カルシウムイオンとバリウムイオンを含む溶液に硫酸を加えて分別沈殿を行うことを考えます。CaSO4とBaSO4の溶解度積を比較するとBaSO4の方が小さいので、硫酸を加えていくと先にBaSO4が沈殿し、次いでCaSO4が沈殿します。Ca2+を溶液にとどめて、Ba2+だけを選択的に沈殿させる条件を求めます。
<<関係式および平衡定数>>
関係式は図-1の通りです。また、様々なイオン強度における平衡定数値を図-2に示します("Critical
Stability Constants" 等)。
<<分別沈殿-活量係数補正なし>>
イオン強度μ=0の平衡定数値を用いて、Cba=0.05 mol/Lの硝酸バリウムおよびCca=0.05 mol/Lの硝酸カルシウムを含む溶液に硫酸を加えていったとき、CaSO4は沈殿せずかつBaSO4が定量的に(99.9%以上)沈殿する条件(硫酸濃度範囲)をエクセル-ソルバーを用いて求めます。硫酸の添加によって溶液の体積は変化しないものとします。
ソルバーの設定条件は次の通りです。
・与件:硫酸の添加濃度(mol/L) Cs
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pSO4
・制約条件:R=(Cba+Cca-[Ba']-[Ca'])-(Cs-[SO4'])
・[Ba']/Cba, [Ca']/Cca, [Ba][SO4]/Kbs,
[Ca][SO4]/Kcs, [Ba][OH]^2/Kbo, [Ca][OH]^2/Kco値の確認(条件付き書式を付けるとよい)
計算結果の例を図-3に示します。
エクセルの計算は、実際の沈殿操作とは逆に、 初期値の見当をつけやすいCs=1 mol/Lから始めました。このときBaSO4,
CaSO4の両方とも沈殿が生成していると考えられるので、[Ba]=Kbs/[SO4],
[Ca]=Kcs/[SO4]としてソルバーを実行しました。Csの値を下げていき、[Ca']/Cca<1の条件が成立しなくなったとき(つまりCaSO4の沈澱が生成しなくなったとき)[Ca]=Cca/αcaに変更してして計算を続けました。さらに[Ba']/Cba<1が成立しなくなったら、[Ba]=Cba/αbaに変更して計算しました。
沈殿生成の境界における硫酸濃度Csは、制約条件:[Ca']/Cca=1あるいは[Ba']/Cba=1を加えてソルバーを実行しました。また、BaSO4の沈殿率が99.9%であるときのCsを求めるには、制約条件:BaSO4の沈澱率=99.9としました。
遊離のSO42-濃度(log[SO4])とlog[Ba'], log[Ca']の関係(A)、および添加した全硫酸濃度(Cs)とlog[Ba'], log[Ca']の関係(B)を図-4に示します。
Cs=8.0×10^-8 mol/Lのとき、BaSO4の沈殿が生成し始めます。(*1)
(*1) このとき、[SO4]=2.2×10^-9
mol/Lである。また[SO4]>>[HSO4]および[Ba]>>([BaSO4]+[BaOH])なので、Kbs=
[Ba][SO4]から[SO4]=10^-9.96/0.05=2.2×10^-9と簡易的に計算できる。
Csの増加とともにBaSO4の沈澱率は上昇し、BaSO4の沈殿生成率は99.9%となるのはCs=0.050 mol/L(当量点)のときです。さらにCs=0.062 mol/LのときCaSO4の沈澱が生成し始めます。
結論として、Cba=0.05 mol/Lの硝酸バリウムおよびCca=0.05 mol/Lの硝酸カルシウムを含む溶液に硫酸を加えたとき、CaSO4は沈殿せずBaSO4が定量的に(>99.9%)沈殿する硫酸濃度範囲は、0.050 mol/L<Cs<0.062 mol/Lとなりました。最適な硫酸の添加量はBaの当量点をやや過ぎたところと言えるでしょう。
<<分別沈殿-活量係数補正あり>>
関係式および平衡定数は図-1, 図-2の通りです。だだし、前項の結果から分かるように酸性-中性域であればOH-の寄与は非常に小さいのでOH-が関係する錯生成、沈殿反応は無視しました。
<活量係数補正方法>
活量係数補正には次式のような「修正デービス式」(2024-09-08)を用います。
logγ = -0.5z^2(√μ/(1+√μ)-kμ) (kは実測値の回帰式から求めた値)
したがって、
1価イオンについては、logγ1=-0.5(√μ/(1+√μ)-kμ)
2価イオンについては、logγ2=4logγ1 (γ2=γ1^4)
無電荷種については、logγ0=0 (γ0=1)
各平衡定数は、
Kbs = Kbso/(γ2γ2)
= Kbso/γ1^8
Kcs = Kbso/(γ2γ2)
= Kbso/γ1^8
βbs = βbso/(γ0/(γ2γ2))
= βbsoγ1^8
βcs = βcso/(γ0/(γ2γ2))
= βcsoγ1^8
K2 = K2o/(γ1γ2/γ1) = K2o/γ1^4
Kw = Kwo/(γ1γ1)
= Kwo/γ1^2
となります。
修正デービス式のkの求め方は次の通りです。
モデル式:logγ = -0.5z^2(√μ/(1+√μ)-kμ)
各平衡定数(X)について、モデル式のkに初期値を与えて求めたlog X(cal)と実験値のlog X(exp)(図-1)との偏差平方和(∑E^2)を求め、この偏差平方和が最も小さくなるようなk値をエクセルのソルバーによって求めます。
E = log X(cal)-log X(exp)
∑E^2 = ∑(log X(cal)-log X(exp))^2
目的セル:偏差平方和(∑E^2) (目標値:最小値)
変数セル:k
βbs, βcs, Kbs, Kcs, K2についてkの計算結果を図-5に示します。,
Kwについては既出の値(2024-11-03)を用いました。
<ソルバー計算>
Cba=0.05 mol/Lの硝酸バリウムおよびCca=0.05 mol/Lの硝酸カルシウムを含む溶液に硫酸を加えていったとき、CaSO4は沈殿せずBaSO4が定量的に(99.9%以上)沈殿する条件(硫酸濃度範囲)をエクセル-ソルバーを用いて求めます。硫酸の添加によって溶液の体積は変化しないものとします。「修正デービス式」を用いて活量係数補正を行います。
ソルバーの設定条件は次の通りです。
・与件:硫酸の添加濃度(mol/L) Cs
・目的セル:Q = 0
・変数セル:pH, pSO4, μo
・制約条件:R1 = (Cba+Cca-[Ba']-[Ca'])-(Cs-[SO4']) = 0
R2 = μcal-μo = 0
・[Ba']/Cba, [Ca']/Cca, [Ba][SO4]/Kbs,
[Ca][SO4]/Kcs値の確認(条件付き書式を付けるとよい)
計算結果の例を図-7に示します。計算方法は前項の通りです。
添加した全硫酸濃度(Cs)とlog[Ba'], log[Ca']の関係(A)、および添加した全硫酸濃度(Cs)と沈殿率の関係(B)を図-7に示します。
Cs=4.1×10^-7 mol/Lのとき、BaSO4の沈殿が生成し始めます。
Csの増加とともにBaSO4の沈澱率は上昇し、BaSO4の沈殿生成率が99.9%となるのはCs=0.0502 mol/Lのときです。さらにCs=0.14 mol/LのときCaSO4の沈澱が生成し始めます。
結論として、Cba=0.05 mol/Lの硝酸バリウムおよびCca=0.05
mol/Lの硝酸カルシウムを含む溶液に硫酸を加えたとき、CaSO4は沈殿せずBaSO4が定量的に(>99.9%)沈殿する硫酸濃度範囲は、0.050 mol/L<Cs<0.14 mol/Lとなりました。最適な硫酸の添加量はBaの当量点を少し過ぎた付近と言えるでしょう。
活量係数補正しないときと比べて、活量係数補正するとCaSO4が沈殿し始めるときのH2SO4濃度が高くなっています(Cs=0.062
mol/L→0.14 mol/L)。これは活量係数補正(μ=0→0.35)によってCaSO4の溶解度積Kcsが大きくなったことが主因です(logKcs=-4.61→-3.26)。
ただし、以上の計算では過飽和や共沈といった現象については考慮していません。








コメント