CaCO3は石灰岩・大理石などの主成分であり、またサンゴ、貝類、鶏卵などの骨格、殻を形成する主要な成分として天然に広く存在します。天然におけるCaCO3の沈殿平衡においては、大気中のCO2の増減が平衡に大きく関与します。しかし今回は、気相のCO2との平衡を一旦無視して閉鎖した溶液中のCaCO3の沈殿平衡を考えます。
<<基礎事項>>
<CO2の気液平衡>
気相中のCO2(CO2(gas))はその分圧に従って水に溶解し水和して、無電荷のCO2(aq)となります。水和したCO2は一部加水分解して炭酸(H2CO3)となります。
CO2(gas) ⇄ CO2(aq)
CO2(aq) + H2O ⇄ H2CO3
しかし水溶液中では、加水分解の反応は大きく左に偏っており、大部分は水和したCO2の形で存在します。またH2CO3とCO2(aq)は無電荷であり酸塩基平衡に関して両者の区別はあまり重要でないので、ここでは無電荷化学種の濃度の合計を[CO2(aq)]と表すことにします(*1)。
(*1) 厳密を期するため、無電荷化学種の濃度の合計を[CO2(aq)*]あるいは[CO2(aq)]tと表すこともある。また単に[H2CO3]とすることも多い。
<CO2の酸塩基平衡>
炭酸(H2CO3)は2価の酸であり、水中で次のように解離します。
CO2(aq)+H2O
⇄ H2CO3 ⇄
H+ + HCO3-
HCO3- ⇄ H+ + CO32-
酸解離定数をK1, K2とすると
K1 = [H][HCO3]/[CO2(aq)]
K2 = [H][CO3]/[HCO3]
また、水溶液中では水の解離も存在します。
Kw = [H][OH]
<Ca2+の錯生成平衡>
Ca2+イオンは水溶液中で、CaOH+,
CaCO3, CaHCO3+を生成します。
Ca2+ + OH- ⇄ CaOH+
Ca2+ + CO32- ⇄ CaCO3
Ca2+ + HCO3- ⇄
CaHCO3+
βo = [CaOH]/([Ca][OH])
βc = [CaCO3]/([Ca][CO3])
βh = [CaHCO3]/([Ca][HCO3])
<CaCO3の沈殿平衡>
また、CaCO3の沈殿平衡は次式の通りであり、
CaCO3(固体) ⇄ CaCO3(溶液) ⇄ Ca2+ + CO32-
その平衡定数をKとすると、
K = [Ca][CO3]/[CaCO3(溶液)]
[CaCO3(溶液)]は固有溶解度と呼ばれ、一般に非常に小さな値であり、かつpH等に影響されず一定値となるので、ある温度における飽和溶液について、K[CaCO3(溶液)]を定数として、
K[CaCO3(溶液)] = [Ca][CO3] = Ksp
とすると、Kspは一定温度で定数となります。このKspは溶解度積と呼ばれます。CaCO3の結晶形には方解石と霰石があり、Kspの値が異なります。
<<純水に対するCaCO3の溶解度>>
気相中CO2との平衡を無視した系(たとえば密閉された容器内)において、純水に対するCaCO3の溶解度を求めます。用いた定数は次の通りです。
K1 = [H][HCO3]/[CO2(aq)], pK1 = 6.35
K2 = [H][CO3]/[HCO3], pK2 = 10.33
Kw = [H][OH], pKw = 14.00
βo = [CaOH]/([Ca][OH]), logβo = 1.30
βc = [CaCO3]/([Ca][CO3]), logβc = 3.15
βh = [CaHCO3]/([Ca][HCO3]), logβh = 6.35
Ksp = [Ca][CO3], pKsp = 8.35 (方解石)
化学種濃度は、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Ca] = Ksp/[CO3]
[CaOH] = βo[Ca][OH]
[CaCO3] = βc[Ca][CO3]
[CaHCO3] = βh[Ca][HCO3]
[CO2(aq)] = [H][HCO3]/K1
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO3] = 10^-pCO3
気相中のCO2との平衡を無視する場合、純水に溶解したCaCO3はすべて水溶液中に存在するので、
[Ca’] = [Ca]+[CaOH]+[CaCO3]+[CaHCO3]
[CO3’] = [CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]+[CaCO3]+[CaHCO3]
とすると、物質バランスは、
[Ca’] = [CO3’]
が成立します。
また、電荷バランスは、
Q = [H]-[OH]+2[Ca]+[CaOH]+[CaHCO3]-[HCO3]-2[CO3] = 0
となります。
ソルバーのパラメータは、
目的セル:Q = 0
変数セル:pH, pCO3
制約条件:R = [Ca’]-[CO3’] = 0
ソルバーによる計算結果を図-1に示します。気相中CO2との平衡を無視した場合、純水に対するCaCO3の溶解度は1.3×10^-4 mol/Lとなりました。またこのときpHは9.9でした。
図-1
<<酸または塩基溶液に対するCaCO3の溶解度>>
気相中CO2との平衡を無視した系において、酸(HNO3)または塩基(NaOH)でpHを調整した溶液に対するCaCO3の溶解度を求めます。用いた定数は上記(純水に対するCaCO3の溶解度)と同様です。
化学種濃度は、上記に加えて[NO3]または[Na]が追加されます。NO3-イオン, Na+イオンの錯生成反応は考えません。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Ca] = Ksp/[CO3]
[CaOH] = βo[Ca][OH]
[CaCO3] = βc[Ca][CO3]
[CaHCO3] = βh[Ca][HCO3]
[CO2(aq)] = [H][HCO3]/K1
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO3] = 10^-pCO3
[NO3]または[Na]
物質バランスは、
[Ca’] = [Ca]+[CaOH]+[CaCO3]+[CaHCO3]
[CO3’] = [CO2(aq)]+[HCO3]+[CO3]+[CaCO3]+[CaHCO3]
として、
[Ca’] = [CO3’]が成立します。
また、電荷バランスは、
Q = [H]-[OH]+2[Ca]+[CaOH]+[CaHCO3]-[HCO3]-2[CO3]+[Na]-[NO3] = 0
となります。
ソルバーのパラメータは、
目的セル:Q = 0
変数セル:pCO3および[NO3](または[Na])
制約条件:R = [Ca’]-[CO3’] = 0
pHを変化させてソルバーを実施したときの計算結果を図-2に示します。化学種濃度および溶解度とpHの関係を図-3に図示します。
図-3から分かるように、酸性が強くなるとCaCO3の溶解度が増加することが分ります。酸性が弱くなると溶解度がは減少し、pH≒11のとき、溶解度は最小となります。


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