弱酸性で、2価の銅イオンに過剰のヨウ化物イオンを加えると、不溶性のヨウ化銅(I)とヨウ素が定量的に生成します。生じたヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定することにより、銅を定量することができます。このような滴定法は「ヨウ素還元滴定法」と呼ばれます。このときの滴定曲線を、当量点前後で場合分けして近似式を用いる方法で描きます。
具体的には、Cco mol/Lの銅(II)溶液, Vc mLに過剰のヨウ化カリウム溶液Cio
mol/L, Vi mLを加え、水でv mLにして、ヨウ化銅(I)沈殿とヨウ素(三ヨウ化物イオン(I3- ))を生成します。この生成したヨウ素をCso mol/Lのチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定します(滴下量:t mL)。
<<関係式>>
滴定中の溶液内では次のような平衡が成立するものとします。
2Cu2+ + 5I- ⇄ 2CuI↓ + I3- (*1) …ⓐ
I3- + 2S2O32- ⇄ 3I- + S4O62-
…ⓑ
(*1) 弱酸性の条件下では、ⓐ式の反応は大きく右に進行し、定量的にCuIが生成する(Ksp=1×10^-12)。したがって溶液中のCu2+は無視できる。ヨウ素(I2)はヨウ化カリウム溶液中でヨウ化物イオンと反応して三ヨウ化物イオン(I3-)を生成する。
2Cu2+ + 4I- ⇄ 2CuI↓ + I2
I2 +I- ⇄
I3- (K=710)
<半反応とネルンスト式>
I3- + 2e-
⇄ 3I-
E = Eoi-(z/2)log([I]^3/[I3]) …①
Eºi = 0.536 V (対NHE)
S4O62- + 2e- ⇄
2S2O32-
E = Eos-(z/2)log([S2O3]^2/[S4O6]) …②
Eºs = 0.080 V (対NHE)
ここで、z=ln(10)RT/F=0.0592), R:気体定数、T:温度(25℃)、F:ファラディー定数。Eºi , Eºsは標準電極電位。活量係数は考慮しません。
<物質バランス>
滴定途中の溶液内に存在する銅、ヨウ化物、チオ硫酸の全濃度をそれぞれCc, Ci,
Csとすると、
Cc = CcoVc/(v+t) = [CuI↓] …③
([CuI↓]はCuI固体が溶液中に溶解していると仮想したときの濃度)
Ci = CioVi/(v+t) = [CuI↓]+3[I3]+[I] …④
Cs = Csot/(v+t) = [S2O3]+2[S4O6] …⑤
ここで、Cco, Cio, Cso,
Vc, Vi, vは一定値です。
<<計算>>
<滴定剤を加える前>
ⓐ式より、[I3]=[CuI↓]/2なので、これと③式より、
[I3]=Cc/2
また④式より、
[I]= Ci-3[I3]-[CuI↓]
= Ci-3(Cc/2)-Cc = Ci-(5/2)Cc
この[I3], [I]を①式に代入して、
E = Eoi-(z/2)log((Ci-(5/2)Cc)^3/(Cc/2))
<当量点以前>
ⓑ式の平衡は大きく右に偏っているので、当量点以前(Ci>Cs)では、S2O32-はほぼすべてS4O62-に変化します。つまり、滴定剤(Na2S2O3)について、
[S2O3]≒0
となります。したがって、②式を使うより①式を用いてEを求める方が簡単です。
ヨウ素(I3-)ついて、滴定を始める前は、[I3]=Cc/2でした(前項)。滴定剤(Na2S2O3)の添加によりS4O62-が生成し、これと等molのヨウ素(I3-)が減少するので、
[I3] = Cc/2-[S4O6] = (Cc-Cs)/2
④式に[CuI↓]=Ccおよび[I3] = (Cc-Cs)/2を代入すると、
Ci = Cc+3(Cc-Cs)/2+[I]
したがって、
[I] = Ci-(5/2)Cc+(3/2)Cs
①式にこれら[I3], [I]の関係式を代入すると、
E = Eoi-(z/2)log((Ci-(5/2)Cc+(3/2)Cs)^2/((Cc-Cs)/2))
<当量点>
当量点では、2[I3]=[S2O3]が成立し、またⓑ式の反応は大きく右に偏っているので、
2[I3]=[S2O3]≒0
が成立します。
したがって④式, ⑤式から、
[I] = Ci-Cc
[S4O6] = Cs/2
(①×2+②)/3から、
E = (2Eoi+Eos)/3-(z/6)log([I]^6[S2O3]^2/([I3]^2[S4O6]))
当量点においては、2[I3]=[S2O3]なので、
E = (2Eoi+Eos)/3-(z/6)log(4[I]^6/[S4O6])
したがって、
Eeq = (2Eoi+Eos)/3-(z/6)log(8(Ci-Cc)^6/Cs)
<当量点以降>
当量点後(Ci<Cs)は、I3-はほぼ完全にI-に変化します([I3]≒0)。したがって、②式を用いてEを求めるのが簡単です。
滴定を始める前は[I3]=Cc/2でしたが、当量点以降、生成したI3-はほぼすべてなくなり、それと等モルのS4O62-を生じるので(ⓑ式より)、
[S4O6] = Cc/2
また、⑤式から
[S2O3] = Cs-Cc
したがって、これらを②式に代入して、
E = Eos-(z/2)log(2(Cs-Cc)^2/Cc)
以上の関係を下表にまとめます。
<<計算結果>>
Cco=0.1 mol/L, Vc=10
mL, Cio=0.648 mol/L (KI 10%), Vi=10 mL, v=30 mL, Cso=0.1
mol/Lとした場合(滴下量t mL)のエクセルによる計算結果(抜粋)を図-1に示します。また、このときの計算式の例を図-2に示します。滴定曲線(滴下量t - E(対NHE))を図-3に示します。
<終点の検出>
デンプンはヨウ素と反応して可逆的な青紫色の錯体を作るので、滴定の終点検出に利用されます。ヨウ素還元滴定では、終点の直前にデンプン指示薬を加え、ヨウ素濃度が減少して青紫色が消失した点を終点とします。




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