これまでも述べてきたように(例えば、2023-03-26)、濃度平衡定数はイオン強度に影響されます。今回は、水酸化アルミニウムに関して溶解度積、錯生成定数および溶解度に及ぼすイオン強度の影響を調べます。また、アルミニウムイオンは単核の水酸化物錯体とともに多核の水酸化物錯体を作ります。この多核錯体の生成が溶解度にどの程度影響するのかについても調べます。   

<<イオン強度の影響>>
水酸化アルミニウムの溶解度積、錯生成定数および水のイオン積に関する熱力学的平衡定数(Kspº, βiº, Kwº)、濃度平衡定数(Ksp, βi, Kw)および活量係数(γx)の関係は次式の通りです2023-03-26
Kspº = KspγAlγOH^3
 Ksp = [Al][OH]^3 = Kspº/(γAlγOH^3)
βiº = βiγAl(OH)i/(γAlγOH^i)
 βi = [Al(OH)i]/([Al][OH]^i) = βiº/(γAl(OH)i/(γAlγOH^i))
Kwº = KwγHγOH
 Kw = [H][OH] = Kwº/(γHγOH)   

ここでは活量係数の算定に拡張デバイ-ヒュッケル式を用います。活量係数(γ)とイオン強度(μ)の間には次式が成立します。
γ = -0.51z^2√μ/(1+3.3a√μ)
ここで、zはイオンの電荷、aは水和イオンの直径(nm)
H+:   a=0.90 nm
OH-:  a=0.35 nm
Al3+: a=0.90 nm
AlOH2+, Al(OH)2+, Al(OH)3(aq), Al(OH)4-の水和イオン直径はAl3+と同等(a=0.90 nm)とします。   

<濃度平衡定数>

イオン強度の値を与えて各イオンの活量係数を求め、熱力学的平衡定数(値は図-1中に示す)と活量係数から各イオン強度における濃度平衡定数を求めます。
計算結果を
-に示し、濃度平衡定数とイオン強度の関係を-, -に示します。   

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2024-10-06-fig1

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2024-10-06-fig2

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2024-10-06-fig3

<溶解度>
上記により濃度平衡定数が分かるので、[Hº]水素イオンの活量とすると、各化学種の濃度は次式で示されます。
[H]
[Hº]/γH
[OH] = Kw/[H]
[Al] = Ksp/[OH]^3
[AlOH] =
β1[Al][OH]
[Al(OH)2] =
β2[Al][OH]^2
[Al(OH)3(aq)] =
β3[Al][OH]^3
[Al(OH)4] =
β4[Al][OH]^4
また、
S = [Al]
[AlOH][Al(OH)2][Al(OH)3(aq)][Al(OH)4]
したがって、熱力学的平衡定数を用いて、あるイオン強度におけるAl(OH)3の溶解度Sを求めることができます。   

μ=00.3のときの計算結果の例を-に示し、各イオン強度におけるpH(=-log[Ho])Sの関係を-に示します。イオン強度によって溶解度が大きく変化することが分ります。   

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2024-10-06-fig4

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2024-10-06-fig5

<<多核錯体の影響>>
アルミニウムの多核錯体として、次の平衡が知られています。
2Al3+ 2OH- Al2(OH)24+
β22 = [Al2(OH)2]/([Al]2[OH]2),  logβ22º = 20.3
3Al3+ 4OH- Al3(OH)45+
β34 = [Al3(OH)4]/([Al]3[OH]4),  logβ34º = 42.1 

これらの値とpKspº = 32.3, logβ1º = 9.0, logβ2º = 17.9, logβ3º = 25.2, logβ4º = 33.3の値を用いて、pHの関数としてAl(OH)3の溶解度を求めます。
各化学種濃度および溶解度Sは、次式で与えられます。
[Hº] = 10^-pH
[H]
= [Hº]/γH
[OH] = Kw/[H]
[Al] = Ksp/[OH]^3
[Al(OH)i] =
βi[Al][OH]^i
[Al2(OH)2] =
β22[Al]^2[OH]^2
[Al3(OH)4] =
β34[Al]^3[OH]^4
S
[Al][AlOH][Al(OH)2][Al(OH)3][Al(OH)4][Al2(OH)2][Al3(OH)4]   

多核錯体の活量係数は1としました。単核錯体やその他の化学種の活量係数は拡張デバイ・ヒュッケル式を用いました。
イオン強度µ=0およびµ=0.1の場合について、計算結果を
-に示します。また、溶解度に対する多核錯体の影響(µ=0.1)の様子-に示します。   

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2024-10-06-fig6

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2024-10-06-fig7

これから分かるように、Al3+の水酸化物多核錯体は酸性が強い(pHが低い)領域で溶解度に大きな影響を与えますが、中性~塩基性領域ではあまり大きな影響を与えないことが分かります。