今回は気相と溶液でCO2の平衡が成立するとき、気相のCO2分圧の変化によって炭酸溶液のpHがどのようになるか調べます。
<CO2分圧とpHの関係>
前回(2024-02-25)説明した通り、気相と溶液の間でCO2の平衡が成立するとき、次のような関係が成立します。
[CO2(aq)] = KHPco2 …①
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H] = K1KHPco2/[H] …②
[CO3] = K2[HCO3]/[H] = K2K1[CO2(aq)]/[H]^2
= K2K1KHPco2/[H]^2 …③
ここで、KH:ヘンリー定数、Pco2:CO2分圧(atm)、K1, K2:CO2の酸解離定数
これを対数で表すと、
log[CO2(aq)] = logKH+logPco2
log[HCO3] = logK1+logKH+logPco2+pH
log[CO3] = logK2+logK1+logKH+logPco2+2pH
CO2のヘンリー定数をKH=3.4×10^-2 (mol/kg/atm, at 25℃)、酸解離定数をpK1=6.35, pK2=10.33 (at 25℃)とすると、
log[CO2(aq)] = logPco2-1.5
log[HCO3] =logPco2+pH-7.8
log[CO3] = logPco2+2pH-18.1
という関係が得られます(活量係数補正は無視)。
したがって、log[CO2(aq)]はlogPco2のみの関数であり、log[HCO3]とlog[CO3]はlogPco2およびpHの関数となります。
<水にCO2ガスを溶解した場合>
例題1 純水にCO2ガスを加圧して溶し込んで栓をしたボトルの炭酸水を開栓した直後のpHを求めよ。 25℃, Pco2=1気圧とする。
電荷バランスから、
[H] = [HCO3]+2[CO3]+[OH] …④
(1) ソルバーを用いる方法
関係式は次の通り。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO2(aq)] = KHPco2
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = K2[HCO3]/[H]
Q = [H]-[HCO3]-2[CO3]-[OH]
ソルバー(目的セル:Q=0, 変数セル:pH)を用いてpHを求める(図-1)。
イオン強度μ=1.2×10^-4なので活量係数の補正は必要ないと考えられる。
(答) pH=3.9
(2) 近似式を用いる方法
①, ②, ③式および[OH]=Kw/[H]を④に代入して、
[H] = K1KHPco2/[H]+2K2K1KHPco2/[H]^2+Kw/[H]
[H]^3-(K1KHPco2+Kw)[H]-2K2K1KHPco2=0
この溶液は明らかに酸性なので[H]>>[OH]と仮定すると、
[H]^3-K1KHPco2([H]-2K2)=0
またKa2=4.7×10^-11なので、 [H]>>2Ka2と仮定すると、
[H]^2 = K1KHPco2
[H] = √(K1KHPco2)
pH = (pK1+pKH-logPco2)/2 = (6.35+1.47+0)/2 = 3.91
明らかに仮定は成立する。また活量係数の補正は必要ないと考えられる。
(答) pH=3.9
理解の手助けとして、対数濃度図を図-2に示します。Pco2=1 atmのとき、
log[H] = -pH
log[OH] = pH-14.0
log[CO2(aq)] =-1.5
log[HCO3] = pH-7.8
log[CO3] = pH-18.1
④式において[HCO3]>>(2[CO3]+[OH])から、[H]≒[HCO3] なので
log[H]=-pHとlog[HCO3]=pH-7.8の交点が求めるpHとなります。
<NaOH溶液にCO2ガスを溶解した場合>
例題2 0.1 mol/L NaOH溶液に分圧Pco2
(10^-5~10^-2 atm)のCO2ガスを吹き込んで飽和状態にしたときのPco2とpH°の関係を求めよ。
NaOH濃度をCb mol/Lとする。拡張デバイヒュッケル式を用いて活量係数補正を行う。
・平衡定数:
K1 = K1º/(γHγHCO3/γCO2aq)
K2 = K2º/(γHγCO3/γHCO3)
Kw = Kwº/(γHγOH)
・活量係数:
logγH= -0.51√µ/(1+2.95√µ)
logγOH= -0.51√µ/(1+1.15√µ)
logγCO2 = 0
logγHCO3= -0.51√µ/(1+1.48√µ)
logγCO3= -0.51×4√µ/(1+1.48√µ)
µ = ([H]+[OH]+4[CO3]+[HCO3]+[Na])/2
・電荷バランス:
[H]+[Na] = [HCO3]+2[CO3]+[OH]
・物質バランス:
Cb = [Na]
・化学種の濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO2(aq)] = KHPco2
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = K2[HCO3]/[H]
[Na] = Cb
目的セル:Q = [H]+[Na]-[HCO3]-2[CO3]-[OH] = 0
変数セル:pH, μo
制約条件:R1 =μo-μ= 0
として、分圧Pco2 を10^-5~10^-2 atmまで変化させてソルバーを実施する。結果を図-3に示す。分圧Pco2を増加するとpHは下がることが分かる。
例題3 NaOH溶液にPco2=0.01
atmのCO2ガスを吹き込んで飽和状態にして、溶液組成がNaHCO3となるような溶液を作りたい。必要なNaOH溶液の濃度およびそのときのpHを求めよ。
求めるNaOH濃度をCb mol/Lとする。拡張デバイヒュッケル式を用いて活量係数補正を行う。
平衡定数、活量係数、電荷バランス、化学種の濃度は例題2と同じ。
・物質バランス:溶液の組成をNaHCO3にするための条件
Cb = [Na] = [CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]
目的セル:Q = [H]+[Na]-[HCO3]-2[CO3]-[OH] = 0
変数セル:pH, μo, Cb
制約条件:R1 =μo-μ= 0, R2 = [Na]-([CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]) = 0
として、ソルバーを実施する。結果を図-4に示す。
(答) Cb = 0.029 mol/L, pH = 8.20




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