還元剤であるアスコルビン酸(AA:C6H8O6)はヨウ素によって容易に酸化されてデヒドロアスコルビン酸(DA:C6H6O6)になります。したがって、アスコルビン酸を含む試料溶液をヨウ素標準溶液で滴定することによりアスコルビン酸の定量ができます。このような滴定法は「ヨウ素酸化滴定法」と呼ばれます。このときの滴定曲線を、ソルバー法で描きます。
<<関係式>>
具体的には、CAo mol/Lのアスコルビン酸およびCHo
mol/Lの硫酸を含む溶液v mLをCYo
mol/Lのヨウ素溶液(CKo mol/LのKIを含む)で滴定することを考えます(滴下量:t mL)。
<滴定溶液中の平衡>
滴定中の溶液内では次のような平衡が成立します。
AA + I3- ⇄ DA + 2H+ + 3I-
<半反応とネルンスト式>
アスコルビン酸について、
DA + 2H+ + 2e-
⇄ AA
EA = EoA-(z/2)log([AA]/([DA][H]^2)) …①
EoA = 0.39 V (対NHE)
ヨウ素について、
I3- + 2e- ⇄ 3I-
EY = EoY-(z/2)log([I]^3/[I3]) …②
EºY = 0.536 V (対NHE)
ここで、z=ln(10)RT/F (=0.0592), R:気体定数、T:温度(25℃)、F:ファラディー定数。EºA , EºYは標準電極電位。活量係数は考慮しません。
また、平衡が成立した溶液中では、
EA = EY (=E)
が成立します。
<物質バランス>
滴定途中の溶液内に存在するアスコルビン酸、ヨウ素、硫酸の全濃度をそれぞれCA, CY, CHとすると、次式が成立します(*1)。
CA = CAov/(v+t) = [AA]+[DA] …③
CY = CYot/(v+t) = [I3]+([I]-CK)/3 …④
(ここで、CK = CKot/(v+t))
CH = CHov/(v+t) = [H]-2[DA] …⑤
これらの式において、CAo, CYo, CHo, CKoおよびvは一定値です。
さらに、生成物(DA, I-)については次の関係が成立します。
[DA] = ([I]-CK)/3 …⑥
(*1) ヨウ素(I2)はヨウ化カリウム溶液中でヨウ化物イオンと反応して三ヨウ化物イオン(I3-)を生成する。
I2 +I- ⇄
I3- (K=710)。また硫酸はすべてHSO4-として存在し、アスコルビン酸は酸解離しないものとする。
<<ソルバー解>>
tにある値を与えると、未知数が6個([AA],
[DA], [I], [I3], [H], E)、方程式が6個((①~⑥)なので、この連立方程式は解くことができます。エクセルのソルバー機能を用いてこの連立方程式を解きます。
[A’] = [AA]+[DA]
[Y’] = [I3]+([I]-CK)/3
[H’] = CH+2[DA]
pAA = -log[AA]
pDA = -log[DA]
pI3 = -log[I3]
pI = -log[I]
pH = -log[H]
Q = ([I]-CK)-3[DA] = 0
(特に、当量点においては、[AA]=[I3]も成立する)
ソルバーの実行条件は次の通りです。
与件:t
目的セル:Q = 3[DA]-([I]-CK)
= 0
変数セル:pAA , pDA, pI , pI3
, pH, E
制約条件:
R(EA) = E-{EoA-(z/2)log([AA]/([DA][H]^2))}
= 0
R(EY) = E-{EoYー(z/2)log([I]^3/[I3])}
= 0
R(CA) = CA-[A’] = 0
R(CY) = CY-[Y’] = 0
R(CH) = [H]-[H’] = 0
(特に、当量点においてはReq
= [AA]-[I3] = 0)
<結果>
CAo=0.01 mol/L, CHo=0.1 mol/L, v=100 mLの試料(アスコルビン酸)溶液をCYo=0.05
mol/Lのヨウ素標準溶液(CKo=0.24 mol/L)で滴定した場合のエクセルによる計算結果(抜粋)を図-1に示します。また、滴定曲線(滴下量t - E(対NHE))を図-2に示します。
<<実際の滴定方法>>
例えば、JIS 9502では、
「試料(アスコルビン酸)0.2 gを水80 mLに溶かし、硫酸(1+3) 2 mLを加え0.05
mol/L ヨウ素溶液(KI 40 g/Lを含む)で滴定する。終点近くでんぷん溶液0.5 mLを加え、液の色が無色から青色に変わった点を終点とする」
また、日本薬局方では、
「試料(アスコルビン酸)0.2 gをメタリン酸溶液(0.02 g/mL) 50 mLに溶かし、でんぷん溶液を指示薬として0.05 mol/L ヨウ素溶液で滴定する」
となっています。
滴定剤としてヨウ素を使うのは、ヨウ素が中程度の酸化力を持ち、アスコルビン酸を定量的にデヒドロアスコルビン酸に酸化するのに適切だからです。あまり強い酸化剤(例えばKMnO4)を用いると、デヒドロアスコルビン酸はさらに酸化されて滴定の定量性が得られなくなります。
なお、日本薬局方でメタリン酸を用いるのは、メタリン酸の添加によりpHを適切に保ち、また重金属をマスキングすることで、アスコルビン酸の酸化を防ぐためです。



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