2024-09-29, 2024-10-06では、pHとAl(OH)3の溶解度の関係について調べました。今回はAl(NO3)3にNaOHを加えたときのNaOHの添加濃度と溶解度の関係を求めます。
<<ソルバーを用いた溶解度の算出>>
濃度Cal
mol/Lの硝酸アルミニウム溶液に、水酸化ナトリウムを添加濃度がCna mol/Lとなるように添加します。水酸化ナトリウムの添加による体積の変化およびイオン強度の影響は考慮しません。
<関係式>
想定した反応式は次の通りです。
Al3+ + OH-
⇄ AlOH2+
Al3+ + 2OH- ⇄ Al(OH)2+
Al3+ + 3OH- ⇄ Al(OH)3(aq)
Al3+ + 4OH- ⇄ Al(OH)4-
Al(OH)3(s) ⇄ Al3+ + 3OH-
平衡定数は、
β1 =
[AlOH]/([Al][OH])
β2 = [Al(OH)2]/([Al][OH]^2)
β3 = [Al(OH)3]/([Al][OH]^3)
β4 = [Al(OH)4]/([Al][OH]^4)
Ksp = [Al][OH]^3
溶液中の全Al濃度を[Al’]とすると、飽和溶液・不飽和溶液にかかわらず、溶液中では、
[Al’] = [Al]+[AlOH]+[Al(OH)2]+[Al(OH)3]+[Al(OH)4]
が成立します。
また、Al(OH)3の飽和溶液では
Al(OH)3(s) ⇄ Al3+ + 3OH- , Ksp
= [Al][OH]^3
が成立します。
沈殿平衡が成立しないとき(つまり、Al(NO3)3がすべて溶液中にあるとき)は、
[Al’]=[Al]α=Cal
(α= 1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4)
が成立します。
沈殿平衡が成立するときは、沈殿(固相)の生成により、[Al’]=S<Calとなります(S:溶解度)。このとき、
Ksp = [Al][OH]^3
が成立します。
化学種濃度は、
[Al] = Ksp/[OH]^3 (沈殿平衡が成立するとき)
[Al] = Cal/α (沈殿平衡が成立しないとき)
[AlOH] = β1[Al][OH]
[Al(OH)2 ] = β2[Al][OH]^2
[Al(OH)3] = β3[Al][OH]^3
[Al(OH)4] = β4[Al][OH]^4
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[NO3] = 3Cal
[Na] = Cna
また、電荷バランスから、
[H]+3[Al]+2[AlOH]+[Al(OH)2]+[Na] = [OH]+[Al(OH)4]+[NO3]
つまり、
Q = [H]-[OH]+3[Al]+2[AlOH]+[Al(OH)2]-[Al(OH)4]-[NO3]+[Na] = 0
が成立します。
<エクセルシートの作成>
エクセルのソルバーを用いてCnaと[Al’]の関係を求めます。ソルバーの初期値の推測がしやすいよう、NaOHを過剰に添加した場合から始め、NaOHの濃度をしだいに減らしていくようソルバーの計算を進めます。
●NaOHを過剰に添加して沈殿平衡が成立しないとき (D列~F列)
D列で説明します。
1)logKsp, logβ1, logβ2, logβ3, logβ4の値を入れる。(B4~B8)
2)Ksp, β1, β2, β3, β4の計算式を入れる。(D4~D8)
3)Cal, Cnaの値を入れる。(D9, D10)
・Calは一定値(0.1 mol/L)とし、Cnaの値を変化させる。
4)pH(変数セル)に初期値を入れる。(D11)
・初期値はできるだけ答えに近い値とする。たとえば、Cna=1の場合、Cna≒[OH]と考えてpH=14とする。
5)α値および各化学種濃度の計算式を入れる。(D13~D22)
・[Al] = Cal/αを用いる。
6)Q(目的セル), [Ag’],
[Al][OH]^3および[Al][OH]^3/Kspの計算式を入れる。(D23~D26)
・[Al][OH]^3および[Al][OH]^3/Kspは沈殿生成の有無を確認するため。
7)ソルバー解を求める。
・[目的セル:“D23”]→[指定値:“0”]→[変数セル:“D11”]→[オプション]
→[精度:“1e-10”]→[OK]→[解決]
・[Al][OH]^3/Ksp<1であることを確認する。
・以下Cnaの値を減らしながら、同様に、E列, F列と繰り返す。
●沈殿平衡成立の限界(G列)
上記の操作でCnaを減らしていくと、ある濃度で[Al][OH]^3の値がKspを超えるようになる。これは沈殿平衡が成立して[Al] = Cal/αが成立しないことを意味するので、その限界濃度(上限濃度)を求める。
1)pHおよびCnaを変数セルにする。[Al][OH]^3/Ksp
= 1を限界条件にする(G27)。
2)ソルバー解を求める。
・[目的セル:“G23”]→[指定値:“0”]→[変数セル:“G10:G11”]→[制約条件の対象:“追加”]→[セル参照:“G26”]→[=]→[制約条件:“1”]→[OK] →[解決]
●沈殿平衡が成立するとき(H列~BE列)
1)最初の操作 (沈殿平衡が成立しないとき)と同様に操作する。
ただし、[Al]の計算式は次式を用いる。
・[Al] = Ksp/[OH]^3。
2)Cnaが0.3 mol/L付近(たとえば、Cna = 0.31~0.28)では、pHを与えてCnaを求めるようにする。これはCnaのわずかの変化でpHが大きく変化するので、Cnaを変数セルにしたほうが、操作が楽だからである。
●沈殿平衡成立の限界(BF列)
Cnaを減じながら上記操作を続けると、ある濃度でSが0.1 mol/Lを超えるようになる。これは沈殿平衡が成立しないことを意味するので、G列で行ったと同様の操作をして、沈殿平衡成立の限界濃度(下限濃度)を求める。
●Cnaが沈殿平衡成立の濃度下限以下のとき(BG列~BL列)
最初の操作(NaOHを過剰に添加したとき)と同様の操作をする。
作成したシートの抜粋を図-1に示し示します。
<グラフの作成>
Cna, log[Al’]の値を範囲指定して[挿入]→[グラフ]→[散布図]によって、NaOH添加濃度に対する溶解度のグラフを作成します。同様に、pH, log[Al’]の値から、pHと溶解度のグラフを作成します。添加したNaOHの濃度と溶解度の関係を図-2に示します。またこのときのpHとlog[Al’]の関係を図-3に示し、NaOHの濃度とpHの関係を図-4に示します。
図-2

図-3

図-4

0.1 mol/L硝酸アルミニウムにNaOHを添加していくと、添加したNaOHの濃度が4×10^-3 mol/L (pH=3.6)付近で沈殿生成が始まり、0.3 mol/L (pH=6.3)付近で溶解度は最小(S=5×10^-7 mol/L)になり、さらにNaOHを過剰に加えるとAl(OH)4^-を作って溶解度が上昇し、0.4 mol/L (pH=12.0)付近で沈殿が完全に再溶解することが分かります。また、アルミニウムとNaOHのモル比がAl:NaOH=1:3においてpHが急上昇します。


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