前回に引き続き、CaCO3の沈殿平衡に関するいくつかの具体的な問題を解きます。   

<<気相中CO2との平衡がない場合>>(前回からの続き)
<固体CaCO3が共存する溶液にNaOHまたはHClを加える>
前回(2025-01-26)は、Ca溶液に炭酸塩あるいはCO2を加えてCaCO3が沈殿する様子を調べました。今回はCaCO3沈殿が酸に溶解する様子を調べます。   

<例題3>
CaCO3 0.01 mol
に水を加えて1 Lにした懸濁液に強酸(HCl)または強塩基(NaOH)を加えたときのCaCO3の溶解度と各化学種濃度を求めよ。酸・塩基の添加や沈殿物の減少・消滅による溶液の体積変化はないものとする。活量係数は1とする。また気相中CO2との平衡はないものとする。
平衡定数は前回の<例題1>(2025-01-26)と同じ。
固体CaCO3を含めて添加したCaに関する全化学種濃度をCcaをとし、HCl, NaOHの添加濃度をそれぞれCA , CB mol/Lとする。
・物質バランス:
[Ca’] = [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3] = [Ca](1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3]) = [Ca]α
[CO3’] = [CO3]
[HCO3][CO2][CaCO3][CaHCO3]
溶液中では固体のCaCO3が一部溶解しているだけで、他の共通イオン源がないので、
[Ca’] = [CO3’]
・電荷バランス:
Q=[H]
[OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3]2[CO3][HCO3][Na][Cl]=0
・各化学種濃度:
[H]=10^-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=Ksp/[CO3]
   …(沈殿のあるとき)
または、[Ca]=Cca/α …(沈殿のないとき)
[CaOH]=
βo[Ca][OH]
[CaCO3]=
βc[Ca][CO3]
[CaHCO3]=
βh[Ca][HCO3]
[CO3]=10^-pCO3
[HCO3]=[CO3][H]/K2
[CO2(aq)]=[HCO3][H]/K1
[Cl] = CA
[Na] = CB
   

・ソルバーの条件設定:
(
沈殿があるとき)
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3
 ・制約条件:物質バランスR=[Ca’][CO3’]=0
 ・[Ca]の計算式:[Ca]=Ksp/[CO3]
(
沈殿がないとき)
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3
 ・制約条件:物質バランスR=[Ca’][CO3’]=0
 ・[Ca]の計算式:[Ca] = Cca/α
(
沈殿の生成・消滅の境界点)
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:pH, pCO3 およびCA
 ・制約条件:物質バランスR = 0および[Ca]=0.01
 ・[Ca]の計算式:[Ca]=Ksp/[CO3]   

計算結果の抜粋を-に示す。また、CA, CBと溶解度・化学種濃度の関係を-に示す。   

-
2025-02-02-fig1

-
2025-02-02-fig2

HClの添加濃度が0.014 mol/L付近でCaCO3の沈殿は消滅することが分ります。このときのpHはおよそ6.4です。   

<<気相中CO2との平衡がある場合>>
<固体CaCO3が共存する溶液にNaOHまたはHClを加える>
<
例題4>
気相中CO2との平衡があり(分圧PCO2=0.0004 atm)、その他の条件が<例題3>と同じ場合、CaCO3の溶解度と各化学種濃度を求めよ。
平衡定数は前回の<例題1>(2025-01-26)と同じ。ヘンリー定数は、
KH = [CO2(aq)]/PCO2 = 10^-1.46
固体CaCO3を含めて添加したCaに関する全化学種濃度をCcaをとし、HCl, NaOHの添加濃度をそれぞれCA , CB mol/Lとする。
・物質バランス:
[Ca’] = [Ca][CaOH][CaCO3][CaHCO3] = [Ca](1+βo[OH]+βc[CO3][CaHCO3]) = [Ca]α
CO2に関する物質バランスは不要。
・電荷バランス:
Q=[H]
[OH]2[Ca][CaOH][CaHCO3]2[CO3][HCO3][Na][Cl]=0
・各化学種濃度:
化学種濃度は次の通り。
[CO2(aq)]=KHPCO2
[HCO3]=K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3]=K1K2[CO2(aq)]/[H]^2
[H], [OH], [Ca], [CaOH], [CaCO3], [CaHCO3], [Cl]および[Na]は上記<例題3>と同じ。
・ソルバーの条件設定は<例題3>と同じ。   

計算結果の抜粋を-に示す。また、CA, CBと溶解度・化学種濃度の関係を-に示す。   

-
2025-02-02-fig3

-
2025-02-02-fig4

HClの添加濃度が0.02 mol/L付近でCaCO3の沈殿は消滅することが分ります。このときのpHはおよそ7.7です。   

CaCO3の溶解度に及ぼすpH, 分圧PCO2の影響>
CaCO3
の溶解度に及ぼすpH, 分圧PCO2の影響の様子を-に示します。
ソルバーを用いて、pHおよびPCO2を与えてCaCO3の溶解度を求めました。ソルバーの
条件設定は次の通り。CAが負の値を示すときは強塩基が加えられたと考えます。
 ・目的セル:電荷バランスQ=0
 ・変数セル:CA
 ・[Ca]の計算式:[Ca]=Ksp/[CO3]
図中の
印は酸塩基を加えないときの水に対する溶解度(CA=CB=0のとき)を示します(*1)
(*1) "水に対する溶解度"と言っても、気相と水相の間でCO2の出入りがあるので、[Ca]=[CO3]は成立しない(例えば、PCO2=1 atm, CA=0 mol/Lのとき、[Ca][CO3])ちなみに、気相と水相の間でCO2の出入りがなくなって[Ca]=[CO3]が成立するのは、PCO2=6.6×10^-7 atmのとき。   

-
2025-02-02-fig5