pHの異なる溶液に対する様々な金属水酸化物の溶解度を求め、pHと溶解度の関係を調べます。また、水酸化物沈殿による分離方法を考えます。
具体的には、2価の金属(M2+)あるいは3価の金属(M3+)について、溶解度積(Ksp)および水酸化物錯体の生成定数(βn)の値から、pHと金属水酸化物の溶解度(S)の関係を計算で求めます。
<<2価の金属(M2+)の場合>>
<関係式>
溶液中で次の平衡が成立することとします(多核錯体の生成、活量係数は考慮しない)。
M2+ + OH- ⇄ M(OH)+
β1 = [MOH]/([M][OH])
M2+ + 2OH- ⇄ M(OH)2(aq)
β2 = [M(OH)2(aq)]/([M][OH]^2)
M2+ + 3OH- ⇄ M(OH)3-
β3 = [M(OH)3]/([M][OH]^3)
M2+ + 4OH- ⇄ M(OH)42-
β4 = [M(OH)4]/([M][OH]^4)
溶液中の全M濃度を[M’]とすると、飽和溶液・不飽和溶液にかかわらず、溶液中では、
[M’] = [M]+[MOH]+[M(OH)2(aq)]+[M(OH)3]+[M(OH)4]
が成立します。
さて、水酸化物の飽和溶液では
M2+ + 2OH- ⇄ M(OH)2(固体)
Ksp = [M][OH]^2
が成立し、またこのときの全M濃度が溶解度なので、
[M’] = S
となります。
したがって、水酸化物の飽和溶液では、
S = [M]+[MOH]+[M(OH)2(aq)]+[M(OH)3]+[M(OH)4]
= [M](1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4)
= Ksp(1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4)/[OH]^2
つまり、
S = Kspα/[OH] ^2 …①
ここで、α= 1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4
という関係が得られます。
したがって、pHが決まれば[OH]=Kw/[H]からαの値が求まり、またKspおよびβ1~β4は定数なので、①式から各pHにおける溶解度Sを計算で求めることができます。
Ca2+,
Cd2+, Co2+, Cu2+, Fe2+, Mg2+,
Mn2+, Ni2+, Pb2+, Zn2+について、EXCELを用いて各pHごとの溶解度を求めます。
<エクセル表の作成方法>
エクセル表(図-1)の作成方法は次の通り。
⦁
Table-1
・Table-1に平衡定数を入れる。
⦁
Table-2
・Table-2において、pH=1のときの各化学種濃度および溶解度S(①式)を求める。
1) Table-2のC17に1を入れ、D17:L17に”=$C$17”を入れる
2) C18:C26に関係式を入れ、これをD18:D26~L18:L26までコピー&ペースト
⦁
Table-3
・Table-3において、各pHに対するlog
Sを求める(データテーブル機能の利用)。
1) pHを1~14までN列(N5:N31)に入れる
2) pH=1のときの各イオンのlog SをTable-2からtable-3にコピー&ペースト
(O5 =C26, P5 =D26, Q5 =E26, …)
3) データテーブルの範囲を指定する(N5:X31)
4) [データ] ⇒ [What-If分析] ⇒ [データテーブル]
5) ダイアログボックスの[列の代入セル]に”$C$17”を入れ、OK
*特定のSにおけるpHを求めたい場合は、ソルバー機能(2023-4-23)を利用する
pHとlog Sの関係を図-2に示します。
<<3価の金属(M3+)の場合>>
3価の金属(M3+)の場合も、エクセルのやり方は上記の<2価の金属(M2+)の場合>と同じです。
溶液内では、
M3+ + OH- ⇄
M(OH)2+
β1 = [MOH]/([M][OH])
M3+ + 2OH-
⇄ M(OH)2+
β2 =
[M(OH)2]/([M][OH]^2)
M3+ + 3OH-
⇄ M(OH)3(aq)
β3 =
[M(OH)3(aq)]/([M][OH]^3)
M3+ + 4OH-
⇄ M(OH)4-
β4 =
[M(OH)4]/([M][OH]^4)
[M’] = [M]+[MOH]+[M(OH)2]+[M(OH)3(aq)]+[M(OH)4]
水酸化物の飽和溶液では、
M3+ + 3OH-
⇄ M(OH)3(固体)
Ksp = [M][OH]^3
[M’] = S
S = [M]+[MOH]+[M(OH)2]+[M(OH)3(aq)]+[M(OH)4] = Kspα/[OH]
^3
ここで、α= 1+β1[OH]+β2[OH]^2+β3[OH]^3+β4[OH]^4
Al3+,
Cr3+, Fe3+, In3+について、EXCELを用いて各pHにおける溶解度を求めました。エクセル表を図-3に示します。また、pH-log Sの関係を図-4に示します。
<<分別沈殿法>>
複数の金属イオンを含む溶液に特定の条件で沈殿剤を加えて、溶解度の差を利用して目的成分を分離することが可能です。このような方法は「分別沈殿法」と呼ばれます。水酸化物沈殿を利用する場合、効果的な分離を行うためにはpHの調整が重要です。その例を以下に示します。
<例題1> 水酸化物沈殿によってアルミニウムと鉄を分離する方法を考えよ。
(答) たとえば、それぞれ0.1 mol/LのAlとFeを含む溶液の分離を考える。分離可能な条件を「一方の元素が沈殿せず、他方の元素の溶解度が10^-5 mol/L以下となるとき」とする。
アルミニウムと鉄(II), (III)に関する溶解度とpHの関係を図-5に示す。図から明らかなように、アルミニウムと鉄(II)が分離できるpHの範囲は5.1~7.0である。また、アルミニウムと鉄(III)についてはpH12.0~13.4である。したがって次のような分離法が考えられる。
(1) 適切な還元剤(たとえば、塩化ヒドロキシルアンモニウム)および緩衝液(NH3-NH4Cl, pH≒6)を添加して、水酸化アルミニウムを沈殿させ、鉄(II)を溶液に残す。
(2) 適切な酸化剤(たとえば、H2O2)およびNaOH(pH≒12.5)を添加して、水酸化鉄(III)を沈殿させ、アルミニウムをアルミン酸イオンとして溶液に残す。
*****
以上、計算によって金属水酸化物の理論的溶解度を求めましたが、これらの値は実際の溶解度と異なることがしばしばです。
この原因としては、活量係数、多核錯体の生成、沈殿形の変化(試薬、温度、熟成時間などの条件)、共存アニオンの影響など、様々な要因があげられます。
また沈殿分離においては、共沈現象や沈殿速度が問題となることも多々あります。
したがって、平衡定数から計算によって求めた溶解度は近似的なものに過ぎないと考えるべきです。





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