様々な銀化合物の溶解平衡について、いくつかのトピックスを取りあげます。
AgCl, AgBr, AgIのアンモニア水に対する溶解度の差 ②AgIのチオ硫酸ナトリウム溶液に対する溶解度 ③AgNO3NH3を加えて生じるAg2Oの溶解度   

<<AgCl, AgBr, AgIのアンモニア水に対する溶解度の差>>
用いた平衡定数は、
AgCl
について、
AgCl
の溶解度積:pKsp = 9.5
銀のクロロ錯体の生成定数:logβx1=2.9, logβx2=4.7, logβx3=5.0, logβx4=5.9
AgBr
について、
AgBr
の溶解度積:pKsp = 12.3
銀のブロモ錯体の生成定数:logβx1=4.2, logβx2=7.1, logβx3=8.0, logβx4=8.9
AgI
について、
AgI
の溶解度積:pKsp = 16.1
銀のヨード錯体の生成定数:logβx1=6.6, logβx2=11.7, logβx3=13.8, logβx4=14.4
その他の条件、および解析方法は(2024-09-01)と同じです。   

具体的には、濃度2Cag mol/Lの硝酸銀溶液に、同濃度・同体積のハロゲン化ナトリウム(NaX)溶液を加えてAgXを沈殿させます(溶液を混合し沈殿が生成する直前の硝酸銀、ハロゲン化ナトリウムの濃度はどちらもCag mol/L)。ここに濃度がCn mol/Lとなるようにアンモニアを添加することを考えます。沈殿生成およびアンモニアの添加による溶液の体積変化は無視します。
結果を-1, -2に示します。臭化銀はアンモニアに可溶ですが、塩化銀に比べると遥かに溶けにくいことが分かります。また、ヨウ化銀はアンモニアを加えてもほとんど溶けません。   

-1
2024-09-22-fig1

-2
2024-09-22-fig2

<<ヨウ化銀のチオ硫酸ナトリウムに対する溶解度>>
用いた平衡定数は、
チオ硫酸の酸解離定数:pK1 = 0.6 , pK2 = 1.6
銀のチオスルファト錯体の生成定数:logβt1=8.8, logβt2=13.5
その他の条件、および解析方法は前項と同じです。   

結果を-, -に示します。ヨウ化銀はアンモニアを添加してもほとんど溶けませんでした。しかし、チオ硫酸ナトリウムにはよく溶けることが分かります。また、このとき溶液中の銀は大部分がAg(S2O3)2-3の形で存在しています。   

- 
2024-09-22-fig3

-4 
2024-09-22-fig4

<<AgNO3NH3を加えて生じるAg2Oの溶解度>>
AgNO3溶液に少量のアンモニアを加えるとAg2Oが不完全に沈殿し、さらに過剰に加えると沈殿したAg2Oが溶解します。このときの反応について、エクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。
具体的には、濃度Cag mol/Lの硝酸銀溶液に、濃度がCn mol/Lとなるようにアンモニアを添加することを考えます。計算の煩雑さを避けるためアンモニアの添加による体積の変化は無視します。平衡定数は次の通りです(25)。活量係数はすべて1とします。
AgOH
の溶解度積:pKsp = 7.7 (Ag2Oの溶解度積は15.4)
アンモニウムイオンの酸解離定数:pKn = 9.24
ヒドロキソ錯体の生成定数:logβo1=2.3, logβo2=3.6, logβo3=4.8
アンミン錯体の生成定数:logβn1=3.3, logβn2=7.2   

<関係式>
Agの物質バランス
[Ag’] = [Ag] + [AgNH3] + [Ag(NH3)2] + [AgOH] + [Ag(OH)2] = [Ag]α
ここで、
α= 1+βn1[NH3]+βn2[NH3]^2o1[OH]+βo2[OH]^2   

●アンモニアの物質バランス
[NH3’] = [NH3] + [NH4] + [Ag(NH3)] + 2[Ag(NH3)2]
   

●電荷バランス
Q = [H]-[OH]+[Ag]+[Ag(NH3)]+[Ag(NH3)2]-[Ag(OH)2]-2[Ag(OH)3]-[NO3]+[NH4]
   

[Ag]の計算式
・沈殿が生成しないとき、
[Ag] = Cag/
α
・沈殿が生成するとき、
[Ag] = Ksp/[OH]
   

<エクセルの取り扱い>
AgNO3
の初濃度をCag = 0.1 mol/Lとし、アンモニア濃度Cn110^-6 mol/Lと変化せます。ソルバーのパラメータ設定等は次の通りです。
●沈殿が生成しないとき
目的セル:電荷バランス、Q = 0
変数セル:pH, pNH3
制約条件:アンモニアの物質バランス、R = Cn[NH3’] = 0
[Ag]の計算式:[Ag] = Cag/α   

●沈殿の生成・消滅境界
目的セル:電荷バランスQ = 0
変数セル:Cn, pH, pNH3
制約条件:R = Cn[NH3’] = 0および [Ag][OH]/Ksp = 1
[Ag]の計算式:[Ag] = Cag/α   

●沈殿が生成するとき:
目的セル:電荷バランス、Q = 0
変数セル:pH, pNH3
制約条件:物質バランス、R = Cn[NH3’] = 0
[Ag]の計算式:[Ag] = Ksp/[OH]   

結果は次の通りです。
計算結果の例を-に示します。また、添加したアンモニア濃度Cn mol/Lに対する溶解度を-に示し、そのときの化学種濃度を-に示します。   

-
2024-09-22-fig5

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2024-09-22-fig6

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2024-09-22-fig7

0.1 mol/LAgNO3溶液にアンモニアを加えると、添加したアンモニアの全濃度が1.4×10^-5 mol/L付近で白色のAgOH(これはすぐに褐色のAg2Oに変化する)の沈殿が生成し始め、当量付近で溶解度は最小(S = 0.092 mol/L)、沈殿率は最大(8.0%)となります。さらに過剰のアンモニアを加えるとAg(NH3)2-イオンが優勢となり、添加したアンモニアの全濃度が0.21 mol/L付近で沈殿が完全に溶解することが分かります。