これまで何回かにわたって、イオン交換分離でカラム法を用いるときの理論的考察をしてきました。今回はこれらのまとめです。カラム法は溶離に時間がかかる場合が多いので、実際に最適条件を探す実験を行う前にあらかじめ理論的考察を行っておおよその予測をたてることが有効です。
<まとめ>
イオン交換樹脂カラムを用いて2種類の成分(たとえば主成分と不純分)を分離するとき、検討すべき制御可能な条件は、使用するイオン交換樹脂の種類・特性(樹脂の種類、架橋度、粒度(直径d))、乾燥樹脂質量(G)または水中樹脂体積(Vr)、溶離液(成分、濃度)、カラムの直径(断面積S)、樹脂柱の長さ(L)、流出液の流速(u)、等です。これらの条件を決めるための実用的な関係事項、関係式を次に示します。
1)分配係数の定義Dg, Dv
条件の決定にあたって、最適条件を理論的に見積る場合、その重要な指標は分配係数(Dg, Dv)である。
Dg = (乾燥樹脂1g当りの成分量)/(溶液1mL当りの成分量)
Dv = (水中樹脂層1mL当りの成分量)/(溶液1mL当りの成分量)
Dv = ρDg [ρ:密度(乾燥樹脂質量/水中樹脂層体積)≒0.3~0.4)]
2025-10-05 イオン交換平衡(1)-基礎事項
2)分配係数の実測値、推定値
分配係数(Dg, Dv)はイオン交換樹脂の種類、溶離液の種類・濃度によって決まる係数である。分配係数は、さまざまな成書、文献に記載されている。あるいは、選択係数、錯生成定数等から推定することができる。
KH,M = [H]naq[M]r/([H]nr[M]aq)
D = [M]r/([M]aqαM) = KH,M([H]r/[H]aq)n/αM
2025-10-12 イオン交換平衡(2)-選択係数と分配係数、吸着率
3)最大濃度における溶出液体積(=保持容量)V*
溶離曲線の最大濃度における溶出液体積V*(mL)と分配係数Dの間には、乾燥樹脂の質量をG, 水中樹脂の体積をVr, 樹脂の間隙体積Viをとして、次の関係が成立する。
V* = Vi+DgG = Vi+DvVr
V*≒DgG=DvVr (D≳10のとき)
2025-10-26 クロマトグラフィー「段理論」(1)-二項分布
4)標準偏差σ、理論段N、理論段高さh
正規分布に従う溶離曲線について、
溶離曲線の幅は、正規分布の標準偏差(σ)で示すことができる。
σ= V*/√N [N:理論段数]
理論段(N)は、樹脂柱の長さを理論段高さで割った値である。
N = L/h [L:樹脂柱の長さ、h:理論段高さ(HELP)]
HELP(h)の値は、樹脂の粒度、流出液の速度、分配係数等で決まる定数である。
陽イオン交換樹脂では、
h≒2φ+φ2um{583/Dv+112.5/(1+0.583φum)}
[h:理論段高さ(HETP) (cm), φ:陽イオン交換樹脂の粒子直径 (cm), Dv:容量分配係数, um:線流速 (cm/min)]
陰イオン交換樹脂に関しては、
100 mesh(φ≒0.015 cm)の陰イオン交換樹脂の場合、次のような経験式がある。
h≒0.05um+0.05
概略の見積りならば、陽イオン交換樹脂の場合は樹脂粒直径の5倍程度、陰イオン交換樹脂の場合は10倍程度とすればよい。
2025-11-02 クロマトグラフィー「段理論」(2)-正規分布
5)分離度Rs
成分A, Bを分離するときの分離度は、次式で定義される。
Rs = 2(Vb*-Va*)/(Wa+Wb)
溶離曲線が正規分布をしていると仮定し、分離度で用いる溶離曲線の幅を
Wa = 4σa,
Wb = 4σbとすると、
Rs = (Vb*-Va*)/(2(σa+σb))
となる。
2025-11-02 クロマトグラフィー「段理論」(2)-正規分布
6)溶出率εと溶出液体積Vε
溶離曲線が正規分布をしている場合、溶出率がεとなるときの溶出液体積をVεとし、最大濃度の溶出体積をV*、その標準偏差をσ、信頼係数をkとすると、
Vε =
V*+kσ
Vεはエクセル関数を用いると、
Vε=NORM.INV(ε,V*,σ)
で与えられる。
k値は、V*=0,
σ=1のときの
k=NORM.INV(ε,0,1)
から求めることができる。
たとえば、ε=0.999
(99.9%)とすると、
k=NORM.INV(ε,0,1)=3.09
Vε=V*+kσ=V*+3.09σ
もし、V*=100 mL, σ=5 mLとすると、
Vε=V*+kσ=V*+3.09σ=115.5 mL
つまり、溶出液が116 mLのとき、溶出率は99.9%より大きい。
また、ε=0.001(0.1%)とすると、
k=NORM.INV(ε,0,1)=-3.09
Vε=V*+kσ=V*-3.09σ
となる。
2025-11-09 イオン交換分離-カラム法の条件
7)必要カラム長さL
成分A, Bを分離するのに必要なカラムの長さ(L cm)は、AとBの溶離曲線が正規分布をしている場合、AとBの溶出率がそれぞれεa, εbとなるときの溶出液体積をVεa, Vεb、最大濃度の溶出液体積をVa*, Vb*とし、その標準偏差をσa, σbとすると、
Vεa = V*a+kaσa
Vεb = V*b+kbσb
となる。
したがって、
Vεa = Vεb
を与えるLが必要な樹脂柱の長さとなる。エクセルのソルバー機能でLを求めることができる。
前提条件として、カラム断面積(S (cm2))、間隙率(i)、金属イオンA, Bそれぞれに関する容量分配係数(Dva, Dvb)、理論段高さ(HETP)
(ha, hb (cm))、溶出率(εa, εb)が与えられているものとする。
2025-11-09 イオン交換分離-カラム法の条件
8)カラム沪過法の可能条件
以上の理論を踏まえて、成分A, B(A:溶出成分、B:吸着成分)をカラム沪過法で分離するとき、安全率も考えてカラム沪過法が可能となるおおよその条件を、
V*b/5>Vb
5V*a<Va
Va = Vb = V (=溶出液量)
とすると、分配係数の条件は、
Dgb>5V/G および Dga<V/(5G)
または
Dvb>5V/Vr および Dva<V/(5Vr)
たとえば、V/G=20~60とすると、
Dgb>(100~300)
および Dga<(3~10)
となる。
2025-11-09 イオン交換分離-カラム法の条件
9)マトリックスの吸着
マトリックス成分を吸着させる場合は、さらに、交換容量を考慮する。必要なカラムの長さ(L cm)は、
L>(1.5~2)×(w/M)×n/(Cpv×S)
[1.5~2:安全係数、w:試料質量(mg)、M:モル質量(g/mol)、n:吸着イオンの価数、S:カラムの断面積(cm2)、交換容量Cpv:1~2(meq/mL)]
2025-12-07 カラム法による分離(4)-塩化物錯体


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