前回(2025-06-08)は、「二分法」、「MIN法」の手法を用いて、酸化還元滴定曲線を描きました。今回は、「ソルバー法」、「二次式法」および「レビ法」を用いて滴定曲線を描く方法を示します。
具体的には、濃度Cfo mol/Lの鉄(II)を含む1 mol/L硫酸溶液v mLを濃度Cco
mol/Lのセリウム(IV)を含む1 mol/L硫酸溶液で滴定する(滴下量, t mL)ことを考えます。
<<エクセルを利用する方法>>
エクセルを用いてf(E)=0を解くためのテクニックとして、「ソルバー法」の利用を考えます。また、その他、滴定曲線を描く方法として「二次式法」、「レビ法」などの利用が可能です。二次式法、レビ法は関数電卓で計算することも可能ですが、エクセルを用いたほうが操作は楽です。
<ソルバー法>
滴定途中の被滴定溶液中の全鉄、全セリウム濃度をCf, Ccとすると、関係式は次の通り。
E = Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+]) …①
E = Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+]) …②
Cf = Cfov/(v+t) = [Fe3+]+[Fe2+] …③
Cc= Ccot/(v+t) = [Ce4+]+[Ce3+] …④
[Fe3+] = [Ce3+] …⑤
ここで、Cfo, Cco, v, Eo'f,
Eo'c, RT/Fはすべて定数です(*1)。
(*1) Eº'f(=0.68 V) , Eº'c=(1.44
V) は1 mol/L H2SO4中における見掛けの電位。滴定開始から終了までこの電位は変化しないものとする。
上記の関係式は①~⑤式の5個、未知数はE,
[Fe2+], [Fe3+], [Ce3+], [Ce4+]の5個なので「ソルバー法」(2023-04-23)を利用して方程式を解くことができます。ソルバー法のメリットとしては、
(1) 関係式の複雑な変形(例えば、Af, Acの誘導)が不要。
(2) 複雑な平衡を同時に取り扱うことができ、また活量係数補正が可能。
などが挙げられます。
デメリットとしては、条件を変更するごとに各tに対するソルバーを実行する必要があり、同時一括処理ができない、ことです。
f(E)=0の方程式を解くために、ソルバー法を用いる場合、ソルバーの実行条件は、
与件:t
目的セル:f(E) = [Fe3+]-[Ce3+]=0
変数セル:E, p[Fe2+], p[Fe3+],
p[Ce3+], p[Ce4+]
制約条件:
R1 = E-(Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+])) = 0
R2 = E-(Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+])) = 0
R3 = Cfov/(v+t)-([Fe3+]+[Fe2+])
= 0
R4 = Ccot/(v+t)-([Ce4+]+[Ce3+]) = 0
とします(*2)。
(*2) 目的セルおよび制約条件は①~⑤式をそのまま持ってくればよい。複雑な式の変形は不要。変数セルの濃度は桁数が大きく変動するので、対数変換をしておく。
ソルバー法による計算結果と計算式の抜粋、並びに滴定曲線(滴下量t - E(NHE))を図-1に示します。
図-1
<二次式法>
Fe2++Ce4+⇄Fe3++Ce3+
反応式の平衡定数Kは、
K = [Fe3+][Ce3+]/([Fe2+][Ce4+])
Fe3+/Fe2+に関する半電池反応式およびネルンスト式は、
Fe3+ + e- ⇄ Fe2+
Ef = Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+])
Eº'f = 0.68 V (1 M H2SO4中、対NHE)
Ce4+/Ce3+に関する半電池反応式およびネルンスト式は、
Ce4+ + e- ⇄ Ce3+
Ec = Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+])
Eº'c = 1.44 V (1 M H2SO4中、対NHE)
平衡状態ではEf=Ecなので、
logK = log([Fe3+][Ce3+]/([Fe2+][Ce4+])) = (Eºc-Eºf)/0.0592 = 0.76/0.0592 = 12.84
Keq = 7.02×10^12
滴定時は常に[Fe3+]=[Ce3+]なので、[Fe3+]=[Ce3+]=x/(v+t) と置くと(xの単位はmmol)、
[Fe2+] = Cfov/(v+t)-x/(v+t)
[Ce4+] = Ccot/(v+t)-x/(v+t)
∴Keq = [Fe3+][Ce3+]/([Fe2+][Ce4+]) = x^2/{(Cfov-x)(Ccot-x}
この式をxで整理すると、
x^2-{Keq(Cfov+Ccot)/(Keq-1)}x+KeqCfovCcot/(Keq-1) = 0 (*3)
解の公式を用いてこの二次方程式を解いてxを求めると、
当量点前:Ef = Eo'f-(RT/F)ln([Fe2+]/[Fe3+])
当量点:Eeq = (Eº'f+Eº'c)/2
当量点後:Ec = Eo'c-(RT/F)ln([Ce3+]/[Ce4+])
から、Eを求めることができます。
(*3) もしKeqが非常に大きく、Keq-1≒Keqと近似できるならば、
x^2-(Cfov+Ccot)x+CfovCcot = 0
と近似できる。
二次式法による計算結果と計算式の抜粋、並びに滴定曲線(滴下量t - E(NHE))を図-2に示します(*4)。
(*4) エクセルの計算精度の関係で当量点前はEfを、当量点後はEcを採用するのがよい。
図-2

<レビ法>
これまで述べた方法はいずれも、tを与えてEを求める方法でしたが、逆にEを与えてtを求める手段をとると、tは簡単に算出できます。この方法をここでは「レビ法」(2023-07-23)と呼びます。
滴定曲線の式(2025/05/25)、
f(E) = CfovAf/(Af+1)-Ccot/(Ac+1)
= 0
をtについて整理すると、
t = (Cfo/Cco)vAf(Ac+1)/(Af+1) …⑥
Af=exp((E-Eo'f)F/(RT))
Ac=exp((E-Eo'c)F/(RT))
Af, AcにEを入れて、これらの値を⑥式に代入すれば、tとEの関係を得ることができます。当量点は、
Eeq = (Eº'f+Eº'c)/2
で与えられます。tの算出は関数電卓でも可能ですが、エクセルを用いればこれらの計算はより簡単です。ある特定のtに対するEの値を知りたい場合はソルバー法を用いるのが良いでしょう。
レビ法による計算結果と計算式の抜粋、並びに滴定曲線(滴下量t - E(NHE))を図-3に示します。
<各方法の比較>
これまで、滴定曲線の作成方法として「場合分け-近似法」、「二分法」、「MIN法」、「ソルバー法」、「二次式法」、「レビ法」について説明しました。これらの方法の長所、短所を下記にまとめます。


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