系統的無機定性分析において、マグネシウムイオン(Mg2+)は第VI族に属し、難溶性炭酸塩を作る第V族(Ca2+, Sr2+, Ba2+)を沈殿分離したあとの沪液から分析します。しかし前回(2025-02-09)も述べたように、場合によってMg2+は炭酸塩として沈殿することがあります。今回は、どのような場合にMgCO3が沈殿し、あるいは沈殿しないのか、その条件を調べたいと思います。
用いた平衡定数(25℃, µ=0)は次の通りです。
MgCO3・3H2Oの溶解度積:
Kspc = [Mg][CO3] , log Kspc =-4.67
Mg(OH)2(無定形)の溶解度積:
Kspo = [Mg][OH]^2 , log Kspo =-9.2
MgOH+の生成定数:
βo =
[MgOH]/([Mg][OH]) , logβo = 2.58
MgCO3の生成定数:
βc = [MgCO3]/([Mg][CO3]) , logβc = 2.88
Mg(HCO3)+の生成定数:
βh =
[MgHCO3]/([Mg][HCO3]) , logβh = 0.95
CO2の酸解離定数:
K1 = [H][HCO3]/[CO2] , pK1 = 6.35
K2 = [H][CO3]/[HCO3] , pK2 = 10.33
NH3の酸解離定数:
Kn = [H][NH3]/[NH4] , pKn = 9.24
<<NH3またはHNO3を加えた(NH4)2CO3溶液に対するMg(NO3)2の溶解度>>
前回(2025-02-09)の結果から分かるように、MgCO3を沈殿させないようにするためにはpHを適切に調整することが重要です。pHの調整剤としては、HNO3-NH3系が良く用いられます。
CA mol/LのHNO3またはCB mol/LのNH3を含むCc mol/Lの(NH4)2CO3溶液に対するMgCO3の溶解度をソルバーで求めます。気相との平衡は考えません。
電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+2[Mg]+[MgOH]+[MgHCO3]-2[CO3]-[HCO3]-[NO3]+[NH4] = 0
物質バランス:
[Mg’] = [Mg]+[MgOH]+[MgCO3]+[MgHCO3] (= S)
[CO3’] = [MgCO3]+[MgHCO3]+[CO3]+[HCO3]+[CO2]
化学種濃度:
[H] = 10^-pH
[OH] = Kw/[H]
[Mg] = Kspc/[CO3]
[MgOH] = β0[Mg][OH]
[MgCO3] = βc[Mg][CO3]
[MgHCO3] = βh[Mg][HCO3]
[CO3] = 10^-pCO3
[HCO3] = [H][CO3]/K2
[CO2(aq)] = [H][HCO3]/K1
[NH3] = (2Cc+CB)/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
[NO3] = CA
ソルバーの条件設定:
・与件:pH
・目的セル:電荷バランス、Q = 0
・変数セル:pCO3
・制約条件:R = CC-[CO3’] = 0
Cc=0.1, 0.2, 0.5
mol/Lについて、pHを与えて溶解度Sを求めます。計算結果の抜粋を図-1に示します。また、MgCO3の溶解度SとpHおよび(NH4)2CO3濃度(Cc)の関係を図-2に示します。
Mg(NO3)2溶液の濃度Cmが0.016 mol/L以下の場合、pHおよび(NH4)2CO3溶液の濃度Ccの如何にかかわらずMgCO3の沈殿は生成しません。しかしそれを超えると、pHおよびCcによって沈殿が生成するかしないかを判断する必要が生じます。このとき、同一CcならばpHが低い方が溶解度は高くなり、同一pHならばCcが低い方が溶解度は高くなります。Cmが溶解度以下ならば沈殿は生成しません。
<<Mg(NO3)2溶液にNH4NO3および(NH4)2CO3を添加する>>
Cm mol/LのMg(NO3)2溶液に濃度がそれぞれCs mol/L, Cc
mol/LとなるようNH4NO3および(NH4)2CO3を添加することを考えます。NH4NO3および(NH4)2CO3の添加による溶液の体積変化は無視します。気相との平衡は考えません。
ソルバーのやり方は、上述の溶解度の計算に準じますが、異なる点だけを記すると、
[NH3] = (2Cc+Cs)/(1+[H]/Kn)
[NO3] = 2Cm+Cs
・MgCO3の沈殿が生じない場合:
・[Mg] = Cm/α
・α = 1+βo[OH]+βc[CO3]+βh[HCO3]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pCO3
・制約条件:R = Cc-[CO3'] = 0
・[Mg][CO3]/Kspc<1および[Mg][OH]^2/Kspo<1であることの確認(条件付き書式を付けると確認しやすい)
・MgCO3の沈殿が生じる場合:
・[Mg] = Kspc/[CO3]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pCO3
・制約条件:R = Cc-[CO3'] = 0
・[Mg']/Cm<1および[Mg][OH]^2/Kspo<1であることの確認(条件付き書式を付けると確認しやすい)
・沈殿する、しないの境界点:
・[Mg] = Kspc/[CO3]
・目的セル:Q=0
・変数セル:pH, pCO3, Cs
・制約条件:R = Cc-[CO3'] =0, [Mg']/Cm=1
具体的に、Cm=0.03 mol/LのMg(NO3)2にCs mol/LとなるようNH4NO3を添加し、ここにCc=0.2 mol Lとなるよう(NH4)2CO3を加えます(溶液の体積変化なし)。計算結果を図-3に示します。NH4NO3をCs=0.42 mol/L以上加え、pHを8.7以下にするとMgCO3の沈殿は生成しないようになります。
しかし、系統的無機定性分析においては、このような条件下で果たしてCaCO3が定量的に沈殿するかどうか調べる必要があります。これについては次回報告します。



コメント