これまで、ポリプロトン酸塩基の滴定曲線を描く方法として、近似法(2023-11-26)、二分法(2023-12-03)を見てきました。これらの方法は、滴下量(T)を与えて被滴定溶液のpHを求める方法でした。今回は「レビ法」について説明します。これは逆に「pHを与えて滴下量(T)を求める方法」です。
Tを与えてpHを求める場合、滴定曲線の式は[H]に関する高次方程式となり、これを解くには、近似法、二分法などを用いて近似的に解を求めるのが一般的です。
一方、pHを与えてTを求める場合は、滴定曲線の式はTに関する1次方程式となるので、T=f(pH)という形に式を導けば近似操作なしに数値計算をすることができます。ここではこの方法を「レビ法」と呼ぶことにします(2023-07-23)。
<<関係式>>
<ジプロトン酸の滴定曲線の式>
たとえば、Cao mol/Lのジプロトン酸(H2A), V mLをCbo mol/LのNaOHで滴定(滴下量, T mL)するときの滴定曲線の式は、次式で表すことができます(2023-11-26)。Δ=[H]-[OH]として、
T = V(Cao(2f0+f1)-Δ)/(Cbo+Δ)
ここで、fは化学種の分率で、
f0 = [A]/Ca = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
f1 = [HA]/Ca = f0[H]/K2
f2 = [H2A]/Ca = f1[H]/K1
<ポリプロトン酸の滴定曲線の式>
もう少し一般化して、ポリプロトン酸(HmA)について考えると、関係式は、
平衡定数:
K1 = [H][Hm-1A]/[HmA]
K2 = [H][Hm-2A]/[Hm-1A]
…
Km-1 = [H][HA]/[H2A]
Km = [H][A]/[HA]
Kw = [H][OH]
物質バランス:
Ca = [A]+[HA]+…+[Hm-1A]+[HmA] = CaoV(V+T)
Cb = [Na] = CboT(V+T)
電荷バランス:
[H]+[Na] = [OH]+m[A]+(m-1)[HA]+…+[Hm-1A]
ポリプロトン酸(HmA)の各化学種を化学種分率(2023-10-29)で表すと、
f0 = [A]/Ca
f1 = [HA]/Ca
f2 = [H2A]/Ca
…
fm-1 = [Hm-1A]/Ca
fm = [HmA]/Ca
したがって、これらの化学種分率を電荷バランス式に代入すると、
[H]+Cb = [OH]+Ca(mf0+(m-1)f1+…+fm-1)
さらに、Ca=CaoV(V+T), Cb=CboT(V+T)を代入して整理すると、
T = V(Cao(mf0+(m-1)f1+…+fm-1)-Δ)/(Cbo+Δ) …①
これが、ポリプロトン酸(HmA)の滴定曲線の式となります。ここでΔ=[H]-[OH]です。
[H], 酸解離定数と化学種分率fの間には次の関係が成立し、fは[H]のみの関数であることが分かります。
α = 1/f0 = 1+[H]/Km+[H]^2/(KmKm-1)+…+[H]^m-1/(KmKm-1…K2)+[H]^m/(KmKm-1…K1)
とすると、
f0 = 1/α
f1 = [H]/(αKm) = f0[H]/Km
f2 = [H]^2/(αKmKm-1) = f1[H]/Km-1
…
fm-1 = [H]^m-1/(αKmKm-1…K2) = fm-2[H]/K2
fm = [H]^m/(αKmKm-1…K1) = fm-1[H]/K1
したがって、Cao, Cbo, Vおよび酸解離定数(K1,…,Km)が既知のとき、あるpHが与えられると①式からTを求めることができます。①式は近似式ではなく厳密に正しい式です(活量係数の問題は別として)。
<塩基やNa塩の滴定曲線の式>
塩基や塩の滴定についても同様のやり方で滴定曲線の式を得ることができます。
たとえば、Cbo mol/Lのジプロトン塩基(B), V mLをCao mol/LのHClで滴定(滴下量, T mL)するときの滴定曲線の式は、
T = V(Cbo(f1+2f2)+Δ)/(Cao-Δ)
f0 = [B]/Cb = 1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)
f1 = [HB]/Cb = f0[H]/K2
f2 = [H2B]/Cb = f1[H]/K1
また、Cbo mol/Lのジプロトン酸のナトリウム塩(Na2A), V mLをCao mol/LのHClで滴定(滴下量, T mL)するときの滴定曲線の式は、
T = V(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)/(Cao-Δ)
f0 = [A]/Cb= 1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)
f1 = [HA]/Cb = f0[H]/K2
f2 = [H2A]/Cb = f1[H]/K1
<<レビ法の操作>>
Cao mol/Lのジプロトン酸(H2A), V mLをCbo mol/Lの強塩基(NaOH), T mLで滴定する場合を例として、エクセルを用いたレビ法のやり方を説明します。作成したシートの一例を図-1に示します。
計算式
C14=10^-B14
D14=$D$8/C14
E14=C14-D14
F14=1+C14/$D$7+C14^2/($D$7*$D$6)
G14=1/F14
H14=G14*C14/$D$7
I14=H14*C14/$D$6
J14=$H$4*($H$3*(2*G14+H14)-E14)/($H$5+E14)
K14=B14
シートの作成方法および滴定曲線の描き方は次の通りです。
(1) pHを1.0から0.5きざみで14.0まで入れる。
(2) 与えられたpHに対して、[H], [OH], Δ, α, f0, f1, f2, Tを計算する。計算式は次のとおり。
[H]=10^(-pH)
[OH]=Kw/[H]
Δ=[H]-[OH]
α=1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1)
f0=1/α
f1=f0[H]/K2
f2=f1[H]/K1
T=V(Cao(2f0+f1)-Δ)/(Cbo+Δ)
最初の1行に計算式を入れ、あとはその計算式をコピーする。定数のセルは絶対参照($を付ける)にすること!
(3) レビ法では特定のT(たとえば当量点のT)に対するpHを求めることができないので、これが必要な場合はソルバー(あるいはゴールシーク)を用いてpHを求める。ソルバーを使う場合、Tを目的セルとし、pHを変数セルとする。
(4) 作成したシートを基に、Tをx軸, pHをy軸とする散布図を作る。Tが負の値になる場合は除外する。散布図は目的に応じて適当にカスタマイズする。
0.1 mol/Lマレイン酸(pK1=1.92,
pK2=6.27) 10 mLを0.1 mol/L NaOHで滴定した場合の滴定曲線を図-2に示します。
<<様々な酸塩基の滴定曲線>>
レビ法を用いると、様々な酸塩基の滴定曲線を描くことができます。クエン酸をNaOHで滴定した場合、および炭酸ナトリウムをHClで滴定した場合を示します。
<クエン酸の滴定曲線>
0.1 mol/Lクエン酸H3Ci(pK1=3.13, pK2=4.76,
pK3=6.40) 10 mLを0.1 mol/L NaOHで滴定した場合の滴定曲線を二分法で描きます。関係式は次の通りです。
平衡定数:
K1 = [H][H2Ci]/[H3Ci]
K2 = [H][HCi]/[H2Ci]
K3 = [H][Ci]/[HCi]
Kw = [H][OH]
物質バランス:
Ca = CaoV/(V+T) = [Ci]+[HCi]+[H2Ci]+[H3Ci]
Cb = CboT/(V+T) = [Na]
電荷バランス:
Q = [H]+[Na]-([OH]+3[Ci]+2[HCi]+[H2Ci]) = 0
被滴定溶液の化学種濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Ci] = Ca/α = Ca/(1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3 K2K1))
[HCi]
= [H][Ci]/K3
[H2Ci] = [H][HCi]/K2
[H3Ci] = [H][Ci]/K1
[Na] = Cb
クエン酸の化学種分率:
f0 = 1/α = 1/(1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3 K2K1))
f1 = f0[H]/K3
f2 = f1[H]/K2
f3 = f2[H]/K1
滴定曲線の式:
T = V(Cao(3f0+2f1+f2)-Δ)/(Cbo+Δ)
作成したエクセルシートおよび滴定曲線を図-3に示します。第1, 第2当量点は明確なジャンプを示しません。
<炭酸ナトリウムの滴定曲線>
0.1 mol/L炭酸ナトリウムNa2CO3(pK1=6.35,
pK2=10.33) 10 mLを0.1 mol/L HClで滴定した場合の滴定曲線を二分法で描きます。関係式は次の通りです。
平衡定数:
K1 = [H][HCO3]/[H2CO3]
K2 = [H][CO3]/[HCO3]
Kw = [H][OH]
物質バランス:
Cb = CboV/(V+T) = [CO3]+[HCO3]+[H2CO3]
2Cb = 2CboV/(V+T) =
[Na]
Ca = CaoT/(V+T) = [Cl]
電荷バランス:
Q = [H]+[Na]-([OH]+[Cl]+2[CO3]+[HCO3]) = 0
被滴定溶液の化学種濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO3] = Cb/α = Ca/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[H2CO3] = [H][HCO3]/K1
[Na] = 2Cb
[Cl] = 2Ca
炭酸の化学種分率:
f0 = 1/α = 1/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
f1 = f0[H]/K2
f2 = f1[H]/K1
滴定曲線の式(*1):
T=(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)/(Cao-Δ)
(*1) 電荷バランス式から、
[H]-[OH]-[Cl]+[Na]-2[CO3]-[HCO3] = 0
[H]-[OH]-Ca+2Cb-2Cbf0-Cbf1 = 0
Δ-CaoT/(T+V)+2CboV/(V+T)-2CboVf0/(V+T)-CboVf1/(V+T) = 0
Δ(T+V)-CaoT+CboV(2-2f0-f1) = 0
ΔT-CaoT+ΔV+VCboV(2-2f0-f1) = 0
T(Cao-Δ)=V(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)
T=(Cbo(2-2f0-f1)+Δ)/(Cao-Δ)
作成したエクセルシートおよび滴定曲線を図-4に示します。




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