前回(2025-10-19)はバッチ法を用いてイオン交換分離を行う方法について述べました。今回は、カラム法によるイオン交換分離について述べます。カラム法では、カラムに詰めたイオン交換樹脂の上部に金属イオンを含む試料を注入して吸着させ、さらに溶離液を流すことにより吸着帯を下降させます。このとき、個々の金属イオンのイオン交換樹脂に対する吸着能力(分配係数)の違いにより金属イオン吸着帯の下降の程度が異なり、金属イオンを互いに分離することができます。
<<カラム法の操作手順>>
カラム法は便宜上「カラム沪過法」と「クロマトグラフ法」に分けられます。
カラム沪過法は、ある成分(目的成分あるいは不要成分)を樹脂に吸着させ、他の成分を流出させる方法です。吸着成分が目的成分である場合は、さらに溶離液を用いて目的成分を溶出させます。クロマトグラフ法は、溶離液を用いて多成分を順次分別的に溶離していく方法です。しかし両者には本質的な違いがあるわけではなく、同じ分離理論(=段理論)を用いて解析することができます。
カラム法の典型的な操作方法は次の通りです(図-1)。
(1) ガラス製またはプラスチック製のカラムにイオン交換樹脂を詰める
(2) 適切な水、酸、塩基、塩溶液などを流して予備処理を行う(コンデショニング)
(3) 試料溶液をカラム上部から注入する[図-1(a)]
(4) 溶離液を流して、各成分を溶離する[図-1(b)~(d)]
(5) カラム沪過法では、樹脂吸着成分または溶出液成分を適切な方法で分析する
(6) クロマトグラフ法では、溶離液の体積と溶出液の成分濃度の関係をプロットして溶離曲線を描いてそれを基に定量を行う。
また、溶離曲線の例を図-2に示します。
<<カラム法の一般原理>>
カラム法は一般的に操作に時間が掛かります。したがって、操作に先立って、適切な操作条件を理論的に見通すことは非常に重要です。
カラムによるイオン交換分離法の原理を段理論(=プレート理論)に基づいて説明します。
段理論は次の二つの前提条件を必要とします。
(1) 第1の前提: カラムに詰められた樹脂は円盤状の薄い層で区切られた何段かの理論段(プレート)できている。そしてこのプレートの中では、次の下段へ液体が流れる前に、固定相(樹脂)と移動相(溶液)の間で平衡が成立する。
(2) 第2の前提: 試料の対イオンの量は溶離中のどのプレートにおいても常に溶離液の対イオンの量よりも少ない。この前提を満たすために、試料の量は少量にする必要がある。
<各段の樹脂相、液相の成分分率>
今回の目的は、カラム全体の間隙体積Vi(*1)および試料成分の分配係数D(*2)を用いて、溶離曲線の最大濃度における溶出液体積V*を求めることです。ここで言う分配係数は、平衡到達後、ある段の樹脂中の成分のモル分率を同一段の間隙溶液中の成分のモル分率で割ったものとして定義します。どの段においてDは一定とします。
D = (樹脂中の成分のモル分率)/(間隙溶液中の成分のモル分率)
(*1) 間隙体積:樹脂粒と樹脂粒のスキマにおいて溶液が占めている体積
(*2) 前回まではDの添え字を省いた場合、Dgを意味するものとしたが、ここではDは成分のモル分率の比を用いていることに注意。
以降、図-3と対比しながら本文を読んでください! (図-3では、D=1.5, 試料中の成分の物質量を100としています。)
まず試料溶液v mLがすべて0段目のカラム(理論段)に入るものとします(ここでvは1段分の間隙体積)。次いで、1回あたりv mLの溶離液をn回流します。
Ln, rは、n×v mLの溶離液がカラムに加えられた後、r段目の間隙溶液中の成分のモル分率、同様にSn, rは同一段の樹脂相中の成分のモル分率を示します。
Dの定義(D = Sn, r/Ln, r)から、
Sn, r =
DLn, r …①
<溶離液の添加と分配の様子>
試料と溶離液について、次のように、(試料の添加)→(分配)→(1回目の溶離液の添加)→(溶離液の移動)→(分配)→(2回目の溶離液の添加)→(溶離液の移動)→(分配) …… が順次行われます。
試料の添加:n=0のとき
・r=0段目
最上段(0段目)に試料が添加されてまだ溶離液が添加されないとき(n=0)、添加後すぐに樹脂と溶液の間で成分の分配が行われ、
S0, 0 = DL0, 0
S0, 0 + L0, 0 = 1
したがって、
L0, 0 = 1/(1+D)
S0, 0 = D/(1+D)
が成立します。
溶離液の添加:n=1回目のとき
v mLの溶離液が添加されると、その分、水相は1段下方に移動し、各段で新たな分配平衡が成立します。
・r=0段目
体積vの溶離液が最初添加されると、水相は0段目から1段目へ下方移動します。しかし、樹脂中の試料成分はまだ0段目にとどまっているので、0段目の樹脂と加えられた溶離液の間で成分の再分配が行われます。
S1, 0 + L1, 0 = S0, 0 =
D/(1+D)
となります。
この式と①式(D=S1, 0/L1, 0)から、
L1, 0 = D/(1+D)^2
S1, 0 = D^2/(1+D)^2
が成立します(*3)。
(*3) S1, 0 + L1, 0 = D/(1+D) …ⓐ
L1, 0 = S1, 0/D …ⓑ
ⓐ, ⓑからS1, 0を消去すると、
L1, 0 = D/(1+D)^2
ⓐ, ⓑからL1, 0を消去すると、
S1, 0 = D^2/(1+D)^2
・r=1段目
このとき、同様に、1段目においては、
S1, 1 + L1, 1 = L0, 0 =
1/(1+D)
となります。
この式と①式(D=S1,
1/L1,1)から、
L1, 1 = 1/(1+D)^2
S1, 1 = D/(1+D)^2
となります(*4)。
(*4) S1,
1 + L1, 1 = 1/(1+D) …ⓐ’
L1, 1 = S1, 1/D …ⓑ’
ⓐ’, ⓑ’からS1, 1を消去すると、
L1, 1 = 1/(1+D)^2
ⓐ’, ⓑ’からL1, 1を消去すると、
S1, 1 = D/(1+D)^2
溶離液の添加:n=2回目のとき
・r=0段目
2v mLの溶離液を加えた後、0段目の状態は、
S2, 0 + L2, 0 = S1, 0 =
D^2/(1+D)^2
L2, 0 = S2, 0/D
L2, 0 = D^2/(1+D)^3
S2, 0 = D^3/(1+D)^3
・r=1段目
1段目の試料成分には二つの供給源があります。それは溶液が移動する前の樹脂相の成分(S1,1に対応)と0段目から移動してきた溶液の成分(L1,
0に対応)です。したがって、
S2, 1 + L2, 1 = S1, 1
+ L1, 0 = D/(1+D)^2 + D/(1+D)^2 = 2D/(1+D)^2
L2, 1 = S2, 1/D
つまり、
L2, 1 = 2D/(1+D)^3
S2, 1 = 2D^2/(1+D)^3
となります。
・r=2段目
2段目の成分の供給源は、L1, 1のみなので、
S2, 2 + L2, 2 = L1, 1 =
1/(1+D)^2
L2, 2 = S2, 2/D
L2, 2 = 1/(1+D)^3
S2, 2 = D/(1+D)^3
となります。
…
(これの繰り返し)
…
溶離液の添加:n回目の一般式
・n回目、r段目
この操作を続けていくと、n回目、r段の一般式は
Sn, r + Ln, r = Sn-1, r
+ Ln-1, r-1
Ln, r = Sn, r/D
つまり、
Ln, r = n!/(r!(n-r)!)(Dn-r/(1+D)n+1)
Sn, r = n!/(r!(n-r)!)(Dn-r+1/(1+D)n+1)
となります。ただし、この式はn≧rのときにのみ成立します(n<rならば、Ln, r=Sn,
r=0)。
Ln, rの計算の例を図-4に示し、n=5, 10, 15, 20についてLn, rの分布を図-5に示します。この分布は二項分布となります。
r = p
Ln, p = n!/(p!(n-p)!)(Dn-p/(1+D)n+1) …②
最終段(の直後)に目的成分濃度を測定できる検出器を置くと、Ln, pを実測することができます。D, pが一定ならば、Ln, pはnの関数となります。
<最大濃度における溶出液体積を求める式>
定数D, pがどんな値を取っても、n=0のとき最終段ではLn, p = 0です。nが増加するとLn, pが最大となるまでLn, pは増加し、その後減少に転じて、nが十分大きくなるとLn, p≒0となります。
Ln, pの最大値をLn, p*とし、対応するnをn*とすると、pが十分大きな値ならば、Ln, p*はその前後におけるLn, pと同じ値であると近似することができます。
Ln*, p = Ln*-1, p
この式を②式に代入して整理すると
n*=p(1+D)
となります(*5)。
(*5) Ln*,
p = n*!/(p!(n*-p)!)(Dn*-p/(1+D)n*+1) …②’
Ln*-1, p = (n*-1)!/(p!(n*-1-p)!)(Dn*-1-p/(1+D)n*-1+1) …②’’
②’/②’’=1
また、
n*!/(n*-1)!=n*
p!(n*-p)!/p!(n*-p-1)!=n*-p
(Dn*-p/(1+D)n*+1)/(Dn*-1-p/(1+D)n*)=(Dn*-p/Dn*-1-p)((1+D)n*/(1+D)n*+1)=D/(1+D)
したがって、
②’/②’’=(n*/(n*-p))(D/(1+D))=1
∴n*=p(1+D)
用いた溶離液の体積をVとし、n*回目までの溶離液の体積をV*とすると、
V = nv
V* = n*v
カラム中樹脂の全間隙体積をViとすると、
Vi = vp
したがって、
V* = n*v = p(1+D)v = vp(1+D)
つまり、
V* = Vi(1+D) …③
となります。
③において、Dは「樹脂中の成分のモル分率を同一段の間隙溶液中の成分のモル分率で割った値」を用いましたが、もしここで質量分配係数Dgを用いる場合は、
V* = Vi+GDg …④
ここで、Gはカラム中の乾燥イオン交換樹脂の全質量です(*6)。
(*6)
D = fr/faq={molr/(molr+molaq)}/{molaq/(molr+molaq)}=molr/molaq
Dg = (molr/G)/(molaq/Vi) = DVi/G
∴ D = GDg/Vi
また、もしカラムの間隙体積ViがGDgに比べて非常に小さいときは、Viを無視して、
V* ≒ GDg …⑤
と近似できます。





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