CO2ガスとの平衡の有無を考慮して、酸・塩基に対するMgCO3の溶解度を計算で求めます。Mg2+CO32-を実際に反応させると、生成条件により炭酸塩や塩基性炭酸塩など様々な組成の沈殿が生じます。ここではMgCO33H2O(ネスクホナイト)が生成するものとしました。   

用いた平衡定数(25, µ=0)は次の通りです。
MgCO3
3H2Oの溶解度積:
 Kspc = [Mg][CO3] , log Kspc =4.67
Mg(OH)2(
無定形)の溶解度積:
 Kspo = [Mg][OH]^2 , log Kspo =9.2
MgOH+
の生成定数:
 βo = [MgOH]/([Mg][OH]) , logβo = 2.58
MgCO3
の生成定数:
 βc = [MgCO3
(aq)]/([Mg][CO3]) , logβc = 2.88
Mg(HCO3)+
の生成定数:
 βh = [MgHCO3]/([Mg][HCO3]) , logβh = 0.95
CO2
の酸解離定数:
 K1 = [H][HCO3]/[CO2] , pK1 = 6.35
 K2 = [H][CO3]/[HCO3] , pK2 = 10.33
   

<<MgCO3の溶解度-CO2ガスとの平衡が無いとき>>
MgCO3を酸に溶解したときの溶解度を、エクセルのソルバー機能を用いて求めます。酸としては1価の強酸(HCl)を用います(Cl-Mg2+と錯体を作らないものとする)。活量係数はすべて1とし、またCO2の気相との平衡は考えません。   

ソルバーの計算では、溶液のpH(=log[H])を与件とし、HClの必要濃度CA mol/LおよびpCO3(=log[CO3])を変数とします。もし計算の結果CAが負の値となったときは-CA1価の強塩基の濃度と考えます。   

計算に必要な関係式は次の通りです。
<電荷バランス>
Q = [H]
[OH]2[Mg][MgOH][MgHCO3]2[CO3][HCO3][Cl] = 0
<物質バランス>
[Mg
] = [Mg][MgOH][MgCO3][MgHCO3]
[CO3] = [MgCO3][MgHCO3][CO3][HCO3][CO2]
ここではMgCO3をこれとは無関係な酸に溶かしたときの溶解度(S)を求めようとしているので(つまり、他に共通イオン源がないので)
[Mg
] = [CO3] (=S)
が成立します。
<
化学種濃度>
pH
を与件とすると、各化学種は次にように表せます。
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Mg] = Kspc/[CO3]
[MgOH] =
β0[Mg][OH]
[MgCO3] =
βc[Mg][CO3]
[MgHCO3] =
βh[Mg][HCO3]
[CO3] = 10^-pCO3
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO2(aq)] = [H][HCO3]/K1
[X] = CX
   

与えたpHごとに次の条件設定に従ってソルバーを実施します。
・ソルバーの条件設定
 ・与件:pH
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:Cx , pCO3
 ・制約条件:R = [Mg][CO3] = 0

なお、Mg(OH)2の沈殿生成の有無を確認する必要があります。イオン積[Mg][OH]2Mg(OH)2(無定形)の溶解度積Kspoを越えたときは、Mg(OH)2の沈殿生成が優位となるので、ここで計算を中止しました。   

計算結果(抜粋)-に示し、MgCO3飽和溶液に対するpHと溶解度(log S)・化学種濃度(log C)の関係を-に示します(*1)。   

-
2025-02-09-fig1

-
2025-02-09-fig2

-1、図-2から明らかなように、MgCO3の溶解度はpHの上昇とともに小さくなります。たとえばpH8.8以下のとき0.05 mol/LMgCO3溶液は沈殿を生じないことが分かります。
Mg
に関する化学種は、pH7.5より低いと
MgHCO3+が優勢であり、pH7.59.3ではMg2+が優勢、9.3を超えるとMgCO3が優勢となります。   

(*1) pHに対するMgCO3の溶解度は、ソルバーを用いなくても、直接計算することが可能である。
[Mg
] = [Mg][MgOH][MgCO3][MgHCO3]
[CO3] = [MgCO3][MgHCO3][CO3][HCO3][CO2]
[Mg
] = [CO3] (= S)
から
[Mg]
[MgOH][MgCO3][MgHCO3] = [MgCO3][MgHCO3][CO3][HCO3][CO2]
[Mg](1
+βo[OH]) = [CO3](1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
(Kspc/[CO3])(1
+βo[OH]) = [CO3](1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
[CO3]^2 = Kspc(1
+βo[OH])/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))
pH
が与えられれば[CO3]が分かり、したがって他の化学種濃度もすべて分かる。
[H] = 10
^-pH
[OH] = Kw/[H]
[CO3] =
{Kspc(1+βo[OH])/(1+[H]/K2+[H]^2/(K2K1))}
[Mg] = Ksp/[CO3]
[MgOH] =
β0[Mg][OH]
[MgCO3] =
βc[Mg][CO3]
[MgHCO3] =
βh[Mg][HCO3]
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO2
(aq)] = [H][HCO3]/K1
   

<<Pco2 atmCO2ガスと平衡にあるMgCO3の溶解度>>
上記では気相のCO2との平衡がない場合について考えましたが、ここではPCO2 atmCO2ガスと平衡にある溶液のpHと溶解度の関係を求めます。活量係数はすべて1とします。
CO2(gas)
CO2(aq)
KH = [CO2(aq)]/PCO2 = 10^-1.46
したがって、
[CO2(aq)] = KH
×PCO2 (mol/L)
[HCO3] = K1[CO2(aq)]/[H]
[CO3] = [H][HCO3]/K2 = K1K2[CO2(aq)]/[H]^2
他の化学種濃度は、
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Mg] = Kspc/[CO3]
[MgOH] =
β0[Mg][OH]
[MgCO3] =
βc[Mg][CO3]
[MgHCO3] =
βh[Mg][HCO3]
溶解度は、
S = [Mg
] = [Mg][MgOH][MgCO3][MgHCO3]

これらの関係式から、pHが与えられれば溶解度を求めることができます。
PCO2=1 atm
における計算結果(抜粋)-3に示し、MgCO3飽和溶液に対するpHと溶解度(log S)・化学種濃度(log C)の関係を-4に示します
(*2)   

-
2025-02-09-fig3

-4
2025-02-09-fig4

(*2) 勿論、ソルバーを用いて計算することも可能である。
添加した塩酸の濃度をCA=[Cl]とすると、電荷バランスは、
Q = [H]
[OH]2[Mg][MgOH][MgHCO3]2[CO3][HCO3][Cl] = 0
 ・与件:
pH
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:CA   

<水に対する溶解度>
PCO2=1 atmにおいて、水に対する溶解度を求めます。
化学種濃度は、上述の通り。
・ソルバーの
条件設定:
 ・与件:CA = 0
 ・目的セル:電荷バランス、Q = 0
 ・変数セル:pH
結果を-に示します。   

-
2025-02-09-fig5

水に対する溶解度は、PCO2=1 atm, 25℃で0.28 mol/Lという計算結果になりました。実測値では、20℃で0.31 mol/L, 30℃で0.25 mol/L(化学便覧)なので、計算値は実測値と良い一致を示していると言えます。   

今回の計算ではイオン強度の影響を無視しているので、やや蓋然的です。もう少し厳密に計算しようとすれば、この影響を考慮する必要があります。