前回(2026-01-18)の続きです。今回は、第1属分属後のPb(II)の属内分離および確認試験に関する考察です。   

<<第1属のフローチャート>>
第1属の分離操作のフローチャートおよび確認操作の概要は図-1の通りです(前回の再録)

図-1
2026-01-25-fig0

<<PbCl2の溶解と確認>>
PbCl2の熱湯による溶解>
一般に塩類の溶解度は温度の上昇とともに大きくなる傾向にあります。PbCl2, AgCl, Hg2Cl2の溶解度と温度の関係を-に示します(化学便覧のデータをmol/Lの単位に変換。溶液の密度は1.00 g/Lとした)。   

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2026-01-25-fig1

AgCl, Hg2Cl2は溶解度が小さく、常温でも高温でも沈殿はほとんど不溶のままですが、PbCl2AgCl, Hg2Cl2に比べ溶解度が比較的高く、温度が高くなると沈殿がかなり溶けるようになります。   

検液中のPb, Ag, Hg(I)濃度をそれぞれ0.010.05 mol/L, 液量を1 mLとして、これにHClを加えてろ過洗浄した沈殿に90℃程度熱湯3 mLを加えるとPbCl2はすべて溶解します(90℃程度の熱湯に対するPbCl2の溶解度は約0.1 mol/L)。一方、90℃程度の熱湯に対するAgClの溶解度は1×10^-4 mol/L程度であり、90℃程度熱湯に接してもAgCl沈殿はほとんど不溶のままです。またHg2Cl2も同様と考えられます。したがって、熱湯によってPbAg, Hg(I)から分離することができます。 

Pb2+の確認>
Pb2+
イオンの確認には、ベンジジン試薬、K2CrO4, KIなどが用いられます。ここでは、Pb2+イオンとK2CrO4の反応について調べます。   

K2CrO4によるPb2+の確認方法は次の通りです。PbCl2を含む確認用溶液1 mLに飽和酢酸アンモニウム溶液2滴を加え(この時酢酸アンモニウムの濃度は約1.8 mol/L)0.5 mol/LK2CrO4 1滴を加えて黄色の沈殿が生成したらPb2+イオンの存在を示す」
このとき、酢酸アンモニウム溶液を添加する理由を考えます。
-から分かるように、熱湯に対するPbCl2の溶解度は、約0.1 mol/Lです。また常温(25)の水に対するPbCl2の溶解度は0.04 mol/Lです。したがって、PbCl20.04 mol/L以上含む熱溶液を冷却すると沈殿が生じます。このとき酢酸アンモニウムを加えるとどうなるか計算(エクセル)で調べました。用いた関係式は次の通りです。
計算結果を-に示します。   

-
2026-01-25-fig2

計算の結果、-(A)(E)のカラムについて次のことが言えます。
(A) PbCl2
全濃度(Cpb)0.01 mol/Lのときは常温(25)で沈殿しない。
(B) Cpb = 0.05 mol/L
のときは常温で沈殿する。
(C)
計算上、25℃におけるPbCl2の溶解度は0.029 mol/Lである(実験値は0.039 mol/L)
(D) Cpb = 0.05 mol/L
のとき、酢酸アンモニウムを1 mol/L共存させると、常温で沈殿しない。
(E) Cpb = 0.05 mol/L
のとき、PbCl2が沈殿しないための酢酸アンモニウムの最低濃度は0.08 mol/Lである。
以上のことから、比較的高濃度のPbCl2を含む熱溶液は冷却すると沈殿が生じますが、酢酸アンモニウムが共存すると、PbCl2の沈殿が生じないことが分かります。これは、酢酸錯体の生成によるものです。
Pb2+
2Ac- PbAc2(aq)   

PbCl20.01 mol/L含む確認用溶液に酢酸アンモニウム1.8 mol/Lを共存させ、K2CrO4を加えていったときのK2CrO4濃度とPbCrO4の沈殿率の関係を-に示します(*1)0.01 mol/LPbCl2溶液に対して当量以上のK2CrO4を加えると、沈殿が完全に生成することが分かります。   

これらのことから、上記フローチャートにおいて、例えば検液1 mL中のPb濃度が0.03 mol/Lのとき、PbCl2沈殿を熱水3 mLで溶解し(確認用溶液のPb濃度:0.01 mol/L)、これに0.5 mol/L K2CrO4 2(CrO40.05 mmol)を添加することは適切と考えられます。
PbAc2(aq)
CrO42- PbCrO4(黄色) 2Ac-   

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2026-01-25-fig3

(*1) ソルバーによるエクセルシートの作成
<
平衡定数>
Kspr = [Pb][CrO4]
 , logKspr=-13.75
Kspc = [Pb][Cl]^2
 , logKspc=-4.78
Kr1 = [H][HCrO4]/[H2CrO4]
 , logKr1=0.2
Kr2 = [H][CrO4]/[HCrO4]
 , logKr2=-6.51
Ka = [H][Ac]/[HAc]
 , logKa=-4.76
Kn = [H][NH3]/[NH4]
 , logKn=-9.25
βcj = [PbClj]/([Pb][Cl]^j)
 logβc1=1.59, logβc2=1.8, logβc3=1.7, logβc4=1.4
βak = [PbAck]/([Pb][Ac]^k) , 
 logβa1=2.7, logβa2=4.1
<化学種濃度>
[H] = 10^-pH,  [OH] = Kw/[H]
[Pb] = Kspr/[CrO4]
[PbClj] =
βcj[Pb][Cl]^j
[PbAck] =
βak[Pb][Ac]^k
[CrO4] = 10^-pCrO4
[HCrO4] = [H][CrO4]/Kr2
[H2CrO4] = [H][HCrO4]/Kr1
[Cl] = 10^-pCl
[Ac] = 10^-pAc
[HAc] = [H][Ac]/Ka
[NH3] = Can/(1+[H]/Kn)
[NH4] = [H][NH3]/Kn
[K] = 2Ccr
<物質バランス>
Ccr = [CrO4
][PbCrO4]solid = ([PbCrO4]+[CrO4]+[HCrO4]+[H2CrO4])[PbCrO4]solid
Cpb = [Pb
][PbCrO4]solid = ([Pb]+Σ[PbClj]+Σ[PbAck])[PbCrO4]solid
Ccl = [Cl
] = [Cl]+Σj[PbClj]
Cac = [Ac
] = [Ac]+[HAc]+Σk[PbAck]
<電荷バランス>
Q =
Σ{(電荷)×[イオン濃度]} = 0
<沈殿率>
沈殿率(%) = (Cpb[Pb])/Cpb×100
<ソルバーのパラメータ>
変数セル:pH,  pCl,  pAc,  pCrO4
目的セル:Q = 0
制約条件:
R1 = 2Cpb[Cl] = 0
R2=Can
[Ac] = 0
R3 = (Cpb
[Pb])(Ccr[CrO4]) = 0
([Pb]/Cpb <= 1)
([Pb][Cl]^2/Kspc <= 1)