前々回(2025-08-10)、前回(2025-08-17)は弱酸の分配平衡について調べましたが、今回は塩基および両性化合物の分配平衡について調べます。   

<<塩基の分配平衡>>
塩基の分配平衡も、酸の場合と同様に取り扱うことができます。アルキルアミン(RNH2)を例にとって考えます。RNH2の分配定数をKdとし、酸解離定数をKaとします。有機相中でRNH2は解離せず、また二量体の生成などの副次的な反応もないものとします。   

アルキルアミン(RNH2)Bとすると、分配平衡は、
Bw
Bo
Kd = [B]o/[B]w
水相での酸解離平衡は、
HB+w
Bw H+
Ka = [H][B]w/[HB+]w
となります。   

このとき分配比は、
D = [B]o/([B]w
[HB+]w)
この
式の分子分母を[B]wで割ると、
D = ([B]o/[B]w)/(1
[HB+]w/[B]w)
平衡定数式を代入すると、
D = Kd/(1
[H]/Ka) …①
したがって、D[H]の関数となることが分かります。   

幾種類かのアルキルアミンについて、ジエチルエーテルに対する分配定数Kdと酸解離定数Kaを下表に示します。   

2025-08-24-fig0-1

これらのアミンについて、pHlogDと関係を-に示します。   

-
2025-08-24-fig1

-から明らかなように、
pH
が低いとき(およそpH910)は、[H]/Ka>>1となり、
D = Kd[H]/Ka
となり、logDは傾き1の直線となります。
pH
が高いとき(およそpH>1011)は、[H]/Ka<<1となり、
D = Kd
となり、logDは水平な直線となります。   

また、アルキル基の式量の増加とともにDは増加していることが分かります。   

<<両性化合物の分配平衡>>
両性化合物の例として、金属イオンの溶媒抽出によく用いられるオキシン(8-ヒドロキシキノリン)(HQ)を例にとって考えます。オキシンは分子内にヒドロキシ基とイミノ基を持ち、酸と塩基の性質を持っています。   

H2Q+酸解離定数をKa1, Ka2とします。   

2025-08-24-fig0-2

また、有機溶媒に対するHQの分配定数をKdとします。有機相ではRNH2は解離せず、また二量体の生成などはないものとします。   

2025-08-24-fig0-3

分配平衡は、
HQw
HQo
Kd = [HQ]o/[HQ]w
水相での酸解離平衡は、
H2Q+w
HQw H+
Ka1 = [H][HQ]w/[H2Q+]w
HQw
Q-w H+
Ka2 = [H][Q-]w/[HQ]w
   

このとき分配比は、
D = [HQ]o/([H2Q+]w
[HQ]w[Q-]w)
この式の分子分母を[HQ]wで割ると、
D = ([HQ]o/[HQ]w)/(
[H2Q+]w/[HQ]w1[Q-]w/[HQ]w)
平衡定数式を代入して、
D = Kd/([H]/Ka1
1Ka2/[H])
 …②
したがって、D[H]の関数となることが分かります。
オキシンのクロロホルムに対する分配定数をKd=10^2.7, 酸解離定数をKa1=10^-4.92, Ka2=10^-9.23として、pHlogDと関係を-に示します
*1
*1) オキシンの水溶液は波長360 nmに極大を持つ光吸収帯があるので、水相のオキシン総濃度([H2Q+]w[HQ]w[Q-]w)を測定すればDを実測することができる。   

-
2025-08-24-fig2

-から明らかなように、
・酸性が強いとき(pHpKa1)は、
D = Kd/([H]/Ka1)
log D = pH
log KdpKa1 (傾き1の直線)
・中間域(pKa1pHpKa2)では、
D = Kd

logD = logKd (水平の直線)
・塩基性が強いとき(pHpKa2)は、
D = Kd/(Ka2/[H])
log D =pHlog KdpKa2 (傾きー1の直線)
となります
*2)
*2) 実験で各pHにおけるDの値を求め、pHlogDの間に-のような関係が得られれば、仮定した平衡モデルは妥当であり、逆にDからKdおよび Ka1, Ka2を決定することができる。 

また、抽出率は次式で与えられます。
E(%) = D/(D
Vw/Vo)×100
Vw=VoとしたときのpHと抽出率(E(%))の関係を-に示します。   

-
2025-08-24-fig3

オキシンはpH4.79.4の間でほぼ完全に(99.5%以上)クロロホルムに抽出されることがわかります。   

オキシンは多くの金属イオンと水に不溶のキレートを作り、有機溶媒に抽出されるので、金属イオンの分析によく利用されます。