前回(2025-06-01)は、当量点前後で場合分けをして近似式を作成し、酸化還元滴定曲線を描きました。今回は、このような近似を行わずに、より厳密に平衡式を解いて滴定曲線を描く方法を検討します。より厳密な方程式の解を簡単に求めるためには、エクセルを使用して「二分法」、「MIN法」などの手法を用いるのが有効です。
具体的には、濃度Cfo mol/Lの鉄(II)を含む1 mol/L硫酸溶液v mLを濃度Cco
mol/Lのセリウム(IV)を含む1 mol/L硫酸溶液で滴定する(滴下量, t mL)ことを考えます。
<<関係式>>
滴定途中の被滴定溶液中の全鉄、全セリウム濃度をCf, Ccとすると、関係式は次の通り。
E = Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+]) …①
E = Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+]) …②
Cf = Cfov/(v+t) = [Fe3+]+[Fe2+] …③
Cc= Ccot/(v+t) = [Ce4+]+[Ce3+] …④
[Fe3+] = [Ce3+] …⑤
ここで、Cfo, Cco, v, Eo'f,
Eo'c, RT/Fはすべて定数です(*1)。
(*1) Eº'f(=0.68 V) , Eº'c=(1.44
V) は1 mol/L H2SO4中における見掛けの電位。滴定開始から終了までこの電位は変化しないものとする。
Fe(II), Fe(III)について、
①式より、
(Eo’f-E)/(RT/F) = ln([Fe2+]/[Fe3+])
対数を外すと、
exp((Eo’f-E)F/(RT)) = [Fe2+]/[Fe3+] …⑥
③式より、
[Fe2+] = Cf-[Fe3+] …⑦
⑦式を⑥式に代入して、
exp((Eo'f-E)F/(RT)) = (Cf-[Fe3+])/[Fe3+] = Cf/[Fe3+]-1
1+exp((Eo'f-E)F/(RT)) = Cf/[Fe3+]
[Fe3+] = Cf/{1+exp((Eo'f-E)F/(RT))}
= Cf/{1+1/(exp((E-Eo'f)F/(RT)))} …⑧
ここで、
Af=exp((E-Eo'f)F/(RT))
と置くと、⑧式は、
[Fe3+] = Cf/{1+1/Af} = CfAf/(Af+1) …⑨
同様に、Ce(IV), Ce(III)について、
②式より、
(Eo'c-E)/(RT/F) = ln([Ce3+]/[Ce4+])
対数を外すと、
exp((Eo'c-E))F/(RT)) = [Ce3+]/[Ce4+] …⑩
④式より、
[Ce4+] = Cc-[Ce3+] …⑪
⑪式を②式に代入して、
exp((Eo'c-E)F/(RT)) = [Ce3+]/(Cc-[Ce3+])
exp(-(Eo'c-E)F/(RT)) = (Cc-[Ce3+])/[Ce3+]
= Cc/[Ce3+]-1
1+exp((E-Eo'c)F/(RT)) = Cc/[Ce3+]
[Ce3+] = Cc/{1+exp((E-Eo'c)F/(RT))} …⑫
ここで、
Ac=exp((E-Eo'c)F/(RT))
と置くと、⑫式は、
[Ce3+] = Cc/(Ac+1) …⑬
⑤式から、⑨=⑬なので、
AfCf/(Af+1) = Cc/(Ac+1)
この式と③, ④式から、
(CfovAf/(v+t))/(Af+1) = (Ccot/(v+t))/(Ac+1)
CfovAf/(Af+1) = Ccot/(Ac+1)
f(E) = CfovAf/(Af+1)-Ccot/(Ac+1)
と置くと、
f(E) = 0 …⑭
となります。Af, AcはEのみの関数であり、tを与えてf(E)=0の方程式を解くことにより、tに対するEの値を求めることができます。
<<エクセルを利用する方法>>
エクセルを用いてf(E)=0を解くためのテクニックとして、「二分法」、「MIN法」が利用できます。
<二分法>
f(E)が単調増加関数であり、f(a)<0, f(b)>0であるとき、E=a, b間のどこかにかならずf(E)=0となるEが一つ存在します。ここのようなとき、f(E)=0の方程式を解くために、「二分法」を用いることが可能です(*2)。
(*2) 二分法を用いるためには、f(E)が単調関数であることが必要である。w=F/(RT)と置き、
f(E) = AfCfov/(Af+1)-Ccot/(Ac+1)を微分する。
Af, Acは指数関数であり、dAf/dE=wAf,
、dAc/dE=wAcなので、
df(E)/dE = wAfCfov/(Af+1)2+wAcCcot/(Ac+1)2
Cfov, Ccot,
w, Af, Acはすべて正なので、df(E)/dE>0
したがって、f(E)は単調増加関数であり、二分法が使える。
濃度Cfo=0.1 mol/L, v=50
mL, Cco=0.1 mol/Lの場合について計算します。f(E)は次式で与えられます。
f(E) = AfCfov/(Af+1)-Ccot/(Ac+1)
ここで、Af=exp((E-Eo'f)F/(RT)), Ac=exp((E-Eo'c)F/(RT))
「二分法」のやり方は次の通りです(2023-04-30)。
(1) a, bの中点をm=(a+b)/2 として、f(a)<0, f(b)>0かつf(m)>0ならばaとmで挟んで、その中点をm’とする。
(2) f(a)<0, f(b)>0かつf(m)≦0ならばmとbで挟んで、その中点をm’とする。
(3) この操作を繰り返してEの範囲を狭めて行き、f(E)=0となるEを求める。
(4) エクセルのデータテーブル機能により、tを変化させて各々のtに対するEの値を求める。
例えば、t=0.001 として二分法を適用します。Eの初期値はEº'c=1.44, Eº'f=0.68から考えて、Eの初期値はa=2, b=0としました。二分法の反復回数は30回としました。次いで、t=0.001~100 mLについてデータテーブル機能を用いてEを求めました。計算結果と計算式の抜粋を図-1に示します。また滴定曲線(滴下量t - E(SCE))を図-2に示します。
図-2において、当量点におけるEの値はEeq=(Eo'f+Eo'c)/2となります。また当量点での滴下量をteqとすると、t=teq/2のときEの値はE≒Eo'f となり、t=2teqのときEの値はE≒Eo'c
となります(*3)。
(*3) これらの関係はすべて⑭式から導き出せる。
たとえば、E = Eo'fのとき、これをf(E) = 0に代入して、
Cfov/(1+exp(0)) = Ccot/(1+exp((Eo'f-Eo'c)F/(RT)))
ここで、exp(0) = 1、Eo'f-Eoc = 0.68-1.44 = -0.76、exp((Eo'f-Eo'c)F/(RT)) = exp(-0.76/0.0257) = 1.4×10^-13
したがって、1+exp(-(Eo'c-Eo'f)F/(RT)) = 1と近似できる。
Cfov/2≒Ccot
つまり、t = (Cfov/Cco)/2 = teq/2のときEの値はE≒Eof
となる。
同様にして、t = 2(Cfov/Cco) = 2teqのときEの値はE≒Eoc
となる。
<MIN法>
関数f(E)のEに連続して変化させた数値を代入してf(E)の絶対値を求め、一連のf(E)値の中から最小値0を検索すれば、その時のEがf(E)=0の解となります。この方法をここでは「MIN法」と呼びます。
エクセルを用いた「MIN法」のやり方は次の通りです(2023-05-07)。
(1) エクセルで、t(例えば0.001 mL)を与えてEを0 V~2 Vまで細かく変化させてf(E)の値を計算する(例えば、0.002 V刻み、データ数1001個)。
(2) これら一連のデータの絶対値について、その最小値を求める。具体的にはエクセルのMIN関数でABS(f(E))の最小値を求め、MATCH関数でその最小値の相対的位置(上から何番目)を求め、INDEX関数でその位置のEの値を求める。
E=INDEX(H25:H1025,MATCH(MIN(C25:C1025),C25:C1025,0))
この値がf(E)=0を与えるEとなる。
(3) エクセルのデータテーブル機能を用いて、tを0.001~100 mLまで変化させて、対応するEの値を求める。
計算結果と計算式の抜粋、並びに滴定曲線(滴下量t - E(NHE))を図-3に示します。
図-3



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