銀イオンに塩化物イオンを加えると塩化銀AgClの沈殿が生成します(2024-08-18,2024-08-25)。このAgCl沈殿にアンモニア水を加えると、塩化銀の沈殿は溶解します。AgClの沈殿生成時には沈殿平衡および錯生成平衡が成立しますが、沈殿が無くなったあとは錯生成平衡のみとなります。このような反応について、エクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。
<<AgCl沈殿にアンモニア水を添加>>
具体的には、濃度2Cag mol/Lの硝酸銀溶液に、同濃度・同体積の塩化ナトリウム溶液を加えてAgClを沈殿させます(溶液を混合し沈殿が生成する直前の硝酸銀、塩化ナトリウムの濃度はどちらもCag mol/L)。ここに濃度がCn mol/Lとなるようにアンモニアを添加することを考えます。沈殿生成およびアンモニアの添加による溶液の体積変化は無視します。
また、AgClの溶解度積を、pKsp =
9.5
アンモニウムイオンの酸解離定数を、pKn = 9.4
銀のクロロ錯体の生成定数を、logβc1=2.9, logβc2=4.7, logβc3=5.0, logβc4=5.9
銀のヒドロキソ錯体の生成定数を、logβo1=2.0, logβo2=4.0
銀のアンミン錯体の生成定数を、logβn1=3.4, logβn2=7.4
AgOHの溶解度積を、pKspo
= 7.7
とします。
活量係数はすべて1とします(25℃)。
<関係式>
●AgおよびClの物質バランス
[Ag’] = [Ag]+[AgCl]+[AgCl2]+[AgCl3]+[AgCl4]+[AgNH3]+[Ag(NH3)2]+[AgOH]+[Ag(OH)2]
= [Ag]α
ここで、
α= 1+βc1[Cl]+βc2[Cl]^2+βc3[Cl]^3+βc4[Cl]^4+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2
+βo1[OH]+βo2[OH]^2
[Cl’] = [Cl]+[AgCl]+2[AgCl2]+3[AgCl3]+4[AgCl4]
沈殿が生成する直前の溶液中の硝酸銀、塩化ナトリウムの濃度は共にCag mol/Lなので、ここの溶液からAgClが沈殿した場合、残った溶液中のAg濃度とCl濃度の関係は次式となります。
[Ag’] = [Cl’]
沈殿が消えたあとは次の関係が成立します。
Cag = [Ag’] = [Cl’]
●アンモニアの物質バランス
[NH3’] = [NH3]
+ [NH4] + [Ag(NH3)] + [Ag(NH3)2]
アンモニアは沈殿物の構成に関与しないので、常に次式が成立します。
Cn = [NH3’]
●電荷バランス
Q = [H]-[OH]+[Ag]-[AgCl2]-2[AgCl3]-3[AgCl4]+[Ag(NH3)]+[Ag(NH3)2]-[Ag(OH)2]-[NO3]+[Na]+[NH4]-[Cl]
●化学種濃度
[Ag]については、沈殿が生成しないとき、Cag = [Ag’] = [Ag]αから、
[Ag] = Cag/α
沈殿が生成するときは、AgClの溶解度積から、
[Ag] = Ksp/[Cl]
が成立します。
他の化学種の濃度は次の通りです。
[OH] = 10^-pOH
[H] = 10^-14/[H]
[NH3] = 10^-pNH3
[NH4] = [H][NH3]/Kn
[Cl] = 10^-pCl
[AgCl] = βc1[Ag][Cl]
[AgCl2] = βc2[Ag][Cl]^2
[AgCl3] = βc3[Ag][Cl]^3
[AgCl4] = βc4[Ag][Cl]^4
[AgNH3] = βn1[Ag][NH3]
[Ag(NH3)2] = βn2[Ag][NH3]^2
[AgOH] = βo1[Ag][OH]
[Ag(OH)2] = βo2[Ag][OH]^2
[NO3] = Cag
[Na] = Ccl
<エクセルの取り扱い>
エクセルでの取扱いはこれまでと同じです。AgNO3およびNaClの初濃度(沈殿が生成する直前)をCag=Ccl=0.01 mol/Lとし、アンモニア濃度Cnを5~10^-5
mol/Lと変化せます。
ソルバーのパラメータ設定は次の通りです。
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pOH、pNH3およびpCl
・制約条件:物質バランス、[Ag’]-[Cl’] = 0, Cn-[NH3’] = 0
沈殿の生成消滅境界におけるパラメータ設定は、
・目的セル:電荷バランスQ = 0
・変数セル:pOH, pNH3,
pCl およびCn
・制約条件:[Ag’]-[Cl’] = 0, Cn-[NH3’]= 0 および [Ag][Cl]/Ksp
= 1
[Ag]の計算式
・沈殿のないとき:[Ag] = Cag/α
・沈殿のあるとき:[Ag] = Ksp/[Cl]
<結 果>
ソルバーの計算結果(抜粋)を図-1に示します。
また、AgClにNH3を加えていったときの化学種濃度と溶解度[Ag’]の変化を図-2に示し、沈殿率の変化を図-3に示します。沈殿率は、次式で定義します。
沈殿率(%) = (Cag-[Ag’])/Cag×100
0.02 mol/LのAgNO3溶液に同体積の0.02 mol/LのNaCl溶液を加えてAgClを沈殿させ、ここにNH3を加えると溶液中ではまずAgNH3+イオンが主に生成し、ついでAg(NH3)2+イオンが優勢となることが分ります。添加したNH3の全濃度が0.13 mol/L付近で沈殿が完全に溶解します。全過程を通じて[Ag][OH]の値はAgOHの溶解度積Kspoより小さく、Agの水酸化物(あるいは酸化物)の沈殿は生成しません。




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