前回(2025-09-21)述べたように、イオン対抽出の例としてクラウンエーテルによるアルカリ金属イオンの抽出があげられます。今回は8-クラウン-6-カリウム錯体とピルリン酸のイオン対抽出の平衡について取り上げます。
<<クラウンエーテル-アルカリ金属-ピクリン酸の抽出平衡>>
CM
mol/Lのカリウムイオン(M+)およびCX mol/Lのピクリン酸イオン(X-)を含む水溶液Vw mLにCL mol/Lの18-クラウン-6 (L)を含む1,2-ジクロロエタン溶液Vo mLを加えて抽出をおこないます。
このとき、次のようなイオン対抽出モデルを考えます。ピクリン酸はかなり強い酸(pKa = 0.38)で中性~塩基性ではほぼ100%解離しています。
(a) 有機相の18-クラウン-6, LoはLwとして水相に移る。
(b) 水相中で1価のカリウムイオンM+が中性のLwと錯体ML+を作る。
(c) 錯体ML+はピクリン酸イオンX-とイオン対MLXwを作る。
(d) MLXはMLXoとして有機相に移る。
(e) カリウムイオンM+はピクリン酸イオンX-とも錯体MXを作る。
これ以外の反応ついては考慮しません。
このとき、次のような平衡が成立します。
(a) Lの分配:
Lw ⇄ Lo
KdL = [L]o/[L]w …①
(b) ML+の錯生成:
M+ + Lw ⇄ ML+
βL = [ML]/([M][L]w) …②
(c) イオン対の生成:
ML+ + X- ⇄ MLXw
Kass = [MLX]w/([ML][X]) …③
(d) MLXの分配:
MLXw ⇄ MLXo
KdM = [MLX]o/[MLX]w …④
(e) MXの錯生成:
M+ + X- ⇄ MX
βX = [MX]/([M][X]) …⑤
抽出平衡は、
M+ + Lo + X- ⇄ MLXo
Kex = [MLX]o/([M][L]o[X]) …⑥
①~④を用いて、⑥を変形すると、
Kex = KdMKassβL/KdL
となります。(*1)
(*1) ④から、[MLX]o = KdM[MLX]w
この式と③から、
[MLX]o = KdM[MLX]w = KdMKass[ML][X]
この式と②から、
[MLX]o = KdMKass[ML][X] = KdMKassβL[M][L]w[X]
この式と①から、
[MLX]o = KdMKassβL[M][L]w[X]
= KdMKassβL[M][L]o[X]/KdL
この式を⑥に代入して、
Kex = [MLX]o/([M][L]o[X]) = KdMKassβL/KdL
物質バランスは、Vo=Vwのとき、
[M*] = [M]+[ML]+[MX]+[MLX]w+[MLX]o = CM
[L*] = [L]w+[L]o+[ML]+[MLX]w+[MLX]o = CL
[X*] = [X]+[MX]+[MLX]w+[MLX]o = CX
分配比は、
D = [MLX]o/([M]+[ML]+[MX]+[MLX]w)
これを変形すると、
D = KdMKassβL/(1/([L]w[X])+βL/[X]+βX/[L]w+KassβL) …⑦
となります(*2)。Dは[L]wと[X]の関数であることがわかります。
(*2) [MLX]o = KdMKassβL[M][X][L]w
[M]+[ML]+[MX]+[MLX]w=
[M](1+βL[L]w+βX[X]+KassβL[L]w[X])
したがって、
D=KdMKassβL[L]w[X]/(1+βL[L]w+βX[X]+KassβL[L]w[X])
=KdMKassβL/(1/([L]w[X])+βL/[X]+βX/[L]w+KassβL)
<<試薬濃度と分配比の関係>>
カリウムイオンに関する分配比Dは、試薬(18-クラウン-6、ピクリン酸イオン)濃度の関数になります。18-クラウン-6濃度あるいはピクリン酸濃度を変化させて、Dと試薬濃度との関係を求めました。計算には、エクセルのソルバー機能を用いました。
計算に用いた平衡定数(KhL,
KdM, βL, βX, Kass)は次の通りです(溶媒:1,2-ジクロロエタン)(*3)。また、水相と有機相の体積はVo=Vwとしました。活量係数補正はしません。
(*3) Y. Takeda: Bunseki Kagaku, 51, 515 (2002)
<log Dと18-クラウン-6濃度の関係>
全カリウム濃度をCM = 1×10^-4 mmol/L、全ピクリン酸イオン濃度をCX = 0.01mol/Lとした場合について18-クラウン-6濃度を変化させて(CL=10^-7~10^-1 mol/L)、次のようにしてソルバー解を求めました。
両相の化学種濃度:
M:K+, L:18-クラウン-6, X:ピクリン酸イオン、
pM =-log[K], pLo
=-log[L]o, pX =-log[X]として、
[M]=10^-pM
[ML]=βL[M][L]w
[MLX]w=Kass[ML][X]
[MLX]o=KdM[MLX]w
[MX]=βX[M][X]
[L]w=[L]o/KdL
[L]o=10^-pLo
[X]=10^-pX
M, L, Xの全濃度:
[M*]=[M]+[ML]+[MLX]w+[MLX]o+[MX]
[L*]=[L]w+[L]o+[ML]+[MLX]w+[MLX]o
[X*]=[X]+[MLX]w+[MPX]o+[MX]
Mの分配比:
D=[MLX]o/([M]+[ML]+[MLX]w+[MX])
ソルバーのパラメータ:
目的セル:CM-[M*] = 0
変数セル:pM , pLo , pX
制約条件:CL-[L*] = 0
:CX-[X*] = 0
結果の抜粋を図-1に示します。
図-1
また、log Dと18-クラウン-6濃度の関係を図-2に示します。
図-2
図-2から分かるように、log
CLが非常に低い領域においてはlogDは傾き+1の直線となり、log CLの増加とともにlog Dの傾きは途中大きくなりますが(log CL=10^-4
Mのとき傾き約+2.6)、log CLがさらに高くなると再び傾きは減少して水平となりました。⑦式から分かるように水平部分はlog D≒log KdMとなります。
また、log CLと抽出率%の関係を図-3に示します。最大抽出率%は94%程度です。
図-3
<log Dとピクリン酸濃度の関係>
全カリウム濃度をCM = 1×10^-4 mmol/L、全18-クラウン-6イオン濃度をCX
= 0.01mol/Lとした場合についてピクリン酸濃度を変化させて([CX]=10^-7~10^-1 mol/L)、前述と同様にしてDのソルバー解を求めました。log CXと抽出率%の関係を図-4に示します。







コメント