アミノ酸は分子内にカルボキシ基(-COOH)とアミノ基(-NH2)の両方を持つ有機化合物で、ポリプロトン酸塩基と考えることができます(2023-11-05)。したがってその滴定曲線を描く場合も、これまでのやり方が適用できます。ただし、電荷バランス式の作成における化学種の電荷の取り扱いには注意が必要です。今回は二分法(2023-12-03)を用いてアミノ酸の滴定曲線を描きます。
<<グリシン-塩酸塩の滴定曲線>>
グリシン(H2N・CH2・COOH)はモノアミノモノカルボン酸で、水溶液中で次のような平衡が成立します。
H3N⊕・CH2・COOH
⇅ K1 (H2G+ ⇄ HG+H+)
H3N⊕・CH2・COO⊖ + H+
⇅ K2 (HG ⇄ G-+H+)
H2N・CH2・COO⊖ + H+
<関係式>
モル濃度Cao mol/L, 試料体積V mLのグリシン-塩酸塩(HG・HCl)をモル濃度Cbo mol/Lの水酸化ナトリウムで滴定することを考えます(滴下量:T mL)。グリシンの酸解離定数をpK1=2.35, pK2=9.78、水のイオン積をpKw=14.00とします(活量補正なし)。関係式は次の通りです。
・平衡定数:
K1 = [H][HG]/[H2G+]
K2 = [H][G-]/[HG]
Kw = [H][OH]
・物質バランスと化学種濃度:
[G-] = CaoV/(V+T)/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
[HG] = [H][G-]/K2
[H2G+] = [H][HG]/K1
[Cl] = CaoV/(V+T)
[Na] = CboT/(V+T)
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[[H]
・電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+[Na]-[G-]+[H2G+]-[Cl] = 0
<エクセルシート>
「二分法」を用いて、0.01 mol/Lのグリシン塩酸塩(HG・HCl) 10 mLを0.01 mol/LのNaOHで滴定した場合のエクセルシートの抜粋を図-1に示します。二分法のやり方は従来通りですが、グリシンの各化学種の電荷の状態に注意してください。
計算式
E19=F19-G19+H19-I19+K19-L19
F19=10^(-C19)
G19=$E$9/F19
H19=$E$12*$E$13/($E$11+$E$13)
I19=$E$10*$E$11/($E$11+$E$13)/(1+F19/$E$8+F19^2/($E$8*$E$7))
J19=F19*I19/$E$8
K19=F19*J19/$E$7
L19=$E$10*$E$11/($E$11+$E$13)
B20=IF(E19<0,B19,C19)
C20=(B20+D20)/2
D20=IF(B20=C19,D19,C19)
<滴定曲線>
グリシン塩酸塩の滴定曲線を図-2に示します。第1中和点でpHの大きなジャンプが見られ(pH=6.2)、また第2中和点で小さなジャンプが見られます(pH=10.6)。最初のジャンプは-COOH → -COO- + H+ の解離、二番目のジャンプは-NH3+ → -NH2
+ H+の解離によるものです。
<<アスパラギン酸-塩酸塩の滴定曲線>>
アスパラギン酸(HOOC・CH(NH2)・CH2・COOH)はモノアミノジカルボン酸で、水溶液中で次のような平衡が成立します。
HOOCCH(NH3⊕)CH2COOH
⇅ K1 (H3A+ ⇄ H2A+H+)
⊖OOCCH(NH3⊕)CH2COOH + H+
⇅ K2 (H2A ⇄ HA-+H+)
⊖OOCCH(NH3⊕)CH2COO⊖
+ H+
⇅ K3 (HA- ⇄ A2-+H+)
⊖OOCCH(NH2)CH2COO⊖ + H+
<関係式>
アスパラギン酸-塩酸塩(H2A・HCl)をNaOHで滴定したときの滴定曲線を作成します。
H2A・HClのモル濃度をCao
mol/L, 試料体積をV mL、水酸化ナトリウムのモル濃度をCbo
mol/L, 滴下量をT mLとします。また、酸解離定数をpK1=1.99,
K2=3.90, K3=10.00, 水のイオン積をKw=14.00とします(活量補正なし)。
・平衡定数:
K1 = [H][H2A]/[H3A+]
K2 = [H][HA-]/[H2A]
K3 = [H][A2-]/[HA-]
・物質バランスと化学種濃度:
[A2-] = CaoV/((V+T)/(1+[H]/K3+[H]^2/(K3K2)+[H]^3/(K3K2K1))
[HA-] = [H][A2-]/K3
[H2A] = [H][HA-]/K2
[H3A+] = [H][H2A]/K1
[Cl] = CaoV/(V+T)
[Na] = CboT/(V+T)
[H] = 10-pH
[OH] = Kw/[[H]
・電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+[Na]-2[A2-]-[HA-]+[H3A+]-[Cl] = 0
<エクセルシート>
「二分法」を用いて、0.01 mol/Lのアスパラギン酸-塩酸塩(H2A・HCl)
10 mLを0.01 mol/LのNaOHで滴定した場合のエクセルシートの抜粋を図-3に示します。二分法のやり方は従来通りですが、アスパラギン酸の各化学種の電荷の状態に注意してください。
<滴定曲線>
アスパラギン酸-塩酸塩の滴定曲線を図-4に示します。第2中和点で側鎖のβ-COOHの解離による大きなジャンプが見られます(pH=7.0)。これはK2, K3の値が十分に離れているためです(K2>>K3)。α-COOHの解離による第1中和点、-NH3+の解離による第3中和点でのpHの大きなジャンプは見られません。




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