エクセルを用いて、過マンガン酸カリウムKMnO4によるシュウ酸(COOH)2の酸化還元滴定の滴定曲線を描きます。酸化滴定剤であるKMnO4溶液は濃い赤紫色をしており、またその還元形であるMn2+イオンはほぼ無色であるため指示薬は必要ありません。滴定は通常、当量点の電位変化を急峻にするため、硫酸酸性下で行われます。
具体的には、CXo mol/Lのシュウ酸, vX
mLおよびCHo mol/Lの硫酸, vH
mLに水を加えてv mLにした溶液をCMo
mol/LのKMnO4溶液で滴定(滴下量:t mL)する場合について考えます。
<<関係式>>
被滴定溶液中の全シュウ酸濃度、全マンガン濃度、全硫酸濃度をCX, CM,
CHとすると、関係式は次の通りです。
<半反応式およびネルンスト式>
2CO2 + 2H+ + 2e- ⇄ (COOH)2
E = EoX-(z/2)log([(COOH)2]/([CO2]^2[H]^2)) …①
EºX = -0.475 V (対NHE)
MnO4-
+8H+ + 5e- ⇄ Mn2+ + 4H2O
E = EoM-(z/5)log([Mn]/([MnO4][H]^8)) …②
EºM = 1.51 V (対NHE)
<物質バランス>
CX = CXovX/(v+t) = [(COOH)2]+[CO2]/2 …③
CM = CMot/(v+t) = [MnO4]+[Mn] …④
[CO2] = 5[Mn] …⑤
CH = CHovH/(v+t) = [H]+3[Mn] …⑥
ここで、CXo, CMo, CHo,
vX, vH, v, EoX, EoMは一定です(*1)。
(*1) R:気体定数、T:温度(=25℃)、F:ファラディー定数。z=ln(10)RT/F=0.0592。標準電極電位はEºX=-0.475 V , EºM=1.51 V。活量係数は考慮しない。硫酸濃度はおよそ0.2 mol/L以上であるとして、第2段階の電離は無視する(2024-03-10)。MnO2の生成は無視する。また、実際の滴定は加温して行われるが、ここでは25℃のデータを用いて計算した。
<酸化還元反応式>
5(COOH)2 + 2MnO4- + 6H+
⇄ 10CO2 + 2Mn2+
+ 8H2O …⑦
また⑦式は大きく右に偏っており(logK=335)(*2)、当量点以前・当量点・当量点以降で場合分けをすると図-1に示すような量的関係が近似的に成立します。
(*2) ⑦式の平衡定数は、
K = [CO2]^10[Mn]^2/([(COOH)2]^5[MnO4]^2[H]^6)
で与えられる。
一方、①式より、
E = EoX-(5/10)z×log([(COOH)2]/([CO2]^2[H]^2))
= EoX-(1/10)z×log([(COOH)2]^5/([CO2]^10[H]^10)) …①’
②式より、
E = EoM-(2/10)z×log([Mn]/([MnO4][H]^8))
= EoM-(1/10)z×log([Mn]^2/([MnO4]^2[H]^16)) …②’
②’-①’より、
EoM-EoX = z/10×log([CO2]^10[Mn]^2/([(COOH)2]^5[MnO4]^2[H]^6)) = z/10×log K
したがって、
log K = 10(EoM-EoX)/z = 10×(1.51+0.475)/0.05916 = 335
<<場合分け-近似式の利用>>
濃度CXo=0.0125 mol/L, vX=5
mL, CHo=6 mol/L, vH=10 mL, v=150 mL, CMo=0.005
mol/Lとした場合(滴下量t
mL)の滴定曲線を求めます。
<滴定剤を加える前>
滴定剤(KMnO4)を加える前の試料溶液((COOH)2)には、微量であってもCO2が含まれています。しかし、この量は分からないので、ここでは仮に[(COOH)2]/[CO2] =10^3, [H]=0.4 とします。
E = EºX – (0.0592/2)log([(COOH)2]/[CO2]^2[H]^2) = -0.776 (V)
<当量点以前>
⑦式の平衡は大きく右に偏っているので、当量点前(CX>CM)では、MnO4-はほぼすべてMn2+に変化し、またMnO4-を加えた分だけ(COOH)2はCO2に変化します。
①, ②式の電位は等しいのでどちらの式を用いてもよいのですが、計算の容易な①式を用いてEを求めます。
たとえば、滴下量 t = 1 mLの場合。
当量点前は[MnO4]≒0なので、④式からCM=[Mn]とみなすことができます。したがって、⑤式から、
[CO2]=5[Mn]=5CM=5CMot/(v+t)
=5×0.005×1/(150+1)=1.66×10^-4
一方、残った[(COOH)2]は、③式から、
[(COOH)2]=Cx-[CO2]/2=CXovX/(v+t)-[CO2]/2
=0.0125×5/(150+1)-(1.66×10^-4)/2=3.31×10^-4
また、[H]は⑥式から、
[H]=CHovH/(v+t)-3CMot/(v+t)=6×10/(150+1)-3×0.005×1/(150+1)=0.397
したがって、①式から、
E = EoX-RT/(2F)ln([H+]^2[CO2]^2/[(COOH)2])
= -0.475-(0.0592/2)log([H+]^2[CO2]^2/[(COOH)2]) = -0.619 (V)
<当量点>
滴下量 t = 5 mLの場合(当量点)。
5[Mn]=[CO2]に加えて、当量点では2CX=5CMから2[(COOH)2]=5[MnO4]が成立します。
(①×2+②×5)/7より
Eeq = (2EoX+5EoM)/7-(0.0592/7)log([(COOH)2][Mn2+]/(
[CO2]^2[H+]^2[MnO4-][H+]^8))
Eeq = (2EoX+5EoM)/7-(0.0592/7)log(1/(2[CO2][H]^10))
また、[(COOH)2]<<[CO2]/2なので、
[CO2]≒2CXovX/(v+t)=2×0.0125×5/(150+5)=8.06×10^-4
[H]は
[H]=CHovH/(v+t)-3CMot/(v+t)=6×10/(150+5)-3×0.005×5/(150+5)=0.387
したがって、
Eeq = (-2×0.475+5×1.51)/7+(0.0592/7)log(2[CO2][H]^10)=
0.884 (V)
<当量点以降>
当量点後(CX<CM)は、(COOH)2はほぼすべてCO2に変化し、過剰のMnO4が残るので、②式を用いてEを求めるのが簡単です。
たとえば、滴下量 t = 7 mLの場合。
当量点後は[(COOH)2]≒0なので[CO2]=2CXとみなしてよい。
[Mn]=[CO2]/5=2CX/5=(2/5)CXovx/(v+t)
=(2/5)×0.0125×5/(150+7)=1.592×10^-4
一方、残った[MnO4]は、
[MnO4]=CM-[Mn]=CMot/(v+t)-[Mn]
=0.005×7/(150+7)-1.592×10^-4=6.37×10^-5
また、[H]は、
[H]=CHovH/(v+t)-(6/5)CXoVx/(v+t) = 0.382
したがって、②式から、
E = EoM-RT/(5F)ln([Mn2+]/([MnO4-][H+]^8))
=1.51-(0.0592/5)log([[Mn2+]/([MnO4-][H+]^8)) = 1.466 (V)
<<滴定曲線の作成>>
濃度CXo=0.0125 mol/L, VX=5
mL, CHo=6 mol/L, VH=10 mL, v=150 mL, CMo=0.005
mol/Lとした場合(滴下量t mL)のエクセルによる計算結果および計算式(抜粋)を図-2に示します。
滴定曲線(滴下量t - E(対NHE))を図-3に示します。
<終点の検出>
終点の検出は滴定剤であるKMnO4のピンク色が消失しなくなる点で判断できます。着色を目視で判断できるためには、ある程度過剰のMnO4-イオンが存在する必要があります(*3)。しかしその誤差は小さく、また空試験や標定によって補正することができます。
KMnO4による酸化還元滴定における反応速度はあまり速くありません。特に、当量点に近づくと反応速度はかなり遅くなります。したがって、滴定は反応速度を速めるため加温して行ない、終点付近ではピンク色がしばらく消えないことを確認しながらゆっくりと滴定することが必要です。
実際の滴定、たとえばJIS K 0102のCODMn測定においては、液温を50~60℃に保って滴定し、微紅色が30秒間保たれるときを終点としています。
(*3)MnO4-イオンのモル吸光係数は2350である。もし仮に目視の限界吸光度を0.001とすると、そのときのMnO4-イオン濃度は4.3×10^-7 mol/Lとなる。




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