リン酸カルシウム塩には組成や結晶形の違いによって様々な種類があることが知られています。今回は、リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)およびヒドロキシアパタイト(HAp) (Ca10(OH)2(PO4)6)についてpHと溶解度の関係を求めます。
<関係式>(μ=0, 25℃)
・溶解度積:
CaHPO4・2H2O(s):Kch=[Ca][HPO4], pKch=6.58
Ca3(PO4)2(s):Kcp=[Ca]^3[PO4]^2, pKcp=28.82
Ca10(OH)2(PO4)6(s):Kha=[Ca]^10[OH]^2[HPO4]^6, pKha=114
Ca(OH)2(s):Kco=[Ca][OH]^2, pKco=5.19
・錯生成定数:以下の4種の錯体の生成のみを考慮した
CaPO4:βcp=[CaPO4]/([Ca][PO4]), logβch=6.46
CaHPO4:βch=[CaHPO4]/([Ca][HPO4]), logβch=2.74
CaH2PO4:βc2=[CaH2PO4]/([Ca][H2PO4]), logβc2=1.4
CaOH:βco=[CaOH]/([Ca][OH]), logβco=1.3
・酸解離定数:
H2PO4/H3PO4:K1=[H][H2PO4]/[H3PO4], pK1=2.15
HPO4/H2PO4:K2=[H][HPO4]/[H2PO4], pK2=7.20
PO4/HPO4:K3=[H][PO4]/[HPO4], pK3=12.38
H2O:Kw=[H][OH], pKw=14.00
・化学種濃度(mol/L):
[H]=10^-pH
[OH]=Kw/[H]
[Ca]=Kch/[HPO4] …(CaHPO4・2H2O沈殿時)
[Ca]=( Kcp/[PO4]^2)^(1/3) …(Ca3(PO4)2沈殿時)
[Ca]=( Kha/([OH]^2[PO4]^6)^(1/10)
…(HAp沈殿時)
[CaPO4]=βcp[Ca][PO4]
[CaHPO4]=βch[Ca][HPO4]
[CaH2PO4]=βc2[Ca][H2PO4]
[CaOH]=βco[Ca][OH]
[H3PO4]=[H][H2PO4]/K1
[H2PO4]=[H][HPO4]/K2
[HPO4]=[H][PO4]/K3
[PO4]=10^-pPO4
[X]=Cx …(HXはCa2+と錯体や沈殿を作らない1価の強酸。CxはHXの添加濃度(mol/L)。もしエクセルの計算で[X]が負になった場合は1価の強塩基が加えられたと考える)
・全濃度(mol/L):
[Ca’]=[Ca]+[CaOH]+[CaPO4]+[CaHPO4]+[CaH2PO4]
[PO4’]=[PO4]+[HPO4]+[H2PO4]+[H3PO4]+[CaPO4]+[CaHPO4]+[CaH2PO4]
・電荷バランス:
Q = [H]-[OH]+2[Ca]-[CaPO4]+[CaH2PO4]+[CaOH]-[H2PO4]-2[HPO4]-3[PO4]-[X] = 0
・物質バランス:
R = [Ca']-[PO4'] = 0 …(CaHPO4・2H2O沈殿時)
R = 2[Ca']-3[PO4'] = 0 …(Ca3(PO4)2沈殿時)
R = 3[Ca']-5[PO4'] = 0 …(HAp沈殿時)
<ソルバー計算>
リン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)およびヒドロキシアパタイト(Ca10(OH)2(PO4)6)のそれぞれについてpHと[Ca’](=溶解度)の関係を、ソルバーを用いて求めます。ソルバーの設定条件は次の通りです。
●リン酸水素カルシウムの溶解度
与件:pH
・[Ca]=Kch/[HPO4]
・目的セル:Q = 0
・変数セル:Cx, pPO4
・制約条件:R = [Ca']-[PO4'] = 0
●リン酸三カルシウムの溶解度
与件:pH
・[Ca]=(Kcp/[PO4]^2)^(1/3)
・目的セル:Q = 0
・変数セル:Cx, pPO4
・制約条件:R = 2[Ca']-3[PO4'] = 0
●ヒドロキシアパタイトの溶解度
・与件:pH
・目的セル:Q = 0
・変数セル:Cx, pPO4
・制約条件:R = 3[Ca']-5[PO4'] = 0
リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウムおよびヒドロキシアパタイト関する計算結果の例をそれぞれ、図-1、図-2、図-3に示します。
また、pHと[Ca’](=溶解度)の関係を図-4に示します。図から明らかなように、pHが低いときはリン酸水素カルシウム(CaHPO4・2H2O)の溶解度がリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)の溶解度よりも小さく、pHが高くなるとリン酸三カルシウムの溶解度の方が小さくなることが分ります。また対象としたpH域で、ヒドロキシアパタイト(Ca10(OH)2(PO4)6)の溶解度はリン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)の溶解度より常に小さいことが分ります。したがって、中性付近ではこれらの中でヒドロキシアパタイトが最も安定した結晶であろうと推測できます。




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