Fe(NO3)3溶液に塩基を加えると、Fe(OH)3の褐色沈殿が生成します。このときの反応について、与えられた平衡定数からエクセルのソルバー機能を用いて定量的に解析します。
鉄(III)イオンは自然界で普遍的に存在し、また様々な酸化-還元反応に関与するので、化学的に非常に重要なイオンです。硝酸鉄(III) ( Fe(NO3)3 )は可溶性ですが、この溶液に塩基を加えると、ゼラチン状無定形の褐色沈殿(Fe(OH)3)が生成し、この沈殿を熟成すると、条件によりヘマタイト(Fe2O3)などの結晶性の沈殿に変化します。
<<単純化した平衡計算>>
濃度Cfe mol/LのFe(NO3)3溶液に、濃度がCna mol/LとなるようにNaOHを添加することを考えます。このときの、各化学種濃度および溶解度を求めます。NaOHの添加による溶液の体積変化は無視します。
<平衡定数および関係式>
Fe(OH)3の溶解度積:pKsp =
38.8 (無定形)
鉄(III)のヒドロキソ錯体の生成定数:
logβ1=11.8, logβ2=22.3, logβ3=30, logβ4=34.4
とし、これ以外の平衡は無視します*1)。活量係数は1とします。
*1) 実際には、NO3錯体や多核錯体の生成が知られているが、ここでは無視する。β3については詳細な値は知られてないが、ここでは logβ3=30とする。
関係式:
Fe(OH)3(s) ⇄ Fe3+ + 3OH-
Ksp = [Fe][OH]^3
Fe3+ + OH- ⇄ FeOH2+
β1 =
[FeOH]/([Fe][OH])
Fe3+ + 2OH- ⇄ Fe(OH)2+
β2 = [Fe(OH)2]/([Fe][OH]^2)
Fe3+ + 3OH- ⇄ Fe(OH)3(aq)
β3 = [Fe(OH)3]/([Fe][OH]^3)
Fe3+ + 4OH- ⇄ Fe(OH)4-
β4 = [Fe(OH)4]/([Fe][OH]^4)
物質バランス:
[Fe’] = [Fe]+[FeOH]+[Fe(OH)2]+[Fe(OH)3]+[Fe(OH)4] = S
電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+3[Fe]+2[FeOH]+[Fe(OH)2]-[Fe(OH)4]-[NO3]+[Na]
<ソルバー計算>
Cfe = 0.1 mol/Lのとき、Cnaの値を変化させFe(III)の溶解度および化学種濃度をエクセルのソルバー機能を用いて求めます。
●ソルバーのパラメータ設定
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pH
●[Fe]の計算式
・[Fe] = Ksp/[OH]^3
計算結果の抜粋を図-1に示します。また、NaOH濃度に対する溶解度を図-2に示し、溶解度・化学種濃度のpH依存性を図-3に示します。
計算上では(図-1)、0.1 mol/L硝酸鉄(III)溶液は、NaOHを加えなくてもFe(OH)3の沈殿が一部生成する(7.6%)という結果になりました*2)。
*2) 実際の硝酸鉄(III)は可溶性である(溶解度:1.93 mol/kg, at 25℃)。計算結果がこのようになったのはNO3-錯体、多核錯体の生成や活量係数補正を無視したためと思われる。なお、硝酸鉄(III)溶液を加熱すると加水分解が進行して沈殿が生成することが知られている。
NaOH濃度0.3 mol/L (pH 7)付近で溶解度は最小(S=1.9×10^-9 mol/L)となります。これ以上NaOHを過剰に加えると、溶解度は増加していきます。
鉄(III)の化学種について言うと、最初はFe3+が優勢ですが、NaOHを加えていくと、Fe(OH)22+→Fe(OH)2+が優勢となり、当量点付近ではFe(OH)3が主となります。さらにNaOHを過剰に加えると、Fe(OH)4-が優勢となります。
<<溶解度に及ぼす結晶形の影響>>
鉄(III)塩の溶液に常温で塩基をすばやく添加すると無定形(アモルファス)の沈殿が得られます。この無定形沈殿を熟成すると、条件によりα-FeOOH(針鉄鉱、ゲータイト)やα-Fe2O3(赤鉄鉱、ヘマタイト)に変化します。
各結晶形の溶解度積(Ksp,
at 25℃)は次の通りです["Critical
Stability Constants, vol. 4"]。
(・無定形水酸化鉄: pKsp
= 38.8 (μ=0))
・ゲータイト(α-FeOOH): pKsp = 41.5 (μ=0)
・ヘマタイト(α-Fe2O3): pKsp = 42.7 (μ=0)
結晶形についても、前項と同様の計算を行いました。他の平衡定数値や関係式については前項通りです。各結晶形の溶解度を図-4に示します。




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