今回はCaCO3の沈殿平衡に関するいくつかの具体的な問題を解きたいと思います。   

<<気相中CO2との平衡がない場合>>
CaCO3の沈殿平衡に関連して次の平衡式が成立します(2025-01-12)
K1 = [H][HCO3]/[CO2(aq)]
K2 = [H][CO3]/[HCO3]
Kw = [H][OH]
βo = [CaOH]/([Ca][OH])
βc = [CaCO3]/([Ca][CO3])
βh = [CaHCO3]/([Ca][HCO3])
Ksp = [Ca][CO3]
   

気相中CO2との平衡がない場合は、次の質量バランスが成立します。
Cca = [Ca]
[CaHCO3][CaCO3][CaOH][ppt] = [Ca][ppt] …①
Ct = [CO2(aq)]
[HCO3][CO3][CaHCO3][CaCO3][ppt] = [CO3][ppt] …②
ここで、
 [ppt]:溶液1 L当たりの固体CaCO3のモル数
 [Ca]Caに関する溶液中の化学種濃度の合計
 Cca:固体CaCO3を含めて、添加したCaに関する全化学種濃度
 [CO3]CO2に関する溶液中の化学種濃度の合計
 Ct:固体CaCO3を含めて、添加したCO2に関する全化学種濃度
①-②により[ppt]を消去すると、
CcaCt = [Ca][CO3]が成立します。
この式は沈殿が生成しないときも成立します。   

また、溶液中では常に電荷バランスが成立します。
Q =
Σ(電荷)×(化学種濃度) = 0   

CaCl2溶液にNa2CO3を加える>
例題1 濃度Cca=0.01 mol/LCaCl2溶液にCt=1×10^-60.1 mol/LとなるようNa2CO3を添加する。このときのCaCO3の溶解度と各化学種濃度を求めよ。気相中CO2との平衡はないものとし、また活量係数は1とする。
計算にはエクセルーソルバーを用いる。
平衡定数は次のとおり。
pKsp=8.22, log
βo=1.3, logβc=3.2, logβh=1.25, pK1=6.35, pK2=10.3, pKw=14.0
物質バランスは、
R=Cca
Ct([Ca][CO3])=0
電荷バランスは、
Q=[H]
[OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3]2[CO3][HCO3][Na][Cl]=0
各化学種濃度は次のとおり。
[H]=10^-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=Ksp/[CO3]
   …(沈殿のあるとき)
または、[Ca]=Cca/α …(沈殿のないとき)
[CaOH]=
βo[Ca][OH]
[CaCO3]=
βc[Ca][CO3]
[CaHCO3]=
βh[Ca][HCO3]
[CO3]=10^-pCO3
[HCO3]=[CO3][H]/K2
[CO2(aq)]=[HCO3][H]/K1
[Cl] = 2Cca
[Na] = 2Ct
   

・沈殿があるときのソルバーの条件設定
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3
 ・制約条件:物質バランスR=CcaCt([Ca’][CO3’])=0
 ・[Ca]の計算式:[Ca]=Ksp/[CO3]
・沈殿がないときのソルバーの条件設定
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3
 ・制約条件:物質バランスR=CcaCt([Ca’][CO3’])=0
 ・[Ca]の計算式:[Ca] = Cca/α
・沈殿の生成・消滅の境界点におけるソルバーの条件設定
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3 およびCt
 ・制約条件:物質バランスR = 0および [Ca]=0.01
 ・[Ca]の計算式:[Ca]=Ksp/[CO3]   

計算結果の抜粋を-に示す。また、Ctと溶解度・化学種濃度の関係を-に示す。   

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2025-01-26-fig1

-
2025-01-26-fig2

-, -から明らかなように、0.01 mol/LCaCl2溶液にNa2CO3を添加するとき、Na2CO3濃度が 2×10^-5 mol/Lを超えるとCaCO3の沈殿生成が始まり、Na2CO3濃度の増加とともに沈殿率は上昇し、当量点(Na2CO3濃度 0.01 mol/L)を超えると沈殿率はほぼ100%になります。   

Ca(OH)2溶液にCO2を加える>
例題2 濃度Cca=0.005 mol/LCa(OH)2溶液にCt=1×10^-60.02 mol/LとなるようCO2ガスを吹き込む。このときのCaCO3の溶解度と各化学種濃度を求めよ。気相中CO2との平衡はないものとし、また活量係数は1とする。
計算にはエクセルーソルバーを用いる。
平衡定数は例題1と同じ。
物質バランスは、
R=Cca
Ct([Ca][CO3])=0
電荷バランスは、
Q=[H]
[OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3]2[CO3][HCO3]=0
各化学種濃度は次のとおり。
[H]=10^-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=Ksp/[CO3]
   …(沈殿のあるとき)
または、[Ca]=Cca/α …(沈殿のないとき)
[CaOH]=
βo[Ca][OH]
[CaCO3]=
βc[Ca][CO3]
[CaHCO3]=
βh[Ca][HCO3]
[CO3]=10^-pCO3
[HCO3]=[CO3][H]/K2
[CO2(aq)]=[HCO3][H]/K1
   

ソルバーの条件設定は例題1と同様。ただし、「沈殿の生成・消滅の境界点におけるソルバーの条件設定」での制約条件は物質バランスR = 0および [Ca’]=0.005とする。  

計算結果の抜粋を-に示す。また、Ctと溶解度・化学種濃度の関係を-に示す。   

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2025-01-26-fig3

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2025-01-26-fig4

0.005 mol/LCa(OH)2溶液にCO2ガスを吹込むと、CO2の全濃度Ctが、1×10^-5 mol/L付近で CaCO3の沈殿生成が始まり、CO2の吹込み量の増加とともに沈殿量は増加し、当量点(Ct=0.005 mol/L, pH=10.0)付近で沈殿生成量は最大(97%)となります。さらに過剰に吹込むと今度は沈殿量が減少に転じ、Ct=0.017 mol/L(pH=6.5)付近で沈殿は消滅します。
遊離の炭酸の化学種についていうと、CO2の吹込み量の増加とともに当然、遊離の炭酸の化学種は増加します。当量点付近まではCO32-濃度が優勢ですが、当量点を超えるとしだいにHCO3-が優勢になっていくことが分かります。