アルミニウムは、加水分解して多核錯体を作りやすくまたEDTAとの反応速度が遅いなど、EDTA滴定にはあまり適さない元素であり、EDTA滴定を用いるにあたってはいくつかの困難回避策を考える必要があります。今回は、標準Zn溶液による逆滴定およびフッ化物によるAlのマスキングを適用する方法について考えます。
<<Alのフッ化物錯体>>
Al3+イオンはフッ化物と安定な錯体を作ります(1*)。
Al3+ + F- ⇄ AlF2+,
βaf1 =
[AlF]/([Al][F]), logβaf1 = 6.1
Al3+ + 2F- ⇄ AlF2+,
βaf2 = [AlF2]/([Al][F]2), logβaf2 = 11.2
Al3+ + 3F- ⇄ AlF3,
βaf3 = [AlF3]/([Al][F]3), logβaf3 = 15.0
Al3+ + 4F- ⇄ AlF4-,
βaf4 = [AlF4]/([Al][F]4), logβaf4 = 17.7
Al3+ + 5F- ⇄ AlF52-,
βaf5 = [AlF5]/([Al][F]5), logβaf5 = 19.4
Al3+ + 6F- ⇄ AlF33-,
βaf6 = [AlF6]/([Al][F]6), logβaf6 = 19.7
(1*) Al3+以外にFe3+, TiO2+,
Zr4+, Sn4+等もフッ化物と安定な錯体を作る。しかし、Ca2+,
Mg2+, Fe2+, Cu2+, Ni2+, Zn2+,
Cd2+, Pb2+等とは安定なフッ化物錯体を作らない。
Al-EDTA錯体の生成定数をKay(=10^16.4)とし、pH=5におけるF-溶液中での条件生成定数Kay’’を求めてみます。
Kay’’ = Kayfafy
fa = 1/(1+βao1[OH]+βao2[OH]2+βao3[OH]3+βao4[OH]4+βaf1[F]+βaf2[F]2+βaf3[F]3+βaf4[F]4+βaf5[F]5+βaf6[F]6)
fy = 1/(1+[H]/K4+[H]2/(K4K3)+[H]3/(K4K3K2)+[H]4/(K4K3K2K1))
Cf = [F](1+[H]/Ka)+Σ(x[AlFx])
ここで、pH=5においてAl(OH)xの生成は無視できます。また、Alに対して過剰のF-を添加することにより、Al-F錯体を作ったフッ化物の量は全体に比べて無視して、pH=5においては[F]≒Cf/(1+[H]/Ka)≒Cfとすることができます。
例えば、Alの全濃度を0.01 mol/L, HFの全濃度を0.1 mol/Lとすると、
fa≒1/(1+10^6.1×0.1+10^11.2×0.1^2+10^15.0×0.1^3+10^17.7×0.1^4+10^19.4×0.1^5+10^19.7×0.1^6)=10^-14.5
fy≒1/(1+10^-5/10^-10.4+10^-10/10^-16.5+10^-15/10^-19.2+10^-20/10^-21.2)=10^-6.5
Kay’’≒10^16.4×10^-14.5×10^-6.5 = 10^-4.6<100
したがって、pH5において十分多量のF-を添加すればAlはマスキングできるあろうと推測できます。
<<アルミニウムのEDTA滴定>>
Al3+および不純物(たとえばPb2+)を含む試料について過剰のEDTAを加え、Zn標準溶液で逆滴定して(Al+不純物)の合量を求め、次いでNH4Fを加えてAlFxを生成させてAlと結合したEDTAのみを遊離させ、遊離したEDTAを引き続きZn標準溶液で滴定して、Al量のみを求める方法を考えます。
具体的には、
「0.01 mol/LのAl3+および0.001 mol/LのPb2+を含む溶液20 mLに0.01 mol/LのEDTA(Na2H2Y)溶液
25 mLを加え、NaOHでpH4に調整したあと煮沸する。冷却後、pH緩衝液(酢酸ナトリウム+酢酸:
pH5.3)およびXO指示薬を加え水で100 mLにして、0.01 mol/Lの標準Zn溶液で滴定する(黄→赤:滴下量:T1 mL)。2.7 mol/Lのフッ化アンモニウム溶液10 mLを加える(赤→黄)。煮沸し、冷却後さらにXO指示薬を加え、0.01 mol/Lの標準Zn溶液で滴定する(黄→赤:滴下量:T2 mL)」(JIS M-8220を参考)(2*)
(2*) Fe3+はXO指示薬の変色を妨害するので事前に除去しておく必要がある。JIS M-8220(鉄鉱石中のAlの定量法)では滴定前にクペロンによる溶媒抽出法でFe3+を除去している。また、pH4における煮沸により、Al-EDTAの生成を完全にし、NH4F添加後の煮沸によりAlFxの生成を完全にしている。
<平衡定数>
Alのフッ化物イオンおよびその他の化学種の平衡定数は図-1(1)に記載(3*)。
(3*) EDTAの酸性錯体、塩基性錯体はpH5付近では平衡全体に大きな影響を与えないので、平衡計算から除外する。また、ヒドロキソ錯体およびXO指示薬に関する平衡も無視する。活量補正はしない。
<関係式>
関係式を図-1(2)に示します。
<ソルバーのパラメータ>
(NH4Fを添加しないときーAl+Pbの定量)
目的セル:Q = 0
変数セル:pH, pAl, pPb, pZn, pY
制約条件:
Rm = Cm-[Al*]
Rp = Cp-[Pb*]
Rz = Cz-[Zn*]
Ry = Cy-[Y*]
(NH4Fを添加したときーAlの定量)
目的セル:Q = 0
変数セル:pH, pAl, pPb, pZn, pY, pNH3,
pF
制約条件:
Rm = Cm-[Al*]
Rp = Cp-[Pb*]
Rz = Cz-[Zn*]
Ry = Cy-[Y*]
Rn = Cn-[NH3*]
Rf = Cf-[F*]
<各化学種の濃度>
各化学種の濃度を図-1(3)に示します。
図-1(3)

<滴定曲線>
Zn逆滴定におけるZn滴下量とpZn’, pAl’, pPb’, pY’の関係を図-2に示します。また、Zn滴下量とp[ZnY], p[AlY], p[Pb]の関係を図-3に示します。
Al+Pbの溶液に過剰のEDTAを加えると、AlY+PbYが生成します。
Al+Pb+Y(過剰) → AlY+PbY+Y(余剰)
この溶液をCzo mol/Lの標準Zn溶液で滴定し、第1終点の滴下量をT1 mLとすると、T1は余剰のEDTAの物質量(つまり、添加したEDTAの物質量と(Al+Pb)の物質量の差)に対応します(2024-07-10)。
CzoT1 = (添加したYの物質量)-(Al+Pbの物質量)
さらにこの溶液にNH4Fを添加すると、Pbはフッ化物と反応せずPbYのままですが、AlYはフッ化物錯体(AlF52-, AlF63-等)を作ってAlと当量のEDTAを遊離します。
AlY + xNH4F→AlFx + Y + xNH4
これをCzo mol/Lの標準Zn溶液で引き続き滴定し、第2終点のZn滴下量をT2 mLとすると、(T2-T1)は、AlYから遊離したEDTAの物質量に対応し、これはAlと当量なので、試料中のAlの物質量は、
(Alの物質量)=Czo(T2-T1) (mmol)
となります。




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