カラム法は一般に、バッチ法に比べて分離効率はよいのですが、溶離操作に時間がかかり、適切な溶離条件を探すのにも多大な時間を必要とします。しかし、実験に先立って理論的な考察をしておくと、実験のおおよその見通しを立てることができ、適切な条件を探すためのむだな検討時間を減らすことができます。ここでは、「段理論(plate theory)」を用いてカラム法による分離の適切な条件をあらかじめ計算で求める方法について述べます。
<<前回までの復習>>
<最大濃度における溶出液体積:V*>
前回(2025-11-02の②, ②'式)述べたように、最大濃度における溶出液体積(V*)について、
V* = Vi+GDg
Vi:カラム中樹脂の全間隙体積(mL)
G:乾燥イオン交換樹脂の質量(g)
Dg:質量分配係数 (mL/g(resin))
V* = Vi+VresinDv
Vresin:カラム中のイオン交換樹脂層の容積(mL)
Dv:容量分配係数(mL/mL(resin))
という関係式が成立します(*1)。V*は分配係数(Dg, Dv)の関数です。
(*1) Dg, Dvの値はバッチ法またはカラム法で測定することができる。これまで様々な条件における分配係数(Dg, Dv)の値が報告されている(例えば、(2025-10-05)の文献など)。
<溶出曲線の標準偏差:σ>
また、前回(2025-11-02の⑦式)述べたように、溶離曲線が正規分布に近似できると、溶出曲線の広がりの程度(いわゆる溶離曲線幅)は標準偏差(σ)で表すことができます。
σ = V*/√N = V*√(h/L)
N:理論段数
h:理論段高さ(HETP)
L:樹脂柱の高さ
σはV*と理論段N(=L/h)の関数です。
さらに、溶離曲線が正規分布をしているとき、溶出量割合がεとなるときの溶出体積をVεとし、最大濃度の溶出体積をV*, その標準偏差をσ, 信頼係数をkとすると、
Vε = V*+kσ
で表せます。
Vεはエクセル関数を用いると、Vε=NORM.INV(ε,V*,σ)で与えられます。
k値は、V*=0,
σ=1のときのk=NORM.INV(ε,0,1)から求めることができます。
<<カラム法の条件>>
<カラムの必要長さ>
金属イオンA, Bがあり、それぞれの分配係数がDa, Db (Da<Db))であるとき、カラム法でAとBを分離したい場合、まず問題となるのは、求める分離度に対してどのような長さのカラムを用いたらよいか、ということではないでしょうか。この問題について考えてみます。
AとBの溶離曲線が正規分布をしている場合、AとBの溶出率がそれぞれεa, εbとなるときの溶出体積をVεa, Vεbとします。最大濃度の溶出液体積をV*a, V*bとし、その標準偏差をσa, σbとすると、
Vεa = V*a+kaσa
Vεb = V*b+kbσb
となります(2025-11-02)。
したがって、Vεa = Vεb を与えるLが必要最小限な樹脂柱の長さということになります。
前提条件として、カラム断面積(S (cm2))、間隙率(i)、金属イオンA, Bそれぞれに関する容量分配係数(Dva, Dvb)、理論段高さ(HETP)
(ha, hb (cm))、溶出率(εa, εb)が与えられているものとします(*2)。
(*2) カラム断面積(S)は、下記の第2の前提である試料中の成分量には関係するが、Lの見積もりに直接関係しない。また、理論段高さ(h)は樹脂の粒度と溶離液の線流速の関数であり、その近似計算については次項で説明する。溶出率(ε)については、分離や分析の目的によって決まる値である。
求める樹脂柱の高さL (cm)の関係式は次のようになります。
カラム(樹脂柱)に関して、
・ 樹脂柱の幾何学的容積(mL): Vr
= S×L (S:断面積)
・ 樹脂柱の間隙容積(mL): Vi =
i×Vr (i:間隙率)
金属イオンAに関して、
・ 最大濃度における溶出液体積(mL): V*a
= Vi+Vr×Dva
・ 理論段数: Na = L/ha
・ 溶離曲線の標準偏差(mL): σa = V*a/√Na
・ 信頼係数: ka = NORM.INV(εa, 0, 1)
・ 溶出率εにおける溶離液体積(mL): Vεa
= V*a+kaσa
金属イオンBに関して、Aと同様。
これらの関係式の理解の手助けとなる溶離曲線の様子を図-1に示します。
図-1において、溶離曲線Aで溶出率がεaとなるときの溶離液量をVεaとし、溶離曲線Bで溶出率がεbとなるときの溶離液量をVεbとすると、
Vεa=Vεb(=Vε)
が成立するときのLが求めるカラム長となります。
以上の関係式から、エクセルのソルバー機能を用いて、Lを求めます。
ソルバーのパラメータは、
目的セル: Q = Vεa-Vεb = 0
変数セル: L
とします。
カラム断面積S = 1(cm2)、間隙率i = 0.38、容量分配係数Dva = 10, Dvb
= 30、理論段高さ(HETP) ha = hb = 0.05(cm)、溶出率εa = 0.9999, εb = 0.0001として求めたLの最適解を図-2に示します。
<理論段高さの近似式>
カラムの必要長さを計算で求めるためには理論段高さ(HETP) (h)の値が必要です。hはイオン交換樹脂の粒度と溶離液の線流速の関数となります。
陽イオン交換樹脂に関して、Dv>5ならば、次のような経験式が知られています(*3)。
h≒4r + r^2u{0.14/(drDv)
+ 0.27/(dw(1+70ru))} …①
ここで、
h = 理論段高さ(HETP) (cm)
r = 陽イオン交換樹脂の粒子半径 (cm)
Dv = 容量分配係数
u = 線流速 (cm/sec)
dr = 樹脂内での溶質の拡散係数 (≒10^-6 cm2/sec)
dw = 溶液内での溶質の拡散係数 (≒10^-5 cm2/sec)
(*3) Kolthoff(藤原 監訳):「分析化学(II)」p.401 (1975)
①式は単位を変更すると次式のようになります(拡散係数は定数として式内に組込み済み)。
h≒2φ
+ φ2um{583/Dv
+ 112.5/(1+0.583φum)} …②
ここで、
h:理論段高さ(HETP) (cm)
φ:樹脂の直径(cm) (=2r)
Dv:容量分配係数
um:線流速(cm/min) (=60u)
②式から分かるように、流速が遅いほど、粒径が小さいほど、また分配係数が大きいほど、理論段高さ(HETP)は小さくなります。
hとφ um, Dvの関係を図-3に示します。
図-3

φ=0.015 cm (≒100 mesh), φ=0.0125 cm (≒115 mesh)
φ=0.010 cm (≒150 mesh), φ=0.0075 cm (≒200 mesh)
一般に、適切な流速のとき、陽イオン交換樹脂の理論段高さ(h)は樹脂直径(φ)の数倍となる、と考えるとおおよその目安になります。
陰イオン交換樹脂に関しては、①式は成立しません。
100 mesh(φ≒0.015 cm)の陰イオン交換樹脂に関しては、例えば次のような経験式があります。
h ≒ 0.05um + 0.05 …③
h = 理論段高さ (cm)
um = 線流速 (cm/min)
<<バッチ法とカラム法の比較>>
金属イオンA, B (Da<Db)について、樹脂への吸着率がB:99.9%、A:0.1%となるおおよその条件は、
バッチ法では、
Dgb≒(V/G)×10^3
Dga≒(V/G)×10^-3
でした(2025-10-19)。
一方、カラム法では、
Bの溶出率が0.1%(つまり吸着率が99.9%)のとき、k=-3.09なので、
V0.1%,b= V*b-3.09σb≒GDgb(1-3.09/√Nb) [Viは無視]
Dgb≒(V0.1%,b/G)/((1-3.09/√Nb)
同様に、Aの溶出率が0.999%(つまり吸着率が0.1%)のとき、k=+3.09なので、
V99.9%,a = V*a+3.09σa≒GDga(1+3.09/√Na)
Dga≒(V99.9%,a/G)/((1+3.09/√Na)
V0.1%,b=V99.9%,aなのでこれをVとすれば、理論段がかなり小さいときであっても(たとえばNb=Na=20のとき)、
Dgb≒(V/G)/(1-3.09/√Nb)
= (V/G)×3.2
Dga≒(V/G)/(1+3.09/√Na) = (V/G)×0.6
となり、分配係数の許容範囲はバッチ法に比べてずっと広くなります。
このように、多段で分配を行うカラム法は分配1回のバッチ法に比べ分離の効率がはるかに優れていることが分かります。
また、カラム法のうち、ある成分をカラムに吸着させ、他の成分を溶出させて2種類の成分を分離する方法を特に「カラムろ過法」といいます。カラムろ過法は、試料中の微量成分の定量において、測定に先立って妨害成分から目的成分を分離したいときなどによく用いられます(*4)。このカラムろ過法において、Ringbom(*5)は「カラム沪過法」(Bをカラム内に残しAを溶出させる)を可能にするDga, Dgbのおおよその目安として、安全係数等も考慮に入れて、
Dgb>(V/G)×5 (Dgb>100~300) …④
Dga<(V/G)/5 (Dga<3~10) …⑤
としています(V:溶出液体積(mL)、G:乾燥樹脂質量(g))。
(*4)
最近、「固相抽出」という用語がよく用いられる。固相抽出とは、固相と液相(あるいは気相)間の分配現象(吸着、イオン交換など)を利用して行う分離方法であり、特に、充填剤(固相)が詰められたミニカラムを使用して試料溶液を通過させることにより、分析の前処理として目的成分を妨害成分から分離する方法を指すことが多い。固相抽出法は溶媒抽出法に比べ、操作が迅速かつ簡便であり、人体への有害性や環境負荷が少ない等の特長を持ち、最近その利用が拡大している(例えば、JIS K0102-3のキレート樹脂による固相抽出法など)。
(*5) Lingbom(田中, 杉 訳):「錯形成反応」p.207 (1965)
<<段理論の適用条件>>
前々回(2025-10-26)、段理論が成立するための前提条件について記しましたが、ここで再度、「段理論」の制限とイオン交換分離に適用するにあたってより具体的なおおよその適用可能条件を述べます。
(1) 第1の前提: カラムは何段かの「理論段」からできている。そしてこの理論段の中では、次の下段へ液体が流れる前に、固定相と移動相の間に平衡状態が保たれる。
平衡状態はかなりゆっくりと到達するので、流速が遅く、樹脂径が小さく、また架橋度があまり大きくないものを用いるときのみ、この前提は妥当となります。たとえば、架橋度8%の陽イオン交換樹脂(粒度100-200
mesh)を用いるとき、線流速を1.0 cm/min程度にすると、多くの場合この条件を満たすことができます。
(2) 第2の前提: 溶離中のどの段においても常に試料の対イオンの量は溶離液の対イオンの量よりも少ない。
この前提のため、試料の量は少量にする必要があります。経験的事実では、多くの分離において試料中の成分量は樹脂の量のおよそ0.01~0.03倍(ミリ当量単位で)以下にすべきです。簡易な分離においてはおよそ0.1倍程度に増加でき、また難易度の高い分離では倍率をずっと減少すべきでしょう。
これらの条件が満たされない場合は、溶離曲線はテーリング(後方への裾引き)、リーディング(前方への流れ出し)といった現象が起きて理論的分布から変形します。したがって、段理論による計算はあくまでも近似値に過ぎないこと、しかしながら近似値であっても実際の実験条件の設定に十分役立つことを再度述べておきます。


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