Al(NO3)3溶液にNaOH溶液を加えていくと、最初Al(OH)3の白色沈殿が生成し、さらに過剰に加えるとアルミン酸イオン(Al(OH)4-)を生じて沈殿は溶解します。またアルミン酸イオン含む溶液に酸を加えるとAl(OH)3の白色沈殿が生成します。このような反応について、与えられた平衡定数を用いてエクセルで定量的に解明したいと思います。
難溶性の水酸化物の溶解度を溶解度積およびその他の平衡定数から求める場合、いくつかの困難な問題があります。例えば、沈殿の生成条件(温度、濃度、pH、熟成など)によって沈殿形態が変化したり多核錯体が生成したりして溶解度が変化することがあります。しがって、教科書等の表に記載された代表的な平衡定数から計算によって求めた溶解度は正確でないこともある点を承知しておく必要があります。
<<Al(OH)3の溶解度>>
[OH]が与えられたとき(すなわちpHが既知のとき)のAl(OH)3の溶解度を求めます。
Al(OH)3の溶解度積をpKsp=32.3、錯生成定数をlogβ1=9.0,
logβ2=17.9, logβ3=25.2, logβ4=33.3とします(*1)。多核錯体の生成は考慮しません。活量係数は1とします。
(*1) Al(OH)3の溶解度積の値は、沈殿の生成条件によって大きく異なる(pKsp=32.3(無定形)~36.3(ギブサイト))。ここでは無定形(アモルファス)の生成を想定した。また実際には安定した多核錯体も生成する。多核錯体の解重合反応は遅く、平衡状態になるまで時間がかかる。さらに、イオン強度の影響や共存アニオンの影響の影響もある。したがって実際の平衡はもっと複雑なものとなる。
<関係式>
想定した反応式は次の通りです。
Al3+ + OH-
⇄ AlOH2+
Al3+ + 2OH- ⇄ Al(OH)2+
Al3+ + 3OH- ⇄ Al(OH)3(aq)
Al3+ + 4OH- ⇄ Al(OH)4-
Al(OH)3(s) ⇄ Al3+ + 3OH-
平衡定数は、
β1 =
[AlOH]/([Al][OH])
β2 = [Al(OH)2]/([Al][OH]^2)
β3 = [Al(OH)3]/([Al][OH]^3)
β4 = [Al(OH)4]/([Al][OH]^4)
Ksp = [Al][OH]^3
溶液中の全Al濃度を[Al’]とすると、飽和溶液・不飽和溶液にかかわらず、どのような溶液であろうと、溶液中では、
[Al’] = [Al]+[AlOH]+[Al(OH)2]+[Al(OH)3]+[Al(OH)4]
となります。
さて、Al(OH)3の飽和溶液では
Al(OH)3(s) ⇄ Al3+ + 3OH- , Ksp
= [Al][OH]^3
が成立し、また、Al(OH)3の溶解度をSとすると、
S = [Al’]
となります。
したがって、Al(OH)3の飽和溶液では
S = [Al]+[AlOH]+[Al(OH)2]+[Al(OH)3]+[Al(OH)4]
= [Al](1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4)
=
Ksp(1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4)/[OH]^3
つまり、
S = Kspα/[OH]^3 (ただし、α= 1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4) … ①
という関係が得られます。
Kspおよびβ1~β4は定数なので、pHが決まれば、[OH] = Kw/10^-pHの関係からαが求まり、①式から溶解度Sを計算で求めることができます。
エクセルを用いて、pHごとに①式から溶解度を求め、pH-log Sの関係を求めました。結果を図-1、図-2示します。
<<溶解度に及ぼす結晶形の影響>>
前項では、沈殿形態として無定形を想定しましたが、水酸化アルミニウムの沈殿は生成条件の違いによっていくつかの結晶形があり、それぞれ溶解度積(Ksp)が異なります。結晶形の違いによる溶解度の変化の様子を調べます。
アルミニウム塩の溶液に常温でアルカリを添加すると直後、主に無定形(アモルファス)の沈殿が得られます。これを熟成すると条件によって、ベーマイト、バイヤライト、ギブサイト(ハイドラルジライト)に変化します。
また、アルミン酸塩溶液を加水分解すると、通常主にギブサイトが生成し、条件によってはベーマイト、バイヤライトが生成します。
また、天然にはダイアスポア、ベーマイト、ギブサイト等が産出されます。
各沈殿形の溶解度積(Ksp, at 25℃,
μ=0)は次の通りです(リングボム「錯形成反応-分析化学における応用-」)。
・無定形: pKsp
= 32.3
・ダイアスポア: pKsp = 33.5
・ベーマイト: pKsp = 34.0
・バイヤライト: pKsp = 35.6
・ギブサイト: pKsp = 36.3
各形態ごとに、溶解度を求めます。
pHに対する溶解度の計算結果を図-3に示します。結晶形別の計算にはExcelで「What-If分析」の「データテーブル」機能を用いると便利です。
<データテーブルの作成方法>
(1) “I16”に”G17” (pH=1のときのlog
S)をコピー&ペースト
(2) I17~I36に各pHを入れる(B17~B36をコピー&ペースト)。
(3) J16~N16に各Kspを入れる(C4~C8をコピー&ペースト(行/列の入れ替え))。
(4) 作成するデータテーブルの範囲を指定(”I16:N36”)
(5) データテーブルの作成
・メニューバー:「データ」
・ツールバー:「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒「データテーブル」ダイアログが出る⇒「行の代入セル」に”D15” (logKsp)を指定 ⇒「列の代入セル」に”B17” (pH)を指定⇒「OK」
pHと溶解度の関係を図-4に示します。沈殿形の違いによって溶解度は大きく異なることが分かります。




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