イオン交換分離法は、これまで多くの金属イオンの分離に用いられ、その有用性が認められています。今回以降、金属イオンのいくつかの代表的な分離例について説明します。今回はアルカリ金属イオンの分離を取りあげます。   

<<アルカリ金属のDg, Dv>>
陽イオン交換樹脂AG 50W-X8 HCl系におけるアルカリ金属イオンの質量分配係数(Dg)の文献値(2025-10-05文献①)およびこの値から推定した容量分配係数(Dv)を下表に示します(樹脂層の密度:ρ=0.4 gresin/mLresin)。   

2025-11-16-fig0

<<LiNaの分離>>
上表のLiNaDvの絶対値およびそれらの比(Dv,Na/Dv,Li)から考えて、イオン交換分離に適切なHCl濃度は0.2 mol/L程度が妥当と考えられます。
<必要カラム長の計算>

陽イオン交換樹脂カラム(AG 50W-X8)を用いて微量のリチウム(A)とナトリウム(B)を分離するのに必要な樹脂カラムの長さを計算で求めます(2025-11-09)
前提条件として、カラム断面積(a=1 cm2)、間隙率(i=0.38)、樹脂の粒子直径 (φ=0.01 cm(150 mesh))、線流速(um=1 cm/min)、金属イオンLi, Naそれぞれに関する容量分配係数(Dv,Li=7.6, Dv,Na=11.3 (at 0.2 mol/L HCl))、が与えられているものとします。微量のリチウム、ナトリウムを含む0.2 mol/L HCl溶液試料をカラムに注入後、0.2 mol/L HCl溶液で溶離するとき、溶出率がεa=0.9999, εb=0.0001となるのに必要な樹脂カラムの長さLを求めます。   

関係式は次式を用います(2025-11-09)
カラム(樹脂柱)
・ 樹脂柱の幾何学的容積(mL): Vr = a×L
・ 樹脂柱の間隙容積(mL): Vi = i×Vr   

Liイオン(A) (添え字はa)
・ 最大濃度における溶出液体積(mL): V*a = ViVr×Dva
・ 理論段数: Na = L/ha
・ 溶離曲線の標準偏差(mL): σa = V*a/√Na

・ 信頼係数: ka = NORM.INV(εa, 0, 1)
・ 溶出率εにおける溶離液体積(mL): Vεa = Va*kaσa
・ 理論段高さ(HETP): h = 2
φφ2um{583/Dva112.5/(1+0.583φum)}   

Naイオン(B)Liイオンと同様(添え字はb)。   

エクセルのソルバー機能を用いて、Lを求めます。
ソルバーのパラメータは、
目的セル: Q = VεaVεb = 0
変数セル: L
とします。結果を-に示します。必要なカラムの長さは14.6 cmとなりました。   

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2025-11-16-fig1

また、塩酸濃度および溶出率を変化させたときの必要カラム長さの計算結果を-に示します。   

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2025-11-16-fig2

<溶離曲線>
上記の例について、カラムの長さを10 cm, 15 cm, 20 cmとしたときの溶離曲線の計算を-に示します。カラムに添加したLiNaの物質量は等量(Q=0.01 mmol)としました。溶出液濃度の計算には次式を用いました(2025-11-02)
C = C*exp{N(VV*)^2/(2V*^2)}
C*=(Q/V*)
(N/(2π))   
理論段高さ等の計算には上記の式を用いました。
また、Vが与えられたときの
Cの値は、What-If分析のデータテーブル機能を用いて、一括して計算しました。手順は次のとおりです。
(1)
溶離液量(V=0400 mL)のインプット(G4:G84)
(2) V=0
のときのCa, Cbのコピー(H4=E19, I4=E29)
(3)
データテーブルの作成:作成範囲の指定(G4:I84) ⇒「データ」⇒「予測」⇒「What-If分析」⇒「データテーブル」⇒「列の代入セル:E17」⇒「OK
(4)
グラフの作成:範囲の指定(G3:I84) ⇒「挿入」⇒「グラフ」⇒「散布図」⇒「散布図(平滑線)」(後はグラフを適当にカスタマイズする)   

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2025-11-16-fig3

得られた溶離曲線(L=10, 15, 20 cm)-に示します。   

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2025-11-16-fig4

-から分かるようにカラムの長さを長くすると分離の程度は向上します。しかし用いる溶離液量は増加し、また溶離時間も長くなります。もちろん流速を速くすれば溶離時間は短縮されますが、理論段高さが大きくなって溶離幅は広くなり、さらにテーリングの危険性が生じます。   

<<アルカリ金属イオンの相互分離>>
陽イオン交換樹脂カラム(AG 50W-X8)を用いるイオン交換分離の条件を「カラム長(L=20 cm)、カラム断面積(a=1 cm2)、間隙率(i=0.38)、樹脂の粒子直径 (φ=0.01 cm(≒150 mesh))、線流速(um=1 cm/min)、溶離液(0.2 mol/L HCl)、金属イオンの分配係数(Dv,Li=7.6, Dv,Na=11.3, Dv,K=25.6, Dv,Rb=28.8, Dv,Cs=39.6)、各イオンの添加量(各々1 mmol)」としたときの溶離曲線を図-5に示します。KRbの分離を除いて分離は良好です。   

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2025-11-16-fig5

KRbについて、良好な分離が得られるカラム長を計算します。
上記の条件において、溶出率がεK=0.9999, εRb=0.0001となるようなカラム長を求めます。結果を図-6に示します。   

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2025-11-16-fig6

溶出率εK=0.9999, εRb=0.0001となるのに必要なカラム長さはL=137 cmであり、このとき最大濃度における溶出液体積はV*K=3.6 L, V*Rb=4.0 Lとなりました。KRbの分離に関して、この溶離系はあまり適切な方法とは言えないように思われます。   

<<いくつかの実例>>
<無機イオン交換体の利用>
上記で述べたように、KRbを良好に分離するには別の分離方法を考える必要があります。たとえば、無機イオン交換体であるリンモリブデン酸のアンモニウム塩を用い、溶離剤として0.1 mol/Lの硝酸アンモニウムを用いると、Dg,Li=0.57, Dg,Na=0.78, Dg,K=4.7, Dg,Rb=266, Dg,Cs=4024となることが報告されています(2025-10-05 文献②)

また、結晶性アンチモン酸を用い、溶離剤として0.1 mol/Lの硝酸を用いると、Dg,Li=0.9, Dg,Na=8.3×10^4, Dg,K=450, Dg,Rb=1.4×10^3, Dg,Cs=8.3×10^3となり、溶離剤の硝酸濃度を変化させること(あるいはNH4NO3の使用)によりアルカリ金属の良好な相互分離を達成しています(M. Abe: Bull. Chem. Soc. Japan, 42, 2683 (1969))。   

<溶離液へのメタノール添加>
HCl
溶離液へメタノールを添加すると、分離性がよくなることが知られています。メタノールを含む塩酸溶液を溶離液としたとき、Li, Na, Kをイオン交換で分離した例の要旨を次に示します。
「陽イオン交換樹脂アンバーライトIR-120(100 mesh, H), 水中みかけの容積12 mL, 高さ8 cmのカラムを用い、メタノール30%を含む0.2 mol/L HClを溶離液として、Li, Na, Kをそれぞれ1 mmol含む試料をカラムに加え溶離した。Liは溶出液およそ100 mL付近でピークが見られ、溶出液およそ150 mLLiはほぼすべて溶出した。しかしこのとき、Na, Kは溶出しなかった。溶出液およそ150 mLにおいて溶離液を0.2 mol/L HClに切り替えて溶離を続けると、Naはおよそ全溶出液200 mL付近でピークが見られ、全溶出液280mLNaはほぼすべて溶出した。しかし、Kは溶出しなかった。さらに、溶出液およそ280 mLにおいて溶離液を0.5 mol/L HClに切り替えて溶離を続けると、Kはおよそ全溶出液330 mL付近でピークが見られ、全溶出液400mLKはほぼすべて溶出した。(奥野ら:分析化学, 2, 428 (1953))」   

この例では、メタノールの添加および溶離液の種類の切り替えによる分離効率の向上を図っています。