前回(2023-10-08)に引き続き、ジプロトン酸のナトリウム正塩(Na2A)溶液のpHの求め方について述べます。今回はエクセルの利用を考えます。
<<Na2A塩溶液のpH>>
エクセルを利用してジプロトン酸(H2A)の正塩(Na2A)溶液のpHを求める方法について説明します。Na2A塩の代表例として前回(2023-10-08)同様、炭酸ナトリウム(Na2CO3)を取りあげます。
炭酸ナトリウム(Na2CO3)は水に溶かすと、ナトリウムイオン(Na+)と炭酸イオン(CO32-)に解離します。Na+は加水分解しませんが、炭酸イオン(CO32-)は2段階で加水分解してOH-を放出し、溶液は塩基性に傾きます。なおここでは気相との平衡は考えないこととします。
CO32- + H2O ⇄ HCO3- + OH-
HCO3- + H2O ⇄ H2CO3 + OH-
炭酸イオン(CO32-)の塩基解離定数をKb1, Kb2とすると、
Kb1 = [HCO3][OH]/[CO3]
Kb2 = [H2CO3][OH]/[HCO3]
また、水溶液中では水の解離も存在するので、
Kw = [H][OH]
以上3つの平衡式が成立します。
炭酸イオンの共役酸である炭酸の酸解離定数をK1, K2とすると、Kb1
= Kw/K2, Kb2 = Kw/K1の関係が成立するので、以降K1, K2, Kwを用いて考察します。
Cs
mol/LのNa2CO3溶液のpHを得るための関係式は次の通りです。
平衡定数は、
K1 = [H][HCO3]/[H2CO3] …①
K2 = [H][CO3]/[HCO3] …②
Kw = [H][OH] …③
物質バランスは、
Cs = [CO3]+[HCO3]+[H2CO3] …④
2Cs = [Na] …⑤
電荷バランスは、
[H]+[Na] = [OH]+2[CO3]+[HCO3] …⑥
K1,
K2, Kw, Csが既知の場合、Cs mol/LのNa2CO3溶液に含まれる化学種の濃度は次のように表すことができます。
[H] = 10^-pH …⑦
[OH] = Kw/[H] …⑧
[Na] = 2Cs …⑨
[CO3] = Cs/(1+[H]/K2+[H]^2/K1K2) …⑩ {④, ①, ②式から}
[HCO3] = [H][CO3]/K2 …⑪
[H2CO3] = [H][HCO3]/K1 …⑫
<二分法によるNa2AのpHの求め方>
Q = [H]-[OH]+[Na]-2[CO3]-[HCO3]
と置くと、電荷バランス(⑥式)から、Q=0を与えるpHが求める値となります。二分法(2023-04-30)を利用すると解を得ることができます。
例題1 二分法を用いて1.0×10^-4 mol/LのNa2CO3溶液のpHを求めよ。H2CO3の酸解離定数はpK1=6.35,
pK2=10.33とする。
Q = [H]-[OH]+[Na]-2[CO3]-[HCO3]
として、Q=0となるpHを二分法で求める。
二分法で求めた結果を図-1に示す。(答) pH=9.87
<ソルバー法によるNa2AのpHの求め方>
二分法と同様、ソルバー法(2023-04-23)を用いるとQ = 0を与えるpHを求めることができます。
例題2 ソルバー法を用いて1.0×10^-4 mol/LのNa2CO3溶液のpHを求めよ。H2CO3の酸解離定数はpK1=6.35,
pK2=10.33とする。
Q = [H]-[OH]+[Na]-2[CO3]-[HCO3]
として、Q=0となるpHをエクセルのソルバー機能で求める。
・目的セル:Q , 目標値:0
・変数セル:pH
ソルバー法で求めた結果を図-2に示す。(答) pH=9.87
<対数濃度図によるNa2AのpHの求め方>
濃度CsのNa2CO3溶液の対数濃度図を描くために必要な化学種濃度(⑦~⑫)の対数式は次の通り(*1)。
log[H] =-pH
log[OH] = -pKw+pH
log[Na] = log2+logCs
log[CO3] = logCs-pK1-pK2-logE
log[HCO3] = logCs-pK1-pH-logE
log[H2CO3] = logCs-2pH-logE
ただし、E =K1K2+K1[H]+ [H]^2
(*1) 炭酸イオン: [CO3]=Cs/(1+[H]/K2+[H]^2/K1K2)=CsK1K2/(K1K2+K1[H]+[H]^2)
炭酸水素イオン: [HCO3]=[H][CO3]/K2=Cs[H]K1/(K1K2+K1[H]+[H]^2)
炭酸: [H2CO3]=[H][HCO3]/K1=Cs[H]^2/(K1K2+K1[H]+[H]^2)
また、④, ⑤式から、
[Na] = 2([CO3]+[HCO3]+[H2CO3])
これを⑥式に代入して整理すると、
[H]+2[H2CO3]+[HCO3] = [OH] (プロトン条件式)
したがって、対数濃度図中でプロトン条件式が成立するpHが求めるpHとなります。
例題3 対数濃度図を用いて1.0×10^-4 mol/LのNa2CO3溶液のpHを求めよ。H2CO3の酸解離定数はpK1=6.35,
pK2=10.33とする。
対数濃度図を図-3に示す。プロトン条件式から分かるように、log[Na]はpHを求めるのに不必要なので図には記入していない。したがってこの対数濃度図はH2CO3のそれと同じである。
図-3から明らかなように、log[HCO3]とlog[OH]の交点において[HCO3]>>([H]+2[H2CO3])である。したがってプロトン条件式[H]+2[H2CO3]+[HCO3] = [OH]は、[HCO3]≒[OH]と近似できるので、log[HCO3]とlog[OH]の交点のpHが求める答えとなる。
(答) pH=9.9
<<プロトン条件について>>
例題3に示した式:[H]+2[H2CO3]+[HCO3]
= [OH] は、プロトン条件式と呼ばれます。プロトン条件式は、電荷バランス式の別表現と考えることができます。電荷バランス式は電荷(e-)の授受で式を考えますが、プロトン条件式はプロトン(H+)の授受で式を立てます。
プロトン条件とは、「基準となる化学種を選び、この基準化学種に対して、プロトン(水素イオン)を与えることのできる化学種のプロトン濃度の和はプロトンを受け取ることのできる化学種のプロトン濃度の和に等しい」というプロトンの収支に関する原則です。
基準化学種としては、一般に、その溶液の主成分となる化学種が選ばれます。例えば、Na2A溶液の場合は主成分であるH2OおよびA2-を基準化学種として選びます。したがって、H3O+(水和したプロトン)はプロトンを1個与えることのできる化学種と考えます。また同様に、HA-はプロトンを1個、H2Aはプロトンを2個与えることのできる化学種です。さらにOH-はプロトンを1個受け取ることのできる化学種と考えます。
H3O+ → H2O + H+
HA- → A2- +
H+
H2A → A2- +
2H+
OH- + H+ → H2O
Na+はプロトン(H+)の授受に関係しないので、プロトン条件式には現れてきません。また、H3O+は以降略してH+と表します。
したがって、プロトンを与える化学種を左側、プロトンを受け取る化学種を右側に置くと、プロトン条件式は、
[H]+2[H2A]+[HA] =
[OH]
となります。
また、Na2Aのプロトン条件式は、例題3で示したように、
物質バランス式:[Na] = 2([H2A]+[HA]+[A])
および、
電荷バランス式:[H]+[Na] = [OH]+[HA]+2[A]
から数学的に[Na]と[A]を消去することによっても作成できます。
対数濃度図上でこのプロトン条件式が(近似的に)成立する点を見つけると、その場所が溶液のpHおよび各化学種濃度を指し示すことになります(例えば図-3)。



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