これまで、ジプロトン酸塩基自身のpHの求め方を説明してきました。これからはそれらが中和してできた塩のpHの求め方について述べます。   

<<Na2A塩溶液のpH>>
ジプロトン酸(H2A)2個のプロトンがすべてNaOHで中和された正塩(Na2A)溶液のpHについて考えます。Na2A塩の代表例として炭酸ナトリウム(Na2CO3)を取りあげます(他のジプロトン酸塩(Na2A)を考える場合はCO3Aに置き換えること)

炭酸ナトリウム(Na2CO3)は水に溶かすと、ナトリウムイオン(Na+)と炭酸イオン(CO32-)に解離します。Na+は加水分解しませんが、炭酸イオン(CO32-)は2段階で加水分解してOH-を放出し、溶液は塩基性に傾きます。なおここでは気相との平衡は考えないこととします。
CO32-
H2O HCO3- OH-   
HCO3-
H2O H2CO3 OH-   
炭酸イオン(CO32-)塩基解離定数Kb1, Kb2とすると
(*1)
Kb1 = [HCO3][OH]/[CO3] …①
Kb2 = [H2CO3][OH]/[HCO3] …②
また、水溶液中では水の解離も存在するので、
Kw = [H][OH]
 …③
以上3つの平衡式が成立します。
(*1) 炭酸イオンの共役酸である炭酸の酸解離定数をK1, K2とすると、Kb1 = Kw/K2, Kb2 = Kw/K1の関係が成立する。   

Cs mol/LNa2CO3pHを求めます。
物質バランスから、
Cs = [CO3]
[HCO3][H2CO3] …④
2Cs = [Na]
 …⑤
電荷バランスから、
[H]
[Na] = [OH]2[CO3][HCO3] …⑥
, , ②式から、
Cs = [HCO3]([OH]/Kb1
1Kb2/[OH]) …⑦
, , ①式から、
2Cs
[H][OH] = [HCO3](2[OH]/Kb11) …⑧
/⑦から、
(2Cs
[H][OH])/Cs = (2[OH]/Kb11)/([OH]/Kb11Kb2/[OH]) …⑨   

以下いくつかの仮定を設けて⑨式の近似を行います。
(1) 
Na2CO3溶液はCO32-加水分解により塩基性に傾いています。もし[OH]>>[H]ならば、⑨式は、
(2Cs[OH])/Cs = (2[OH]/Kb11)/([OH]/Kb11Kb2/[OH]) …⑩
この式を[OH]について整理すると、
[OH]^3
Kb1[OH]^2(Kb1Kb2Kb1Cs)[OH]2Kb1Kb2Cs = 0 …⑪   

(2) Na2CO3加水分解反応
CO32- H2O HCO3- OH-   
HCO3-
H2O H2CO3 OH-   
において、静電的な効果から考えて1価の陰イオン(HCO3-)は2価の陰イオン(CO32-)に比べてH2Oとの結びつきが弱いので、2段目の解離は1段目の解離に比べ進行しにくいと言えます。
もし2段目の解離が無視できる
ならば、⑪式においてKb2を含む項はなくなり、
[OH]^2
Kb1[OH]Kb1Cs = 0 …⑫   

(3) さらに、Cs>>[OH]ならば
[OH] = (Kb1Cs) …⑬
[H] = (K2Kw/Cs)
と近似することができます。
Na2CO3ここまでの取り扱い方はジプロトン塩基の場合と同じです(2023-09-17)   

2段目の解離が無視できる条件>
2
段目の解離が無視できる条件についても、取り扱いはジプロトン塩基の場合と同じです。
H+の生成および第2解離が非常に小さい場合、1段目の解離で生成したOH-濃度を[OH]1, 2段目の解離で生成したOH-濃度を[OH]2とすると全体で
[OH] = [OH]1
[OH]2 = [OH]1[H2CO3]≒[OH]1Kb2
となります。
したがって、⑫式で求めた[OH][OH]1として、[OH]1>>Kb2ならばこの補正は必要ありません
(実際の塩溶液においてこのような補正を必要とすることはあまりないと考えられる)

2023-10-08-fig0

<近似法によるNa2ApHの求め方>
一般に、ジプロトン酸の二ナトリウム塩(Na2A)溶液(濃度Cs, 塩基解離定数: Kb1, Kb2)pHの求め方の手順を以下に示します。共役酸の酸解離定数がK1, K2で与えられているときは、Kb1=Kw/K2, Kb2=Kw/K1です。pHの許容差は0.02とします。
(
) ⑬式を用いて[OH]ap, [H]ap, pHapを計算する。
[OH]ap =
(Kb1Cs)
[H]ap = Kw/[OH]ap
   

() [OH]>>[H]の条件:0.047[OH]ap[H]apすなわちpHap7.66ならば()に行く。そうでなければ、エクセルを利用する。   

() Cs>>[OH]の条件:[OH]ap0.047CsすなわちpHaplogCs12.67ならば、
[H] = [H]ap = Kw/[OH]ap
そうでなければ、()に行く。   

() ⑫式から[OH], [H], pHを求める。
[OH]^2
Kb1[OH]CsKb1 = 0
[OH]1 = (
Kb1+√(Kb1^24Kb1Cs))/2
[H]1 = Kw/[OH]1
   

() [OH]>>Kb2の条件:()で求めた[OH]1に対し、0.047[OH]1Kb2すなわちpH115.33pKb2ならば、このpH1は十分に正しい
そうでなければ、[OH]1Kb2を新たな[OH]としてpHを求める

例題1 0.20 mol/LのNa2CO3溶液のpHを求めよ。H2CO3の酸解離定数はpK1=6.35, pK2=10.33とする。

近似法を用いて解く。
pKb1 = pKw
pK2 = 14.0010.33 = 3.67
pKb2 = pKw
pK1 = 14.006.35 = 7.65
pOHap, pHap
を計算する。
pOHap = (pKb1
logCs)/2 = (3.670.70)/2 = 2.18
[OH]>>[H]
の条件:pHap = 14.00pOHap = 11.827.66 ⇒ 条件成立
Cs>>[OH]
の条件:pHap = 11.8213.37 = logCs12.67 ⇒ 条件成立
pH1 = 11.82
[OH]>>Kb2
の条件:pH1 = 11.827.68= 15.33pKb2 ⇒ 条件成立
(
) pH = 11.82   

例題2 1.0×10^-4 mol/LNa2CO3溶液のpHを求めよ。H2CO3の酸解離定数はpK1=6.35, pK2=10.33とする。
近似法を用いて解く。
pKb1 = pKw
pK2 = 14.0010.33 = 3.67
pKb2 = pKw
pK1 = 14.006.35 = 7.65
pOHap, pHap
を計算する。
pOHap = (pKb1
logCs)/2 = (3.674.00)/2 = 3.84
[OH]>>[H]
の条件:pHap = 14.00pOHap = 10.177.66 ⇒ 条件成立
Cs>>[OH]
の条件:pHap = 10.17
8.67 = logCs12.67 ⇒ 条件不成立
[OH]1 = (
Kb1+√(Kb1^24Kb1Cs))/2 = 7.42×10^-5
[H]1 = 1.35
×10^-10 pH1 = 9.87
[OH]>>Kb2
の条件:pH1 = 9.877.68= 15.33pKb2 ⇒ 条件成立
(
) pH = 9.87