前回(2024-05-19)のカルシウムの滴定に引き続き、今回はEDTAによるマグネシウムの滴定曲線を求めます。マグネシウムの滴定ではMg(OH)2沈殿の生成に十分注意する必要があります。MgOH+, MgHY-の錯生成およびMg(OH)2の沈殿生成を考慮に入れ、ソルバー(2023-04-23)を用いてより厳密に計算します。   

<<ソルバーによる厳密解>>
Cmgo mol/LMgCl2を含む溶液Vm mLpH緩衝液(NH4Cl: Cao mol/LおよびNH3: Cbo), Vn mLを加えて水でV mLにしたあと、Cyo mol/LEDTAで滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線を求めます。MgOH+, MgHY-の生成、Mg(OH)2の沈殿生成を考慮します。   

用いた平衡定数は次の通りです(イオン強度μ=0.1のときの値)(*1)
Kf = [MgY]/([Y][H])
, logKf = 8.7
Kh = [MgHY]/([MgY][H])
, logKh = 3.9
K1 = [H][H3Y]/[H4Y], pK1 = 2.0
K2 = [H][H2Y]/[H3Y]
, pK2 = 2.7
K3 = [H][HY]/[H2Y]
, pK3 = 6.1
K4 = [H][Y]/[HY]
, pK4 = 10.4
Ksp = [Mg][OH]2, pKsp = 10.4
βo = [MgOH]/([Mg][OH]), logβo = 2.2
Kn = [NH3][H]/[NH4]
, pKn = 9.3
Kw = [H][OH]
, pKw = 13.8

(*1)イオン強度の違いによる補正はしない。   

<関係式>
試料V mLに滴定剤T mLを加えた被滴定溶液(滴定途中の溶液)に関して、次のような関係が成立します。
・被滴定溶液中の全濃度:
MgCl2
Cmg = CmgoVm/(VT)
EDTA(Na2H2Y)
Cy = CyoT/(VT)
アンモニアCn = (CaoCbo)Vn/(VT)
・マグネシウムの物質バランス:
[Mg*] = [Mg]
[MgOH][MgHY][MgY] = [Mg][MgHY][MgY]
[Mg
] = [Mg][MgOH] ([Mg’]EDTAと反応していないMgの全濃度)
EDTAの物質バランス:
[Y*] = [Y]
[HY][H2Y][H3Y][H4Y][MgY][MgHY]
・電荷バランス:
Q = [H]
[OH]2[Mg][MgOH]2[MgY][MgHY]4[Y]3[HY]2[H2Y][H3Y][Cl][Na][NH4]=0
・化学種濃度:
[H] = 10-pH
[OH] = Kw/[H]
[Mg] = 10-pMg
 (沈殿生成しないとき)
[Mg] = Ksp/[OH]2
 (沈殿生成するとき)
[MgOH] = βo[Mg][OH]
[MgY] = Kf[Mg][Y]
[MgHY] = Kh[MgY][H]
[Y] = 10-pY
[HY] = [H][Y]/K4
[H2Y] = [H][HY]/K3
[H3Y] = [H][H2Y]/K2
[H4Y] = [H][H3Y]/K1
[Cl] = 2Cm
[Na] = 2Cy
[NH3] = Cn/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
   

<エクセルシートの作成>
次の3ケースに分けてソルバー計算をします。
・沈殿が生成しないときのパラメータ設定:
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH, pY, pMg
 ・制約条件:
  ・マグネシウムの物質バランス、Rmg = Cmg[Mg*] = 0
  ・EDTAの物質バランス、Ry = Cy[Y*] = 0
 ・[Mg]の計算式:[Mg] = 10-pMg   

・沈殿が生成するときのパラメータ設定:
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH, pY
 ・制約条件:Ry = Cy[Y*] = 0
 ・[Mg]の計算式:[Mg] = Ksp/[OH]2   

・沈殿の生成境界におけるパラメータ設定:
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH, pY, pMg, T
 ・制約条件:
  ・Rmg = Cmg[Mg*] = 0
  ・Ry = Cy[Y*] = 0
  
A = [Mg][OH]2/Ksp = 1
 ・[Mg]の計算式:[Mg] = 10-pMg   

<結 果>
Cmgo=0.001 mol/LMgCl2を含む溶液Vm=50 mLpH緩衝液(NH4Cl: Cao=1.3 mol/LおよびNH3: Cbo=8.4 mol/L), Vn=1 mLを加えて水でV=60 mLにしたあと、Cyo =0.01 mol/LEDTA(Na2H2Y)で滴定するとき(滴下量:T mL)の滴定曲線(TpMg’)を求めます。MgOH+, MgHY-イオンが生成することを考慮し、またMg(OH)2の沈殿生成の有無を確認します。   

計算結果を-1に示します。計算の結果、この条件下(pH10)ではMg(OH)2の沈殿は生じないことが分かります。またCaHY-と同様、MgHY-については滴定曲線にほとんど影響を与えないことが分かります。   

-1
2024-05-26-fig1

上の条件でpH緩衝液を変えてNH4Cl: Cao=0.4 mol/LおよびNH3: Cbo=9 mol/L, Vn=1 mLとしたときの滴定曲線を求めます(pH10.5)。結果を-2に示します。pH10.5では当量点に達する途中(T≒4 mL)までMg(OH)2の沈殿が生じます。   

-2
2024-05-26-fug2

また、pH緩衝液(NH3-NH4ClまたはKOH)の濃度と添加量を変えてpH813におけるMg-EDTAの滴定曲線を-3に示します(*2)
(*2) -1, -2以外のpH緩衝液の組成と添加量は次の通りとした。
pH=8
(
7 mol/L NH4Cl0.5 mol/L NH3) , 1 mL
pH=9(5 mol/L NH4Cl3 mol/L NH3) , 1 mL
pH=112 mol/L KOH , 0.1 mL
pH=122 mol/L KOH , 0.6 mL
pH=136 mol/L KOH , 2 mL
pHが上昇するとpMg’のジャンプは大きくなります。しかし、pH10を超えると滴定の初期にMg(OH)2の沈殿が生成し、pH11では当量点直前までMg(OH)2の沈殿が生成します。さらにpH12を超えると当量点を超えてもMg(OH)2の沈殿は消えず、滴定は不可能となります。したがって、Mg-EDTA滴定の最適pH条件(=ジャンプが大きくかつ沈殿が生じない)pH10付近ということになります。

図-3

2024-05-26-fig3