前回(2024-06-23)は、エリオクロムブッラックTを指示薬とした弱塩基性でのZn-EDTA滴定について考えました。今回は酢酸-アンモニア緩衝液によってpHを弱酸性に調整したあと、キシレノールオレンジを指示薬としてZn-EDTA滴定をする場合について考えます。
<<キシレノールオレンジ(XO)の特性>>
前回の検討によって、Zn-EDTA滴定の適切なpHの範囲は5~7または8~10であることが分かりました。今回は、弱酸性下において有効な色調変化をするキシレノールオレンジ(XO)を指示薬としてZn-EDTA滴定をすることを考えます。
キシレノールオレンジ(XO)(=Na2H4X)は次のような構造式を持つ6価の酸です。
XOの酸解離定数は次の通りです。
H6X ⇄ H5X-+H+, Kx1 = [H][H5X]/[H6X],
pKx1 = 1.5
H5X- ⇄ H4X2-+H+, Kx2 = [H][H4X]/[H5X], pKx2 = 2.3
H4X2- ⇄ H3X3-+H+, Kx3 = [H][H3X]/[H4X], pKx3 = 2.9
H3X3- ⇄ H2X4-+H+, Kx4 = [H][H2X]/[H3X], pKx4 = 6.7
H2X4- ⇄ HX5-+H+, Kx5 = [H][HX]/[H2X], pKx5 = 10.4
HX5- ⇄ X6-+H+, Kx6 = [H][X]/[HX], pKx6 = 12.2
H6X~H3X3-は黄色、H2X4-~X6-は赤紫色を呈します。pHとXOの化学種分率の関係を図-1に示します。
図-1から明らかなように、遊離のXOはpH6以下で黄色、pH7以上で赤紫色を呈します。
また、XOはZnと赤紫色系の錯体ZnX, Zn2X等を生成します。したがって、遊離のXOとZn錯体の色調が区別できるためには、遊離のXOが黄色を呈するよう滴定時のpHを6以下とする必要があります。pH5~6においては、Znは水酸化物沈殿を生成せず、またKf''も十分大きな値を持っているので好都合です(2024-06-23)。
Zn-XO錯体の錯生成定数は次の通りです。
Zn2++X6- ⇄ ZnX4-, Kzx =
[ZnX]/([Zn][X]), log Kzx = 15.0
2Zn2++X6- ⇄ Zn2X2-, Kz2x
= [Zn2X]/([Zn]2[X]), log Kz2x
= 25.5
ZnX4-+H+ ⇄ ZnHX3-, Kzhx =
[ZnHX]/([ZnX][H]), log Kzhx = 9.5
ZnX4-+2H+ ⇄ ZnH2X2-, Kzh2x
= [ZnH2X]/([ZnX][H]2), log Kzh2x
= 14.4
<<ソルバーによる滴定曲線の作成>>
ソルバーを用いて、具体的に以下のような条件で滴定したときの滴定曲線を求め、当量点におけるXOの変色率φから、金属指示薬の妥当性を検討します。
「Czo=0.01 mol/LのZnCl2溶液Vz=100 mLにpH緩衝液(酢酸アンモニウム: Cno=3.2
mol/L, 酢酸: Cao=0.3 mol/L), Vn=20
mLを加えて水でV=200 mLにしたあと、Cyo
=0.02 mol/LのEDTA(Na2H2Y)で滴定する(滴下量:T mL)。終点近くでCxo=0.001
mol/LのXO(Na2H4X)指示薬 Vx=0.5 mLを加え、赤から黄になった点を終点とする。」(JIS
H-1062(*1)を参考)
(*1) JIS-H-1062「銅及び銅合金中の亜鉛定量法」においては、滴定の妨害となる銅、鉄などの元素を分離するため、陰イオン交換樹脂を用いて亜鉛を樹脂に吸着させ妨害元素を分離したのち溶離して滴定用の試料に供している。
<平衡定数>
平衡定数の値は図-2に記載した通りです。
<関係式>
Cz = CzoVz/(V+T)
Cy = CyoT/(V+T)
Cn = CnoVn/(V+T)
Cx = CxoVx/(V+T)
Cac = (Cno+Cao)Vn/(V+T)
Cna = 2Cy+2Cx
Ccl = 2Cz
[Zn’] = [Zn]+Σ[Zn(OH)i]+Σ[Zn(NH3)j]+[ZnX]+2[Zn2X]+[ZnHX]+[ZnH2X]
(i=1~4, j=1~4)
[Y'] = Σ[HkY] (k=0~4)
[X'] = Σ[HmX] (m=0~6)
[Zn*] = [Zn’]+[ZnY]+[ZnHY]+[Zn(OH)Y]
[Y*] = [Y’]+[ZnY]+[ZnHY]+[Zn(OH)Y]
[X*] = [X']+[ZnX]+[Zn2X]+[ZnHX]+[ZnH2X]
Q = Σ(電荷×化学種濃度)
各化学種濃度の関係式は図-2の通りです(E列の計算式)。
<ソルバーのパラメータ>
目的セル:Q=0
変数セル:pH, pZn, pY, pX
制約条件:
Rz = Cz-[Zn*]=0
Ry = Cy-[Y*]=0
Rx = Cx-[X*]=0
<結 果>
ソルバーのやり方は(2024-06-23)のときと同様です。得られたエクセルシートを図-2に示します。E列を作業列にして滴下量Tの値を変えながらソルバーを実行し、G列以降へ「コピー&ペースト」を繰り返していきました。当量点付近ではTの値を小さく刻んで計算しました。
図-2


Q:E50 =SUMPRODUCT($C65:$C100,
E65:E100)
また、XOに関する化学種の当量点付近における濃度変化を図-3に示します(pH≒5.5)。当量点前の主要な化学種はZn2X-2(赤紫)であり、当量点直前で[Zn2X]=[H3X]となり、当量点ではH3X-3(黄)が主な化学種となることが分かります。
滴下量と指示薬の変色率(φ=[X']/Cx)との関係を図-4に示します(*2)。
(*2) 終点検出の指標としてφ(=全XO濃度に対する遊離XO濃度の割合)を用いるのは近似的であり、また図-3, 図-4に示す色調の変化も模式的である。
この条件の場合、当量点における変色率はφ=0.82であり、溶液の色から赤みがなくなって純粋に黄色になった時点を終点とするのが適切と考えられます。また変色は非常に鋭敏であることが分かります(φ=0.2→0.8の変化:滴下量の相対的差0.1%以内)。
pH5.5におけるZnの滴定曲線(滴下量-pZn’)を図-5に示します。





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