二相間の分配平衡については、これまでも沈殿平衡(2024-08-24)やCO2の気液平衡(2024-02-25)で取り上げてきましたが、まだ取り上げていない系として、互いに混じり合わない二相の液体間に関する平衡があります。これから、この平衡について取り上げていきたいと思います。水相と有機相の分配平衡を利用して行われる分離方法は溶媒抽出と呼ばれます。
<<溶媒抽出の基礎-用語>>
<分配定数>
物質Aが混じり合わない水相と有機相間で分配平衡にあるとき、水相と有機相での物質Aの活量をそれぞれaw(A), ao(A)とすると、両相に分配した物質Aの活量の比は一定となります。
Aw ⇄ Ao
Kºd = ao(A)/aw(A)
Kºdは、熱力学的分配定数と呼ばれ、温度が一定であれば一定です(分配定数は分配係数ともいう)。
活量a(A)と濃度[A]のあいだには、
a(A) = γ[A] (γ:活量係数)
の関係があるので、
Kºd = [A]oγo/(A]wγw)
ここで、
Kd = [A]o/[A]w
と置くと、
Kºd = Kd(γo/γw)
となります。
このKdは濃度分配定数と呼ばれます。
もし、γo/γw=1とすることができる場合は、
Kdº = Kd
となります。
これまでの平衡の取り扱いと同様、特にことわらない限り、γo/γw=1として話を進めます。
<分配比>
物質Aが水相、有機相中で解離、錯生成、イオン会合などの反応によって、A1,
A2, …Ai, …という化学種を生じる場合、個々の化学種について、
Kdi = [Ai]o/[Ai]w
が成立します。しかし、複雑な系において個々の化学種についてKdiを測定することは困難です。
しかし一般に、我々が多く必要とするのは個々の化学種の分配ではなく、物質Aが水相、有機相中に総量としてどのように分配するか、ということです。このようなとき、分配比Dを導入するのが便利です。
物質Aの水相、有機相中の総濃度をCw, Coとして、
Cw =[A1]w+[A2]w+…+[Ai]w+…
Co =[A1]o+[A2]o+…+[Ai]o+…
分配比Dを次式で定義します。
D = ([A1]o+[A2]o+…+[Ai]o+…)/([A1]w+[A2]w+…+[Ai]w+…) = Co/Cw
Cw, Coは分析によって容易に求められるので、分配比は実験的に決定することができて、議論がしやすくなります。
しかし、分配定数とは異なり、分配比はpHや濃度等の実験条件によって変化します。
<抽出率>
物質Aに関して、水相、有機相中の総濃度をCw, Coとし、水相、有機相の体積をVw, Voとすると、抽出率(%)は次式で定義されます。
E(%) = CoVo/(CwVw+CoVo)×100
E(%)は物質Aが有機相に何%抽出されたかを示しています。
抽出率と分配比の関係は、
E(%) = D/(D+Vw/Vo)×100
となります。Vw=Voとすると、たとえばDの値が10^4のときE(%)=99.99%、 D=1のとき50%、D=10^-4のときE(%)=0.009999%となり、Dの値がどのような値をとってもE(%)は0から100の間の値をとります。
DとE(%)の関係を図-1に示します。
E(%)は有機相への抽出の程度を示す実用的に便利な指標であり、Dの値が大きいほど、また水相の体積(Vw)に対して有機相の体積(Vo)が大きいほど抽出率は向上することが分かります。
<<簡単な溶媒抽出の例>>
<中性物質の分配平衡>
溶液中で解離などの化学変化をしない中性物質(非電解質)の抽出平衡は、分配定数を用いて議論できます。
例えば、水とベンゼン間のヨウ素(I2)の分配を考えます。
I2w ⇄ I2o
Kd = [I2]o/[I2]w
Kdの値は一定温度で一定であり、25℃ではKd=350となります。
水中およびベンゼン中でヨウ素は解離などの化学変化をしないので、Kdは分配比Dと一致します*1)。したがって、水相、ベンゼン相中のヨウ素の濃度をCw, Coとし、水相、有機相の体積をVw, Voとすると、抽出率E(%)は、
E(%)
= Kd/(Kd+Vw/Vo)×100
となります。
*1) KIが共存する場合は、水相中でI2 + I- ⇄ I3- という平衡が成立する。
このとき、I2に関しての分配比Dは、
D = [I2]o/([I2]w+[I3-]w)
となり、Kd(=[I2]o/[I2]w)とは一致しない。
また、ヨウ素の水およびベンゼンへの溶解度は、25℃でそれぞれ1.32×10^-3 mol/L, 5.44×10^-1
mol/Lであり、溶解度の比は分配定数にほぼ一致します。
<弱酸の分配平衡>
水と有機溶媒との間での弱酸HAの分配について考えます。HAの分配定数をKdとし、HAの酸解離定数をKaとします。有機相ではHAは解離せず、また二量体の生成にないものとします。
分配平衡は、
HAw ⇄ HAo
Kd = [HA]o/[HA]w
水相では、HAwは酸解離をするので、
HAw ⇄ A- + H+
Ka = [H][A]/[HA]w
このとき分配比は、
D = [HA]o/([HA]w+[A])
となります。
この式の分子分母を[HA]wで割ると、
D = ([HA]o/[HA]w)/(1+[A]/[HA]w) = Kd/(1+Ka/[H]) …①
したがって、Dは[H]の関数となることが分かります。
Ka=10^-5, Kd=0.1として求めたpHとlogDと関係を図-2に示します。
図-2から明らかなように、
①式においてpHが低いときはKa/[H]<<1となり、
D = Kd
となります。
またpHが高いときはKa/[H]>>1となり、
D = Kd[H]/Ka
logD = logKd+pKa-pH
となることが分かります。



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