金属キレートの抽出平衡の例として、銅-オキシンキレート錯体をクロロホルムへ抽出するときの抽出平衡を取り上げます。
<<銅-オキシンキレートのクロロホルムの抽出平衡>>
Cq mol/Lのオキシン(HQ)を含むクロロホルム溶液とCm mol/Lの銅イオンCu2+を含みpHを調節した水溶液から、無電荷のキレートCuQ2をクロロホルム相に抽出する平衡について考えます。クロロホルム相の体積は水相と同体積(Vo/Vw=1)とします。副反応として水相中での銅の低次のオキシン錯体と水酸化物錯体の生成を考慮に入れます。用いた平衡定数は様々なイオン強度で測定されていますが、この補正はしません。エクセルのソルバーを用いて化学種濃度および分配比の計算をします。
<関係式>
・HQの分配:
HQw
⇄ HQo
Kdh = [HQ]o/[HQ]w
・HQの解離:
H2Q+ ⇄ HQw + H+
HQw ⇄ Q- + H+
Ka1 = [H][HQ]w/[H2Q]
Ka2 = [H][Q]/[HQ]w
・キレートの生成:
Cu2+ + Q- ⇄ CuQ+
Cu2+ + 2Q- ⇄ CuQ2w
βq1 = [CuQ]/([Cu][Q])
βq2 = [CuQ2]w/([Cu][Q]2)
・CuQ2の分配:
CuQ2w ⇄ CuQ2o
Kdm = [CuQ2]o/[CuQ2]w
・Cu2+の加水分解:
Cu2+ + OH-
⇄ CuOH+
Cu2+ + 2OH- ⇄ Cu(OH)2
Cu2+ + 3OH- ⇄ Cu(OH)3-
Cu2+ + 4OH- ⇄ Cu(OH)42-
βo1 = [CuOH]/([Cu][OH])
βo2 = [Cu(OH)2]/([Cu][OH]2)
βo3 = [Cu(OH)3]/([Cu][OH]3)
βo4 = [Cu(OH)4]/([Cu][OH]4)
・物質バランス:
オキシンに関する両相の各化学種濃度の総和[Q*]は、全オキシン濃度Cqに等しいので、
[Q*] = [H2Q]+[HQ]w+[Q]+[HQ]o+[CuQ]+2[CuQ2]+2[CuQ2]o
= Cq
銅イオンに関する両相の各化学種濃度の総和[Cu*]は、全銅濃度Cmに等しいので、
[Cu*] = [Cu]+[CuQ]+[CuQ2]w+[CuQ2]o+[CuOH]+[Cu(OH)2]+[Cu(OH)3]+[Cu(OH)4] = Cm
<抽出定数と分配比>
・抽出定数:
Cu2+ +
2(HQ)o ⇄ (CuQ2)o
+ 2H+
Kex = [CuQ2]o[H]2/([Cu][HQ]o2)
・分配比:
水相中で、Cu2+の低次のオキシン錯体と水酸化物錯体の生成を考慮すると、
Cmo = [[CuQ2]o
Cmw = [Cu]+[CuQ]+[CuQ2]w+[CuOH]+[Cu(OH)2]+[Cu(OH)3]+[Cu(OH)4])= [Cu]α
ここで、α = 1+βq1[Q]+βq1[Q]^2+Σβon[OH]^n
として、
D = Cmo/Cmw = [CuQ2]o/([Cu]α) …①
となります。
Kexを用いると、
D = Kex[HQ]o^2/([H]^2α)
= Kex(KdhKa1[H2Q])^2/([H]^4α) …②
となります(*1)。
(*1) Kex = [CuQ2]o[H]2/([Cu][HQ]o2)から、
[CuQ2]o = Kex[Cu][HQ]o2/[H]2
この式を①式に代入して、
D = Kex[HQ]o^2/([H]^2α)
= KexKdh^2[HQ]w^2/([H]^2α) (∵[HQ]o=Kdh[HQ]w)
= KexKdh^2([H2Q]Ka1/[H])^2/([H]^2α) (∵[HQ]w=[H2Q]Ka1/[H])
= KexKdh^2Ka1^2[H2Q]^2/([H]^4α)
<<pH, オキシン濃度と分配比の関係>>
銅イオンに関する分配比Dは、pHとオキシン濃度の関数になります。オキシン濃度あるいはpHを変化させて、DとpHあるいはオキシン濃度との関係を求めました。計算には、エクセルのソルバー機能を用いました(ソルバーを用いると近似は不要です)。計算に用いた平衡定数(Kdh, Kdm, Ka1, Ka2, βq1, βq2, βo1, βo2, βo3, βo4)は図-1中に記載しました。
<log DとpH, 全オキシン濃度の関係>
全銅濃度をCm = 1×10^-5 mol/Lとし、全オキシン濃度Cq = 1×10^-4, 3×10^-4, 1×10^-3 mol/LとしてpHを変化させてたときのDについて、次のようにしてソルバー解を求めました。
両相の化学種濃度:
M:Cu2+, HQ:オキシン、pH = -log[H], pM
=-log[M], pQ =-log[Q]として、
[H]=10^-pH
[OH]=10^-14/[H]
[M]=10^-pM
[MQ]=βq1([M][Q])
[MQ2]w=βq2[M][Q]^2
[MQ2]o=Kdm[MQ2]w
[MOH]=βo1[M][OH]
[M(OH)2]=βo2[M][OH]^2
[M(OH)3]=βo3[M][OH]^3
[M(OH)4]=βo4[M][OH]^4
[Q]=10^-pQ
[HQ]w=[H][Q]/Ka2
[H2Q]=[H][HQ]w/Ka1
[HQ]o=Kdh[HQ]w
M, Qの全濃度:
[M*]=[M]+[MQ]+[MQ2]w+[MQ2]o+Σ[M(OH)n]=Cm
[Q*]=[Q]+[HQ]w+[HQ]o+[H2Q]+[MQ]+2[MQ2]w+2[MQ2]o=Cq
Mの分配比:
D=[MQ2]o/([M]+[MQ]+[MQ2]w+Σ[M(OH)n])
ソルバーのパラメータ:
目的セル:Cm-[M*] = 0
変数セル:pM , pQ
制約条件:Cq-[Q*] = 0
結果の抜粋を図-1に示します。
また、log DとpH, 全オキシン濃度の関係を図-2に示します。
pHが低い領域においてlogDは傾き+4の直線(*2)となり、pHが高い領域においてはlog D = log Kdmの水平線(*3)となります。また、オキシン濃度が高いほど低いpHから抽出されやすくなることがわかります。
(*2) pHが低い領域において、Cq>>Cmの場合は、
Cq≒[H2Q]
Cmw≒[Cu](つまり、α≒1)
と近似できる。したがって②式から、
D = KexKdh^2Ka1^2[H2Q]^2/([H]^4α)
D≒KexKdh^2Ka1^2Cq^2/[H]^4
log D≒ 4pH + 2log Cq + log(KexKdh^2Ka1^2)
= 4pH + 2log Cq + 定数
(*3)
pHが高い領域において、低次のオキシン錯体(CuQ+)と水酸化物錯体を無視できる場合は、
Cmo=[CuQ2]o
Cmw=[Cu]+[CuQ]+[CuQ2]w+Σ[Cu(OH)n]≒[CuQ2]w
と近似できる。
したがって、①式から、
D = Cmo/Cmw≒[CuQ2]o/[CuQ2]w
= Kdm
<低次オキシン錯体(CuQ+)の影響>
上記のエクセル計算では低次オキシン錯体(CuQ+)と水酸化物錯体(Cu(OH)nn-2)の生成を考慮しました。図-1の計算結果から明らかなように、水酸化物錯体(Cu(OH)n2-n)の生成は分配比Dに影響をほとんど与えませんが、低次オキシン錯体(CuQ+)は影響を与えます。低次オキシン錯体(CuQ+)を無視した場合を計算し、その影響について図-3に示します。
pHが低い場合は錯生成が起こりにくいので、[Cu]>>[CuQ]>>[CuQ2]wとなりCuQ+の影響はあまりありません。しかしたとえばpH2付近では、[Cu]<[CuQ]≒[CuQ2]wとなりCuQ+の影響が大きく現れます。さらにpHが高くなると[Cu]<<[CuQ]<<[CuQ2]wとなりCuQ+の影響はなくなります。





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