できず、K2を考慮する必要があることが分かります(図-3中で紫色の線:log([HA]+2[A]),
P'点:log[H]=log([HA]+2[A]) )。
今回は対数濃度図を用いてジプロトン酸(H2A)のpHを求めました。ジプロトン塩基についても同様です。対数濃度を見ると、どの成分が優勢であるかが一目でわかり、電荷バランス(あるいはプロトンバランス)が成立するpHを図から簡単に見つけることができます。また、この対数濃度図は近似法(2023-09-17)で近似式を考える上で非常に役立ちます。
対数濃度図はジプロトン酸の塩のpHを求める場合にも利用できます。さらにポリプロトン酸やその塩あるいはさらにもっと複雑な系のpHを考える場合にも有効です。



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